貴方を
気付いたら、見たこともないような綺麗な場所にいた。
ふかふかな布に白く綺麗な布の塊の上に寝ていた。
窓から見える景色は、見たこともないような植物が生えており、あれは食べられるのだろうか、と考えていた時、ドアの叩く音がした。
ガチャ…
いきなり開いたドアにビクリと体が震え、入ってきた目の前の男をじっと見つめた。
「あれ、気付いた?」
男はにこやかに、何かいい匂いをさせたものを持って近づいてきた。
「………」
「私はジェーン。ジェーン・クロイツフェルト。君、名前は?」
「……な、まえ…?」
「……君は迷いの森の近くに倒れていたんだよ。血だらけだったけど、傷は無かったし、念のためにここまで運んできたんだ。何があったのか、何処から来たのか、詳しく話をしてくれると嬉しいな」
何も答えられずにいると、ぐぅ〜っと大きな音が腹から聞こえ、目の前の男は笑って手に持っていた良い匂いのものを差し出してきた。
「はは、ごめんごめん、何よりもこっちが先だったね、一緒に食べよう」
「……いっしょ……?たべる……?」
「……そうだよ、今日はいつも料理を作ってくれる人が居なくてね、僕の作った簡単な物でごめんね、でも味は悪くないと思うんだ!」
そう言って目の前の男は白い物を食べ始めた。
後に、これを「サンドウィッチ」と言う食べ物だと知った。この日に食べた物は今まで食べてきたどんな物よりも美味しかった。
それからジェーンのいる所で、様々なことを学んだ。
言葉や、文字、この国のこと、礼儀作法、魔法と言われる不思議な力、人体の仕組み、そして、悪魔や魔族のことも。
「この国の、力になってくれないだろうか」
「君が必要なんだ」
「君の魔法は素晴らしい。魔法だけじゃない、その身体能力もだ」
「君はきっと第二の"英雄"になれる」
「君は悪魔なんかじゃない。僕たちと同じ人間だよ」
ただ、嬉しかった。他の人に必要とされたことが、認められたことが、生きていて良いのだとそう思えた気がした。
何よりも嬉しかったのは、名前を与えられた事。
「ルナーク」
そう、ジェーンに付けてもらった。
名前を呼ばれることの嬉しさは、今まで生きていて良かったと初めて思えるほどのものだった。