ずっと
「この化け物が」
「なんて気味の悪い」
「呪われる」
「関わりたくもない」
「さっさと死ねば良いのに」
「お前のせいであいつは死んだんだ」
「あそこから出るなって言っただろうが」
物心がついた時にはすでに言われていた言葉。直接関わることを恐れ、直接的な暴力と言えば、石を投げつけられることくらいだったのは果たして幸いだったのだろうか。彼らは口々に言った。「黒髪に黒い瞳は悪魔の象徴だ」と。
次第になかなか死なない子供を恐れ、小屋に閉じ込められるようになった。
自分が本当に悪魔なのかは知らない。けれど、1日で大体の傷が治ってしまうこと、食事を与えていないのにしぶとく生きていることを周りは酷く恐れ、それが悪魔の証拠なのだと言われればそうなのだろうと思った。
ただ、食べ物に関しては自分で見つけているに過ぎなかった。鍵のかかった扉を、動物の骨から削って作った特性の鍵を使い、夜に密かに抜け出して。
目につく物は何でも食べた。どれを食べると腹を壊すのか、どれを食べても平気なのか。雨の日は特にいい。外に出る人がまず少なく、物音を少し立てたときても気付かれにくいし、安全な水を飲むことができた。
そんな生活の中、何度も死のうとしたし死にそうになった。それでも死ねずに生きてしまった。
そしてある日、畑が荒らされたと男が怒鳴り込んできた。お前が盗んだんだろう、と。男は何度も、何度も、暴力を振るった。まだ子供だからと生かしてやっていたのに、そう最後に行ってどこかへ行った。
開いたままの扉から見える外の彼らは、遠巻きにヒソヒソと話していて、目が合えば悲鳴を上げて一緒にいた人とどこかへ行った。けれど、確かに聞こえた。「…今夜、ついに燃やすらしいわよ…」と。
それで死ねるなら、それもいいのかもしれない。もう、動こうとする気力すら無かった。
無かった、はずなのに。
もうずっと出ていなかった涙が溢れた。
以前聞いた子供たちの話を思い出し、ゆっくりと立ち上がった。
昼は外を出られないから、夜に行動するために基本的に寝ていることが多かった。そんななか、たまに小屋の外から子供たちの声が聞こえることがあった。親が仕事をしている間、子供たちは度胸試しとしてか、ここに来ていたようだった。
「お前俺の仲間になりたかったら、あの化け物殴ってこいよ、そしたらお前を認めてやる」
そう誰かが言った。
「無理だよ、呪われる!ここに来ることだってダメだって大人たちに言われてたじゃないか」
震えた声は、もうすでに泣き出しそうなほどに弱々しかった。
「だからだよ、知ってるか?英雄は、悪い奴を倒した奴がなれるんだぜ」
「お前はあの戦争を終わらせた英雄ジーク様みたいな騎士になりたいんだろ?そんな奴がこんなこともできなくて、騎士に、英雄になりたいなんて笑わせるなよ」
「…そ、それでもっ、近くに来てるって噂のジーク様を見てみたいって思うくらいいいじゃないか…!憧れるくらい僕の勝手だろ!」
結局子供は泣き出して、走り去ってしまった。
不思議と耳に残った「えいゆう」と言う言葉。「わるいやつ」というものをもし倒したら、何か変わるのだろうか。
夜、外を歩いている時に聞こえた「生まれてきてくれてありがとう、愛してる」「ありがとう、大好きお母さん、お父さん」温かな光と笑い声。
今まで誰にも言われたことのない言葉。意味はよくわからなかったけれど、泣きそうになったことだけは覚えている。
「嫌!!!」
「化け物が出てきたわ!誰か!!」
「おい!待て!!」
走って走って、そのうち何も聞こえなくなった。