わたくしは地味で目立たない公爵令嬢。二人のおバカな女性を踏みつけて最高に日の当たる場所に参ります。
「お父様。当然、この婚約話はわたくしにあったお話でしょう?」
姉であるアイリーナがにこやかに微笑む。
アイリーナはハルデブルク公爵家の長女である。
父であるハルデブルク公爵は頷いて。
「勿論。そうだ。だが、お前は首を縦には振らないのだろう?」
「ええ。当然ですわ。わたくしは諦めておりませんから。この国の最高位の男性…そうでなくては首を縦に振りませんわ。」
「それならば、この婚約話は妹のルティリアに。」
「それはなりません。何故?妹がわたくしより先に婚約せねばならないのです?姉が決まってから妹が決まる。当然じゃないですか?お父様。それに、相手もがっかり致しますわよ。わたくしのように美しくない妹が代わりにだなんて。」
「それは確かに…」
ルティリアはまたか。とため息をつく。
黒髪で地味な容姿のルティリアは17歳。
いまだ、婚約者がいないのは、姉があまりにも華やかだった為、妹のルティリアまで婚約話が回ってこないのだ。妹を代わりにと父であるハルテブルク公爵は考えたりするのだが、姉の強固な反対にあっていつも断念する。
相手の家も、妹ではなぁと言う反応なので、ルティリアは自分の婚約は諦めていた。
それに対して姉のアイリーナは見事な金の髪、エメラルド色の瞳を持ち美しくて有名であった。歳は18歳。
もうすぐ王立学園卒業である。
こんな美しくて高貴なアイリーナが何故、いまだに婚約者がいないのか?
我儘なアイリーナは、色々な家からの婚約の申し込みに首を縦に振らなかったのだ。
自分は名門であるハルデブルク公爵家の長女である。
嫁ぐならば、最高の男でなくてはならない。
しかし、この国の最高位のレイド王太子殿下は、歳は18歳。すでに婚約者がいた。
イレーネ・ホルディス公爵令嬢。この令嬢も美しく王立学園での成績も優秀で。ホルディス公爵家も名門だった。
イレーネも18歳。3年前からイレーネは婚約者に定められており、卒業と同時に二人は結婚する事が決まっていたのだ。
イレーネよりもアイリーナの方が美しく、学園の成績もよい。
自分の素晴らしさに気が付いて、王太子殿下からいつか、自分に婚約話が来る。
そう信じていたアイリーナは、学園でもイレーネを差し置いて、イチャイチャとレイド王太子に近づいていたのである。
イレーネも又、気の強い公爵令嬢だった。
レイド王太子を挟んで、二人は言い争いをする。
「アイリーナ様。王太子殿下はわたくしの婚約者なのです。失礼では?」
アイリーナも負けてはいない。
「イレーネ様。貴方より、わたくしの方が優秀でしょう。美しいでしょう?王太子殿下。婚約者をわたくしに変えては如何。未来の王妃にふさわしいのはわたくしの方ですわ。」
レイド王太子は呆れたように、
「アイリーナ。私の婚約者はイレーネだ。すまないが、距離を取って貰えないだろうか。」
「王太子殿下は見る目がありませんわね。」
そんな様子を、そっと陰から見ているルティリア。
本当に我が公爵家の恥さらしな姉…
美しくて優秀だと言うけれども、宿題の論文は、全てルティリアに押し付けて来る。
論文さえ出来が良ければ、優秀とみなされる王立学園。
姉は美しいけれども、優秀ではないのよ。
両親も、学園の皆も姉に騙されて…
婚約を申し込んで来る人達もそう。
姉は美しいだけで、頭は空っぽなのよ。はしたない女なのよ。
ルティリアは心の中で笑った。
それにイレーネと言うレイド王太子殿下の婚約者はとても性格が悪い。
身分が下の令嬢達には嫌味ばかりを言い、顎で使っているような女性だった。
ルティリアは姉の事で、廊下でぐちぐちと文句を言われた。
「貴方の姉のアイリーナ。どうにかして欲しいわ。」
「申し訳ございません。」
頭を下げて謝罪する。
しかし、イレーネはグチグチと、
「どうにかしろって言っているのよ。貴方。本当にちょっと頭がいいからって、何よ。その目は気に食わないわ。」
思いっきり頬を引っ張だかれた。
カバンを取られて廊下に叩きつけられる。
見物している生徒達をイレーネは睨みつけた。
皆、イレーネを敵に回したくないので、視線を逸らして見ないふりをする。
酷い女である。
レイド王太子の前では、猫を被りまくっているのである。
優しい令嬢を演じているのだ。
彼女は優秀だと言われているが、論文なんて、誰かに書かせているかもしれないのだ。
あの女が未来の王妃だなんて。笑わせるわ。
まぁイレーネなんて女の事はどうでもいい。
あの嫌味な女が王妃になったって、王宮で毎日顔を合わせる訳ではないのだ。
問題は姉だ。あの姉が不敬をやらかして、王家に罪を問われるのをルティリアは待っているのだ。
姉がいるから、自分は霞んで幸せになれない。
姉さえいなくなれば、自分を見てくれる人が現れるかもしれない。
だが、レイド王太子殿下は不敬であると学園に報告し、姉を学園から追い出そうとはしない。
学園から追い出されたら、さすがの父も黙ってはいないだろう。
姉を修道院送りにする可能性が高い。
何故、姉に不敬を問わないの?
何故?何故?
レイド王太子殿下に話しかける事なんて事は、それこそ王家に対して不敬であろう。
イライラして過ごしていたのだが…
「貴方、ハルデブルク公爵家の妹さんの方?」
中庭のベンチで本を読んでいたら、声をかけられた。
顔を上げて見れば、レイド王太子殿下の双子の姉、リアナ王女である。
レイド王太子と同様、金髪碧眼のこのリアナ王女は美しかった。
「これはリアナ様。わたくしに何の御用でしょうか?姉がまた不敬をやらかしましたか?」
リアナ王女にベンチの席を譲る為に立ち上がれば、リアナ王女はベンチに腰かけて、
「貴方も隣へ腰かける事を許すわ。」
「有難うございます。わたくしはハルデブルク公爵家のルティリアと申します。」
「ルティリア…。貴方、磨けば光りそうね。それに成績もとても優秀だとか。」
マジマジとこちらを見つめて来るリアナ王女。
リアナ王女は、
「イレーネは美しく優秀だと言われているけれども、実際は王妃教育を施しても物覚えが悪くて。性格も難あり…近々、婚約破棄をされるでしょう。学園の成績を決める論文も誰かに書かせている可能性が高いわね。そして次のレイドの婚約者候補をわたくしが直に会って探しているの。勿論、貴方の姉なんて論外。成績優秀らしいけど?あんな恥知らずな女性に未来の王妃を任せる事は出来ないわ。」
「それでわたくしに?あの…わたくしは美しくありませんわ。」
「貴方は磨けば光るわ。身長もあるし。わたくしはレイドに貴方を推薦するわ。その前にハルデブルク公爵家に話を通さないと。いいわね。」
チャンスがやってきた。
姉より自分を推薦すると言うリアナ王女。
日陰の身に日が差したのだ。
ルティリアはとても嬉しかった。
王家の使者から直々にハルデブルク公爵へ話があった時、父は驚いて。
「アイリーナではなくルティリア?間違いでは?」
使者はうやうやしく、
「王家はルティリア様をレイド王太子殿下の婚約者にと望んでおります。」
そこへ姉のアイリーナが叫んだ。
「間違いよ。何でルティリアなのよ。わたくしがレイド王太子殿下の婚約者になるのよ。次期王妃になるのよ。」
使者が持ってきたルティリアへのドレス。
箱に入っていて、今度、王太子殿下とお茶をするときに着て来るようにとプレゼントされた物だ。
箱の中を先程開けて確認したのだが、綺麗な桃色のドレスが入っていた。
そのドレスに、アイリーナは紅茶をかけ、ハサミを持ち出しズタズタにした。
ルティリアは泣きたくなった。
そして怒りが沸々と湧いた。
どこまでも自分を馬鹿にして…綺麗なドレスをプレゼントされて嬉しかったのに。
アイリーナはホホホと笑って、
「これで貴方は着て行くドレスもない。断りなさい。お父様、わたくしをレイド王太子殿下に推薦なさい。いえ、わたくしがルティリアの代わりにお茶会に行くわ。いいわね?ルティリア。貴方は当日、部屋で大人しくしているのよ。」
ルティリアは頷くしかなかった。
翌日学園へ登校したら、イレーネに絡まれた。
「貴方…貴方が新しい婚約者に決まったそうね。許せない。許せないわ。」
ドレスの事で落ち込んでいたルティリア。
それでも毅然とした態度で。
「王家が決めた事です。貴方が婚約破棄された事も、わたくしが新たな婚約者に選ばれた事も。全て王家が決めた事。」
「覚えてらっしゃい。」
イレーネは走り去った。
胃が痛くなる。それよりも今はドレスの件だ。
失意のどん底で、中庭のベンチに座っていたら、レイド王太子殿下に声をかけられた。
「ルティリア。」
「レイド王太子殿下。」
慌てて立ち上がる。
レイド王太子は、にっこり笑って、
「私のプレゼント、気に入ってくれたかな?」
「それがその…」
姉にドレスを汚されて、ハサミでズタズタにされたとは言えない。
どう言い訳をしたらよいのか…
わざと目を伏せて暗い表情をしてみる。
レイド王太子はルティリアを優しく見つめて、
「何があった?話してごらん。」
「ごめんなさい。わたくし…」
アイリーナが現れて、
「この子ったら、粗相をして、ドレスを駄目にしてしまったのですわ。こんなどうしようもない妹が婚約者なんて。わたくし恥ずかしくて。今度のお茶会はわたくしが行きます。わたくしが貴方の婚約者にふさわしくてよ。」
リアナ王女が現れて、両腕を組んでアイリーナの前に立ちはだかり、
「下賤な。我が王家はルティリア・ハルデブルク公爵令嬢をレイドの婚約者に指名したのです。貴方なんて出る幕ではないわ。」
「まぁリアナ様。あんな冴えない女より、わたくしの方が余程、美しいですわ。そうでしょう?レイド王太子殿下。」
レイド王太子はフンと鼻で笑って、
「お前の方が美しいと言うか。それならば、試験をしてやろう。来週の王家のパーティで、見事、マディニア王国の皇太子夫妻を接客してみるがいい。アイリーナとルティリア。どちらが未来の王妃にふさわしいか、見極めてやろう。」
アイリーナはニンマリ笑って、
「わたくしの方がふさわしいに決まっていますわ。」
ルティリアは頭を下げ、
「わたくし、頑張りますわ。王太子殿下。」
リアナ王女がルティリアに向かって囁く。
「貴方は髪が黒髪だから…でも、巻き髪にすれば、とても華やかになるわ。当日はわたくしが貴方を美しく変身させます。良いですね。」
「ありがとうございます。リアナ王女様。」
アイリーナが睨んで来る。
「いくら、冴えないルティリアが化粧をしようが、わたくしを越える事なんてありえない。わたくしは王国一、美しいと言われているのよ。信じられない。」
リアナ王女はきっぱりと言い切る。
「王妃になるには品も必要なのよ。貴方みたいな下品な王妃。我が王国に必要ないわ。」
「わたくしが品がないですって?」
「さぁ、ルティリア。ドレスを選びましょう。わたくしのドレスを貸してあげるわ。」
ルティリアは嬉しかった。リアナ王女が味方になってくれる。
そして…
レイド王太子がルティリアと二人でお茶をしたいと言うので、姉に内緒で学園の放課後、王宮の庭でお茶をした。
制服姿のままで良いと言うので、ドレスを着て来ていない。
レイド王太子はルティリアに、
「君の成績は優秀らしいね。それに品がある。イレーネもアイリーナも品が無くてね。未来の王妃は品の良さが求められる。」
「わたくしで務まるでしょうか…」
「それでは質問しよう。私が書いた論文。君なら覚えていると思うが。」
「王太子殿下の論文。ピヨピヨ精霊が住む森の復活計画ですね。勿論、拝見いたしました。」
ピヨピヨ精霊とは丸い姿に、つぶらな瞳、嘴がついており、小さな羽が生えた精霊である。
どこぞの王国の森に住んでいたのだが、人間に追われて今、女神レティナの神殿にいると言われている精霊なのだ。
レイド王太子は紅茶を飲んでから、
「どこの国も女神レティナの恩恵にあやかりたい。女神レティナの力は偉大だ。それに一番手っ取り早いのが、女神レティナが神殿に保護しているピヨピヨ精霊達が住める森を作る事だ。幸い、我が王国は温暖な気候。一年を通してピヨピヨ精霊達が住める。」
「今度いらっしゃる皇太子殿下夫妻のマディニア王国も、積極的にピヨピヨ精霊の住む森を作っていると噂を聞きました。」
「マディニア王国は北の方にあるから、冬は雪が降り、ピヨピヨ精霊が住むのに適さない。だが、マディニア王国は前向きだ。ピヨピヨ精霊が冬に住む住処を作ればよいだろうと、建設中との事。我が国も負けてはいられない。」
「わたくし、協力致しますわ。レイド様の論文は素晴らしい物でした。幸い、我が国はピヨピヨ精霊が好きなハチミツ。養蜂がマディニア王国と比べて盛んです。森へハチミツを運ぶ道を整備しなくてはなりませんね。」
「そこだっ。そこが大事なのだ。我が国は道は悪路。森へ続く道は細い道が多い。ハチミツを運べる道の整備。それはとても大事な事だ。」
色々とレイド王太子と話をした。
ルティリアはとても幸せを感じた。
そして、やったと思った。確実にレイド王太子殿下から気に入られている。
手ごたえを感じた。
日が傾いて来たので、レイド王太子は、
「また、ルティリアと話をしたい。」
「わたくしもですわ。」
ルティリアの心は幸せに包まれた。
姉よりも自分は日向に出て輝くのだ。
そして、王家のパーティーの当日。
黒髪を綺麗に巻いて貰い、薄く化粧を施したルティリア。
深緑のドレスは美しく、レイド王太子はルティリアに手を差し出して、
「エスコートをさせて欲しい。ルティリア。」
「お願い致しますわ。」
金のドレスを着て、キツイ化粧をして現れたアイリーナは、悔し気にルティリアを睨みつける。
その姉をちらりと見て、ルティリアは、
- なんて品のない化粧。姉らしいわ。うふふふふ。-
内心でせせら笑った。
公爵家の姉付きのメイドを買収し、品のないキンキラキンのドレスを選ぶように誘導させた。化粧も派手にメイクするように密かに命じた。
勝負なのだ。
策は必要だ。
マディニア王国の皇太子夫妻がにこやかに挨拶をしてきた。
「久しぶりだな。レイド。こちらは妻のセシリアだ。」
レイド王太子はディオン皇太子と握手を交わす。そして、セシリア皇太子妃の手の甲にキスを落とし。
「ようこそ、我が王国へ。」
「ご招待感謝致しますわ。」
ディオン皇太子はレイド王太子に、
「ピヨピヨ精霊の森、そちらも作っているらしいな。女神レティナがどちらの森を選ぶか。我が国を選んでもらって恩恵はこちらが貰うぞ。」
レイド王太子も負けてはいない。
「それはどうか。そちらの気候は冬が厳しい。ハチミツだって我が国程、採れないだろう。ピヨピヨ精霊の餌のハチミツが少なければ、困るのではないのか?」
「何の。輸入と言う手があるだろう。隣国から輸入をする約束を取り付けている。」
そこへ割って入って来たのが、アイリーナだ。
「わたくし、アイリーナ・ハルデブルクと申します。レイド王太子殿下の婚約者ですのよ。オホホホ。たかが精霊、取り合う程の物ですか?精霊などより、もっと美しい物があるではないですか。例えばわたくしなど。」
レイド王太子もディオン皇太子も黙り込む。
セシリア皇太子妃が、
「ピヨピヨ精霊を知らないだなんて…ピヨピヨ精霊は女神レティナ様のお気に入りなのですよ。女神レティナ様は愛の女神ですけれども、豊穣の力、気候を操る力…万能の女神様なのです。ピヨピヨ精霊の森を作り、精霊達を女神様の神殿から引き取る事が出来たら、その国は大いなる恩恵を受ける事が出来るとされていますわ。」
ルティリアも頷いて。
「さすがセシリア皇太子妃様。まさにその通りですわ。わたくしはルティリア・ハルデブルクでございます。」
レイド王太子はルティリアを二人に紹介する。
「私の婚約者はこちらの令嬢だ。」
「違うーーー違うわ。わたくしが婚約者よ。」
アイリーナがルティリアに掴みかかる。
「わたくしの方が美しいのよ。わたくしの方がっ。」
ルティリアの髪に手を伸ばしてきた。
ディオン皇太子が、アイリーナの腕を捻り上げて、
「この女を拘束しろ。」
宮殿の警備兵に命令する。警備兵はアイリーナを拘束し、連れ出して行った。
ルティリアは安堵する。
「助けて頂き有難うございました。」
レイド王太子も、ルティリアを抱き寄せて、
「本当に、困った女だ。アイリーナは。君の姉だからと大目に見ていたが、いい加減にしないとな。」
「え?わたくしの事を以前から知っていたのですか?」
「勿論。姉上に頼む前から君の事は知っていた。優秀な令嬢がいるってね。イレーネと言う婚約者がいたものだから、君に近づけなかったが。もっと早く君と会って色々と話がしてみたかった。」
「そうですの。嬉しいですわ。」
「ルティリアしか私の妻はいない。」
ルティリアは幸せを感じた。
やっと日の当たる世界に行けたのだ。
自分は国で最高位の男性に嫁ぎ、最高位の女性となって輝くのだ。
アイリーナは修道院行きになった。
修道院へ行く馬車に強引に乗せられる時でも、アイリーナは喚き続けた。
「わたくしの方が美しくて優秀なのよ。何故、わたくしが修道院に?未来の王妃のわたくしがっーーーー。」
修道院へ行っても、
「今はここにおりますけれども、そのうちにレイド王太子殿下が迎えに来て下さるわ。わたくしよりルティリアを選ぶなんて。あんな冴えない妹を選ぶなんて考えられない。」
と、言い続けて、レイド王太子を何年も何年も待ち続けたと言う。
勿論、レイド王太子が迎えに行くはずもなく…
ルティリアはレイド王太子の婚約者に正式に内定した。
一年後に王立学園を卒業する。
そうしたら結婚する事になっている。
何としても女神レティナの恩恵を受ける為に、ピヨピヨ精霊の森を完成させなくてはと、レイド王太子と共に奮闘している日々。王妃教育も施されてとても忙しい。
でも、毎日が充実していて幸せだ。
リアナ王女とは生涯の良き友となった。
名門公爵家へリアナ王女が嫁いだ後も、何かと会っては色々と相談に乗ってもらったりした。
元婚約者のイレーネが、ルティリアの乗る公爵家の馬車に使用人に命じて細工をしてきた時も、王家の陰が見破ってくれて、イレーネを牢獄へ送る事が出来た。
こうして邪魔者が一人、又、減ったのだ。
ルティリアは自分の部屋で、一人グラスにワインを注ぎ祝杯をあげた。
屋敷の窓から姉が連れていかれた修道院がある北の方角を見つめ一人呟いた。
「馬鹿なお姉様。もっと賢く振る舞えば王太子殿下に気に入っていただけたでしょうに。でも、いい気味だわ。お姉様がいなくなってわたくしはこの国の日の光となって輝くわ。うふふふふ。うふふふふふふ。
イレーネって言う女も馬鹿ね。もっと王妃教育、努力していればよかったのよ。わたくしは努力しているわ。とても大変だけれども…それでも、牢獄で過ごすよりはマシよ。一生牢獄で苦しんで過ごせばいいわ。」
のちに王妃になったルティリアは、レイド王太子との子を男の子ばかり三人産んで、賢い王妃として、名を残した。
アイリーナについては何年も王太子殿下を待ち続けたと言われているが、一生修道院で過ごしていたのか記録が残っていない。
ひっそりと冴えない一生を終えたのであろう。
イレーネは一生牢獄から出る事も出来ず、それでも20年程生きて、病で亡くなったと言われている。