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第六話 『火蓋切れ!』

十月二十六日より連載を再開します

 ブランケト公国最大の山賊団である『ヴィフラフォン山賊旅団』凡そ二百五十騎は、ツェーリング王国国境警備隊約六十余騎を打ち破ぶり、その勢いのままロヴェヘネ砦へと向かって進軍していた。彼らの目的は新しく王国との国境線に築かれた砦を偵察することである。

 先頭を馬に乗って走っていた筋骨隆々とした男は、大きなため息をついていた。



「はぁぁぁ……。面倒くせぇな、たくよ。今日はタダ酒飲みまくれると思ったのになぁ……」


「……隊長、もう諦めてくだせぇ」



 隊長と呼ばれた大男のすぐ後ろを駆けていた小男が答えた。



「そりゃ俺らもタダ酒を浴びるほど飲みたいっスが、俺らは国からの依頼があったら必ず出にゃならんのですから仕方がないッス。真面目に働いて上納金を納めないと首に縄をかけられちまいますゼ」


「そんなこたぁわかってらぁ! だがよ、今日は団長の叙爵式だぞ。団長の念願が叶う目出度い日だ。そんついでにオレらも騎士になる。それらを祝して王城で宴会が行われるってのに他の団員たちがタダ酒飲みまくってる中、オレらだけが飲めねぇのはないだろ!」



 彼ら二百名は山賊団内でも屈指の実力者であり、ツェーリング王国から指名手配されるほど多数の略奪行為に成功している。そんな彼らの実力を誇っていた団長は宴会の席で自慢げに語っていると、それを妬ましいと思った複数の貴族による挑発に乗ってしまい公国が出していた砦への偵察依頼を受けてしまったのだ。



「そういえば隊長、今回は村の略奪は行わないんすか?」



 小男は隊長に今回の収入について訊ねた。隊長は渋い顔をしながら答える。



「今回はしねぇ。偵察任務が終わったら直ぐに王城に向かわねぇと団長に怒られちまう。団長に怒られるのが一番恐ェのはわかんだろ?」


「……確かに団長に怒られるのは、いっっちばんイヤッす。……それでも収入がないのはもっっっとイヤッすね!」


「まったくその通りだ! 隊長、ここは偵察任務が終わった後に村のひとつを略奪してやりましょう!」



 そう大きな声で発言したのは小男と並走していたのっぽの男である。彼は続けて言った。



「もし偵察任務も成功させて、略奪もうまくいけば団長の賭けは勝ち、おれらも誉められて酒がたくさん飲めるかもしれねぇですぜ。隊長、やってやりましょうぜ」


「……確かに。隊長、こいつの案は良いかもしれませんゼ。酒をたくさん飲めるチャンスっす。国の情報では砦に兵士の数はそんなにいないとのことっス。絶対に成功するっスよ」



 隊長は少し迷っている感じであったが、最終的にのっぽと小男二人の意見に賛同し彼の後ろを走っている部下たちに命じた。



「野郎ども! オレらはこれから速攻で偵察を終わらしていつもの仕事に取り掛かるぞ! タダ酒を浴びるように飲めるチャンスだ、ぬかるなよ!」


「おおおおおおおおお!」



 彼ら二百余名は士気を高め、砦へと向かう速度を上げたのだった。



    ◇     ◇     ◇



 ロヴェヘネ砦から北西に約数十㎞離れた地点に林に囲まれた街道がある。その林の中に隠れる兵士凡そ百余名の姿がそこにあった。



「ノブタダ殿、本当にこの作戦で奴らを討ち果たすことができるのか?」



 信忠の隣にいたヘンリベルトは訝し気に訊ねた。ヘンリベルトは信忠のことをまだ間者(スパイ)ではないのかと疑い、砦から出撃する前に聞かされた作戦は自分たちを貶める罠ではないかと考えていた。



「ヘンリベルト殿、ご案じ召されますな。必ずこの作戦は成功する。奴らは必ずこの道を通る」


「それはあくまで奴らが砦を偵察しようとしているという仮定が正しければの話しだろう。それにこの仮定が正しかったとしてもこんな馬鹿正直に真っ直ぐに砦を目指してくるとおもっているのか?」


「奴らは山賊だ。国から命じられた依頼を完遂させた後に必ず村の略奪をする筈だ。略奪を成功させる為には、国からの依頼をさっさと終わらせて私たちに見つかる前に行おうとするだろう。その為にはこの道を通った方が早く着いて依頼を達成できる。そこに勝機を見出すことができる筈だ」


「だとしても、仮にここを山賊どもが通ったとしても()()()()に先陣を切らせて大丈夫なのか? 出撃する前にも言ったが、あれは戦に使える代物ではないぞ」



 ヘンリベルトが信忠に言い寄っていると遠くの方から馬蹄が轟いてきた。物見をしていた兵士が彼の所に来て報告をした。



「申し上げます。ノブタダ様が仰る通り、我が国内に侵入してきた賊二百余騎、真っ直ぐにこの場所に突き進んで来ています」


「なっ!」



 ヘンリベルトは驚きの声を上げていた。まさか山賊どもが真っ直ぐに砦に向かって来ているとは夢にも思っていなかったのだ。

 信忠は近くにいた使番に命じた。



「魔導師部隊は作戦通り目印に敵が来たら足止めを開始しろ。騎馬隊と歩兵部隊は合図があるまで待機。絶対に命令があるまで動かすな」


「はっ!」



 使番は信忠の指示を聞くと直ぐに待機している指揮官のところへと向かった。そして信忠は敵がやって来るであろうところを凝視したままヘンリベルトに言った。



「ヘンリベルト殿、彼らの一撃は必ず敵に巨大な衝撃を与えるのだ。案ずることは何もない。貴殿はまだ私を疑っているようだが、私は貴殿らに必ず勝利をもたらすことを誓おう」


「……あ、ああ」



 ヘンリベルトは信忠のその鋭い眼光に慄いていた。

 暫くすると山賊たちがやって来た。彼らは砦を目指して足早に駆けていた。すると、林に隠れていた魔導師部隊が敵先頭部隊の足元に泥沼を作ったり、小さな落とし穴を作って足止め攻撃を行った。



「うわっ! なんだこりゃ! 急に泥沼が出て来やがった!」


「うゲッ! なんだなんだ! これは落とし穴か?!」


「どうどう! 落ち着きやがれ! クソッ! 馬が興奮して暴れやがる」



 山賊たちの先頭は魔導師による足止めで混乱に陥り、後続の歩兵は先頭が進まないことに訝しがりその歩みを止めていた。

 そのことが災いし彼らは、この後に起こる惨劇を回避することができなかった。



「鉄砲隊、構え」



 ツェーリング王国鉄砲隊は信忠の指示の元、混乱している山賊たちにその銃口を向けた。そして信忠は静かに命令を下した。



「火蓋ぁ切れ!……放てぇぇぇ!」



 鉄砲隊は一斉に引鉄を引き、林の中にその轟音を轟かせた。

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