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第五話 『彼れを知り己れを知らば』

 国境警備隊から敵襲の報がもたらされ、砦の中は大慌てになっていた。

 伝令は報告を続けた。



「国境線の哨戒をしていたところ、ブランケト公国からの侵入を確認。只今、我々の部隊が迎撃にあたっております。しかし、予想より敵兵が多いのであまり長くは持ちません」


「敵兵の数は!」


「凡そ二百五十騎ほど。騎兵七十、残りは歩兵と弓兵の混合です。身なりからして山賊どもかと。しかし、村には目も暮れずこの砦を目指してやって来ています」


「それなら何か特命を帯びた“公認山賊”どもか……」


「公認山賊? 何だそれは?」



 聞いたことのない言葉が出て来たので、私は近くにいたヘンリベルトに訊ねた。



「公認山賊ってのは、国家から許可を得て略奪行為をしている者たちのことだ。ブランケト公国が行っている政策で、この国を疲弊させる為に行っている。ここ最近、やたらと侵攻してくるのは大体コイツらだ」


「国公認ということは、奴らの装備は国から援助されてるということか?」


「あぁ。国から装備を援助する代わりに、略奪して手に入れた収益の何割かを、国に納めることによって奴らの関係は成り立っている」


「なるほど……。なかなか厄介な奴らだな。ただの山賊なら装備の質もたかが知れているが、国が援助するとなるとなぁ……」



 後は、その山賊たちの練度がどれ程のものかによるな。ただ装備の質が良いだけでは、正規の兵共と遣り合えばたちまち討ち取れるだろうが、練度が高いとなるとこちらもかなりの損害が出るだろう。さて、どうしたものか……。



「姫様、これより如何致しますか?」



 アレクシスはコーデリアにこの事態への対処について訊ねた。暫く考えている様子であったが、結論が出たのであろう。コーデリアは命令を下した。



「ここは砦から打って出て、賊共を討ち果たします。直ちに出陣の準備を」


「ははっ!」



 アレクシスは勢い良く返事をした。しかしこの命令に反対なのか、砦の守備隊長は恐る恐る異議を申し立てた。



「お、お待ち下さい。この砦は完成したばかりで兵が百五十名ほどしかおりません。この兵数で出撃しても返り討ちに遭うだけです。ここは砦に籠城してやり過ごしましょう」


「山賊ども相手に籠城しろと? 武勇で鳴らしたアーベントロート王家の名に泥を塗れと申すか……」


「い、いえ。め、滅相も御座いません。しかしこの兵数差ではあまりにも不利な戦になります。何卒ご再考を!」


「私めも出撃することには反対です。どうかお考え直し下さい」



 ヘンリベルトも出撃するのに対し反対の意を示した。



理由(わけ)を訊いても?」


「籠城、とまでは言いませんが、この地で討ち果たした方が地の利を活かせるかと愚考致します。まず、百名ほどを砦の目の前の山中に隠します。山賊どもはこの砦を目指してやって来ているとのことです。なので、敵がこの砦を確認する為に山間地帯に差し掛かった所を、砦にいる五十の兵で攻撃を掛け、その隙に隠していた百の手勢で背後を強襲すれば我々にも勝ち目がございます」


「……なかなか良い作戦だけど、山賊どもが一人でも生き残って、ブランケト本国へ帰ったら彼らの勝利になるわよ。今回はただ勝つだけじゃなくて、この砦の様子を知られないことが最重要目標よ」


「しかし、この先はほとんど平地です。兵数劣勢で出撃しても勝ち目はほとんどないと思われます」



 うん。ヘンリベルトの言にも一理ある。少ない兵数で多数の敵兵を叩くなら狭い所で戦ったほうが良い。

 山賊どもは道なりに進んでこの砦に来ている、と伝令兵は伝えてきた。この砦周辺の地図を見たが、ここからブランケト公国との国境線まではほとんど平地でちょうど山賊を討ち果たすのに適した地形はこの砦付近にしかない。

 しかし、コーデリアの言う通り山賊が一人でも生き残った場合、この砦が軟弱であることが知られてしまう。そうなれば、いずれブランケト王国はこの地を目指して大攻勢を掛けてくるだろう。それは今の我々にとっては負けだ。敵に我が国への大攻勢を仕掛けさせてはいけない。

 何か手はないだろうか……。私は守備隊長に少し訊ねた。



「ところで、ここにいる守備隊の内訳はどうなっている?」



 私はこの砦の守備兵百五十名の内訳をまだ知らなかった。

 孫子曰く、『彼れを知り己れを知らば、百戦しても殆うからず』(相手の実情を知って自己の実情を知っていれば、百たび戦っても危険な状態にはならない)。敵兵の内訳は伝令によって知った。後は自軍の内訳と練度の程を知れば有効な策を練ることができ、勝利への道筋が見えるだろう。



「はっ。こちらの手勢は歩兵六十、弓兵三十、騎兵二十五、魔導師隊五、鉄砲隊三十でございます」


「鉄砲隊の練度は如何ほどか?」


「毎日射撃の訓練をしており、王国内でも屈指の実力を持っているらしいです」


「らしいだと? なぜ曖昧なのだ」


「はっ。えっと、その、まだ鉄砲隊が組織されて日が浅く、鉄砲の運用方法を各国で研究している状態でして、まだ完全に実用化されていないのです」



 守備隊長に更に詳しく教えてもらったところ、こちらの世界では魔法が有効的過ぎて、鉄砲を使うことが滅多にないことが分かった。

 鉄砲は私より以前の派遣者の手によって伝えられ製造もされていた。鉄砲の一撃は強力であるが、魔法と違って連射が出来ず、また雨が降れば使えないので兵器としてあまり注目されなかったそうだ。

 しかしある時、鉄砲を兵器としてうまく運用している者たちが現れたらしく、その者たちに対抗する為に各国はこぞって鉄砲の運用方法についての研究を行い始めたそうだ。

 私は鉄砲隊が集まっている所に行き、その部隊長に鉄砲隊は今日実戦に出しても大丈夫かを訊ねた。

 すると部隊長ははっきりと言った。



「我々鉄砲隊は他部隊にも劣らぬ訓練を積んできました。今日実戦に出ろと命じられても全く問題ございません!」


「お主の言葉に噓偽りはないな?」


「全く御座いません。真の鉄砲隊はここに在り、と御覧に入れましょう」



 なかなか頼もしいことを言う。これは期待出来るかも知れないな。

 私は鉄砲隊の部隊長とともに、コーデリアたちの元へと戻った。

 なかなか良い案が出ず、コーデリアたちは議論に行き詰まっていた。コーデリアは私に何か策はあるかと訊ねてきた。私はコーデリアの目を見て言った。



「この信忠めに必勝の策がございます」

六月十七日をもって一時休載とさせて頂きます。

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