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第三話 『仕官話』

 金髪の女性は馬から下りると、私の方へと歩を進めた。

 彼女がどんどん私に近づいて行くのを危険に思ったのであろう。先程まで呆けていた男女が慌てて走り出し私たちの間に割って入った。



「姫! この者は扶桑王国からの刺客です! 危ないのでお下がり下さい!」


「アレクシスの言う通りです。何卒ここは我らに任せお下がり下さい」



 彼らは私の方へと近づくのを必死に止めようとしていたが、止められている彼女はとても面倒くさそうな顔をしていた。彼女は大きな溜息をつくと、狼女の方を見て尋ねた。



「ハァ……。アレクシス、私は貴方たちに何を命令したか覚えてる?」


「はっ! この者を『追撃しろ』と命ぜられました!」



 自信満々に答える女。自信の表れか、それとも誉めて欲しいのか、もの凄い勢いで尻尾を振っている。まるで飼い犬のようだ。

 あまりにも勢いがあるので、頑張れば少し強めの風でも起こせるかもしれないだろう。……すわ、恐ろしい!!

 しかし、得意気な顔をしている女に対し、金髪の女性はとても渋い顔をしていた。恐らく返ってきた答えに満足いかなっかたのだろう。



「アレクシス、貴女ちゃんと命令聞いてた?」


「えっ? な、何か不足でもありましたでしょうか?」


「えぇ、大ありよ」



 女は雷に打たれた様な衝撃を受けていた。先程まで元気よく動いていた尻尾がみるみると下がっていった。……お気の毒に。

 金髪の女性は今度は男の方を向き、先程の不足部分について尋ねた。



「ヘンリー、他に私は何を命じたか覚えてる?」


「はっ。『可能であれば捕縛しろ』と命ぜられました」


「彼の者の身柄をどうするかは、貴方が確認を取ってきたわよね? 違わない?」


「……間違えありません」


「何故彼を斬ろうとしたの?」


「そ、それは……彼の者が噂の扶桑王国人だと思ったからです」


「ハァ。あの噂の扶桑王国人の出で立ちはもっと派手っていう話でしょ。彼どう見ても派手ではないでしょう」


「し、しかしこの様な所で鎧姿でいるのも、十分派手なのですが……」


「それはそうだけど……。でも、私の命令はあくまで彼の“身柄の確保”よ。今の貴方たちはただの命令違反。彼を斬ったら噂の真偽も確かめれないでしょう」


「うっ。……仰る通りです。命に背き申し訳ございませんでした」


「申し訳ございませんでした!」



 彼らは金髪の女性に謝罪すると剣を鞘に収めた。一先ず斬られることはなくなったので私も刀を収めることにした。

 金髪の女性は私たちが矛を収めたことを確認すると、私の方へと来て頭を下げた。



「こちらの手の者が唐突に斬り掛かりご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」


「頭をお上げ下さい。お話を聞けば私にも疑われる余地があった様ですので。それに怪我人もおりませんし、この事はなかったことにしましょう」


「重ね重ね申し訳ありません」



 彼女がもう一度謝ると背後に控えていた二人も私に謝罪をした。

 彼女らの謝罪を受け入れた後、私はいろいろと質問をされた。とりあえず、私はこの世界に来る前に謀反にあったことと、謎生物()によってこの世界に来たことを話した。



「へぇー! あなたは“派遣者”なのですね!」


「“派遣者”?」


「はい! 私たちの世界とは異なるところから来る人々のことを、こちらでは“派遣者”と呼ぶのです」



 彼女の話しによれば、私の様に異世界からやって来る人々が過去にもいたらしい。その者たちが口を揃えて『謎生物に派遣された』と言うことから、異世界から突然やって来る人々のことを“派遣者”と呼ぶ様になったそうだ。

 この世界に来た派遣者は、この世界の国々に富や技術をもたらしてくれる存在らしく、派遣者を見つけた国はその者を厚くもてなすとか。逆に派遣者が来なかった国々は派遣者を欲して戦を仕掛けてくることもあるそうだ。



「貴女は私以外の“派遣者”にあったことはあるのですか?」


「幼い頃に一度だけですが。よくあちらの世界のお話しをお聴きしました。でも、今回の様に会話した事があるのは貴方だけですね。あっ! そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私の名前はコーデリア・エレノア・フォン・アーベントロート。この国、ツェーリング王国の第一王女です」


「これはご丁寧に。私は織田家当主、織田左近衛中将信忠と申します」



 その後、コーデリアの後ろで控えていた二人も名乗った。男はヘンリベルト・フォン・ホーエンシュタイン、狼女はアレクシス・フォン・ベーメンベルクという。ヘンリベルトは侯爵家、アレクシスは伯爵家とかいう身分だそうだ。……よくわからん! まぁ後で訊けばわかるか。

 一通り名乗った後、コーデリアの方を見ると、彼女は急に目を輝かせていた。

 えっ? 何かした? どこかに目を輝かせる様なことがあったか?



「い、いま、お、『オダ家当主』と言いましたよね?」


「え、えぇ。そ、それが如何しました?」


「……キャー!! やったーー!! ヘンリー! あのオダ家の人よ! あの天下のオダ家の! まさか生きてるうちに会えるとは。キャーーー!!」


「ひ、姫! 落ち着いて下さい! ノブタダ殿が引いておられますよ!」



 ヘンリベルトに注意され、我に返ったコーデリアはとても顔を赤くしていた。かくいう私はとても顔を引き攣らせていた。



「ハッ! こ、これは、し、失礼いたしました」


「い、いえ。ところで何をそんなに喜ばれていたのです?」


「貴方は異世界でかの有名なオダ・ノブナガ(織田信長)公のご子息なのですよね?」


「えぇ。我が父は織田弾正忠(だんじょうのじょう)信長ですが」


「先程言った幼少期に会った派遣者の方が、オダ・ノブナガ公について語ってくれたことがありまして。そ、それで『いつかオダ家の方々に一度でいいからお会いしたいなぁ』と思っていたのです」


「な、なるほど。あっ! しかし父・信長はおりませんが」


「いえ! ノブタダ様にもお会いしとうございました! かの難攻不落のタカトウ(高遠)城を僅か1日で落とした実力は目に見張るものがあります!」


「えっと、その派遣者の方は私のいた時代より後世の方ですか?」


「はい! 彼は学者をしていたそうで、オダ家のことを詳しく教えていただきました!」



 はぁん。なるほどねぇ。後世には名を残すことができたのか……。それは嬉しいことだな。

 暫しの間感傷に浸っていると、コーデリアが上目遣いをしながら恐る恐る尋ねてきた。



「あの、ノブタダ様。この後どうなさるのですか?」


「えっ? この後ですか?」


「はい」



 どうするもなにも、私はこの世界について何も知らない。それにここがどこかも分からないのだが……。当初の予定では、まずは人探しをして、この世界の情報を教えてもらうことだったのだ。

 彼女にそのことを話すと、意外な提案がやってきた。



「ノブタダ様がよろしけば、この国に仕官して頂けませんか?」


「えっ?」



 なんで? 急に現れた訳のわからん奴を仕官させても良いのか?

 この事を先程から私たちの会話を見守っていたヘンリベルトたちに訊いてみたら、これまた意外な返答が返ってきた。



「いえ。恐らく大丈夫でしょう。まぁ中には酷く嫌う貴族がいるでしょうが、この国の為になるなら問題はないかと」


「はあ……。えっと、アレクシス殿はどうお思いで?」


「私も問題ないと思います。それにオダ家の方々は能力主義・成果主義を掲げておられるのでしょう? 我が国も成果主義政策に切り替ているので、ノブタダ殿がこの国の為に働いて頂けるのであれば問題はないと思います。逆にノブタダ殿が出自の事を気にする必要はないのでは?」



 ま、まぁ確かに織田家が言える立場ではないな。筑前(羽柴秀吉)しかり、左近将監(滝川一益)しかり、惟任(明智光秀)しかり。出自の怪しい者ばかりだ。その者を出世させる為に、父上は古参を追放して、成果を挙げた家臣に領地を分配していた訳だ。

 この国が父上と同じ成果主義を採っているのなら、私はここで出世することができるだろう。

 後はこの国がどれ程の国力があるかなのだが……。“派遣者”を見つけた国はその者を優遇すると言っていたな。なら私のことを逃がすことはないだろう。……うん。もう確定事項だよね、これ。



「えっと、まぁ、行く宛てもありませんから、この国にお世話になりましょう」


「いいのですか?!」



 私の返答が余程うれしかったのか、コーデリアは喜色満面の笑みを浮かべていた。



「えぇ。それに私にはまだ“武人として働きたい”という志があります。向こうの世界では志半ばで謀反にあってしまいましたので、まだまだ動き足りませんから」



 そうだ。ここに来る前、私は“武人として働き、天下泰平の世を造りたい”と願ったのだ。鵺が言うにはこの世界は乱世なのだろう。惟任の謀反に遭い、父上が、私が果たせなかった天下泰平の世をここでは造れるかもしれない。



「これからよろしくお願いします。コーデリア様」


「よ、よろしくお願いします!」


「家臣になるのですから私に敬語を使わなくてもよろしいのですが……」


「す、すみません。き、緊張してしまって……。あっ! でもノブタダ様は私に敬語を使わないで下さい」


「……? それは何故ですか?」


「ヘンリーとアレクシスにも言ってるのですが……。私が心から信頼する人には、友人付き合いを許してあるので、敬語を使って欲しくないのです」



 彼女がそう言うと、ヘンリベルトが渋い顔をして苦言を呈した。



「いくら友人付き合いを許されても、一国の王女に敬語なしで話せる訳ないでしょう! それこそ他の家臣に示しがつきません!」


「でも、いつまでも堅苦しかったら息が詰まるでしょ! 他の家臣がいないときに敬語をやめてくれれば良いじゃない!」


「ダメなものはダメです!」


「ヘンリベルトのケチ! アレクシスもそう思うよね?」


「いえ。私もヘンリベルト様の言に全面的に同意します」


「うわっ。アレクシスも裏切った! ヒドーい!」


「ヒドくありません! ちゃんとして下さいよ姫。ハァ、さっきまでの凛々しさはどこに行かれたのか……」



 …………うん。この主従、なかなか賑やかだ。これはかなり骨が折れそうだ。私の方を見て目で「助けて」と訴える姫様に、私は笑顔を見せて、敬語で意見具申をしてあげた。



「コーデリア様の仰ることも分かりますが、やはり他の家臣にも示しがつきません。私もヘンリベルト殿の言を支持いたします。私は姫様の家臣ですので、私に対して敬語を使わないで下さいね」


「……わかったわよ」



 コーデリア様はかなりご不満な様子であったが仕方がないね。

 何はともあれ、私はツェーリング王国に仕官することになった。

いよいよストーリーが本格的に始まります。これからもよろしくお願いします!

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