第一話 『異世界』
1週間に1回のペースでの投稿が出来そうにないので、不定期更新に変更いたします。短くて2週間、長くて1カ月くらいのスパンで投稿しますので、どうか温かい目で見て戴けるとうれしいです。
信忠がいた地球世界とは異なる所に、『ヴァルディア大陸』と大小様々な島で成り立っている世界が存在する。
この世界には多数の国家があり、人間や獣人、エルフにドワーフなど様々な種族が暮らしている。これらの種族は共存したり対立したりしてさまざまな国家形態をつくり、世界の覇権を巡り争っていた。
そのヴァルディア大陸の東側に『ツェーリング王国』という中規模の王制多民族国家がある。人間族の王様を戴いているが、全種族に市民権が与えられており、他国と比べて非常に開放的な国であった。肥沃な耕作地を有し商業に力を入れているため、国内はそこそこに豊かであり、治安の良い暮らしやすい国である。
大陸暦1534年6月2日。
この日、王国の南西部国境線付近の街道を、一匹の白馬とニ匹の黒馬に乗った男女が駆けていた。
白馬に乗っていたのは、金髪碧眼で色白、スラッとした容姿を持った美少女であった。歳は19歳くらいであろう。
白銀の鎧を身に纏い腰にはバスタードソードを差し、ビロードのマントを羽織って颯爽と馬を駆る姿は、とても絵になる華やかさがあった。
彼女の名前はコーデリア・エレノア・フォン・アーベントロート。この国の第一王女である。
彼女は幼い頃より体を動かすことが好きで、よく衛士に交ざって剣術の訓練をしていた。
また王立士官学校へも入学して兵術を学び、成人してから(この世界では15歳で成人として扱われる)は、国境にある砦に行き、その軍事的才能を活かして王国に侵入してきた賊や魔物を撃退していた。
そんなコーデリアの後ろを駆けているのは、コーデリアの幼なじみで、王立士官学校の同期でもある狼の耳と尻尾が特徴的な灰狼族の女騎士、アレクシス・フォン・ベーメンブルクと、アレクシスと同じく騎士で、コーデリアの兄の友人であった金髪の爽やかな青年、ヘンリベルト・フォン・ホーエンシュタインであった。
この二人はコーデリアの王立士官学校入学以前からの知り合いで、友人付き合いを許されている仲であった。また国王からの信頼も厚く、コーデリアの護衛を任されており、コーデリアと共に賊や魔物を撃退し活躍していた。
この日は王国南西部にある『ホーエンシュタイン侯爵領』に新しく築かれた『ロヴェヘネ砦』が完成したため、その視察へと向かっていたのである。
「ヘンリー。あとどのくらいで砦に着きそう?」
この領地出身のヘンリベルトは、コーデリアからの問いに地図を見ながら答えた。
「はっ。あと……30分程すれば到着いたします」
「……昼までにはなんとか着きそうね。はぁ……長かったわ」
ホーエンシュタイン領中心都市『ハルナード』を発ち、馬を駆け続けて約三日。
あまりにも時間がかかり過ぎたため、コーデリアは少し苛立っていたのだ。
コーデリアのこぼした愚痴に、アレクシスは苦笑しながら言った。
「ここ最近、やたらと国境侵犯をしてくる対ブランケト王国用の砦ですので仕方ありません」
「それはわかっているわよ。でも三日前からずっと駆けているのよ? 少しは愚痴も言いたくもなるわよ」
「……まぁそこは否定しませんが。しかし、ここまで都市との距離があると不測の事態に対処しづらいですね。これではまるで『王国に侵攻して来い』と言ってるようなものです」
「そうそれよ! もし敵軍があの砦を攻めてきたら、援軍なんて間に合わないわよ! それにあの砦の見取り図を見たけど、あれは保って1時間程度ね」
「……姫、それは言い過ぎでは? それに砦を実際に見てないのですからそこまで言わなくても。もしかすると、前見た見取り図よりも素晴らしい砦が出来ているかもしれませんよ」
コーデリアの愚痴がなかなか止まらないので、ヘンリベルトは宥めるように言った。
しかしコーデリアは納得出来ないのかヘンリベルトに言い返した。
「ヘンリー、それはぜっっったいにないわ。そもそもこの砦を築くように提案したのはどこの誰なのよ。この砦、戦術的には有用かもしれないけど、戦略的には無用ね。これを提案した人は余程の軍事の素人よ!」
「だから姫、実際に見てから批評しましょう。ね?」
「でもヘンリベルト様も不自然に思っているのでは?」
「…………」
アレクシスに図星を突かれ、ヘンリベルトは少し困った顔をして黙ってしまった。
「やっぱりヘンリーも思っていたのね。本当に正直じゃありませんの」
「……ですが、やっぱり見ないことには可も不可もないでしょう」
「まぁそのために私たちは向かっているのですが……」
「そうね。砦に着いたらしっかりと視察をするわよ」
「「はっ!」」
コーデリアの号令に、二人は勢いよく声を揃えて返事をした。
「そして、即帰って意見具申書を提出するのよ」
「報告書じゃなくて意見具申書を作成するんですね」
「当たり前よアレクシス! さっきも言ったけど戦術的には……」
「姫? 如何されました?」
コーデリアが怪訝な顔になり急に話しを止めたため、ヘンリベルトは不審に思い尋ねた。
ふとアレクシスの方を見ると、同じように訝しそうな顔をしていた。
「……アレクシス、貴女も気付いた?」
「はい。如何いたしますか?」
「あの……何があったのです?」
コーデリアは、訳が分からないといった表情のヘンリベルトに、難しそうな顔をして答えた。
「……今さっきまで誰もいなかった所に、何者かの気配があるの。それも突然何の前触れもなく現れたのよ」
「ほう。間諜かはたまた姫様の御命を狙う不届き者ですかな」
「それにしては何かがおかしいのよね……。ヘンリー、アレクシス。前方にいるであろう者を敵と仮定します。貴方たちは直ちにこれを追撃しなさい。私は魔法で索敵をした後、貴方たちを追いかけます」
「御意。身柄は如何いたしますか?」
「可能であれば捕縛、抵抗が激しい場合は殺しても構いません。」
「承りました。アレクシス殿、案内頼む!」
「はっ! こちらですヘンリベルト様!」
勢いよく返事をしたアレクシスは、馬腹を蹴り上げると不審な気配がした所へ向かい駆けていき、その後ろをヘンリベルトが続いて行った。
二人を見届けたコーデリアは、自身の風属性魔法を使い索敵を開始した。
(今のところ、さっきの気配以外には誰もいなさそうね……。間諜や暗殺者の線は薄いか)
「……もう少し索敵範囲を広げますか」
そう言うとコーデリアは魔法の効果を上げて、索敵を再開するのであった。
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