決意
脳がフル回転しているからか時の流れがゆっくりに感じる。
その中で俺は質問に対する答えを考える。
聞かれる事はないと思っていたので答えを用意していない。
勘違いしてなんでも質問していいと言った手前答えないのは恥ずかしいし、逃げたりすれば、卑怯者的なレッテルを貼られ、高校生活中に彼女ができなくなる可能性が高まる。
中学時代のトラウマを克服し彼女を作り、楽しい高校生活を満喫したい俺としてはそのリスクは避けたい。
しかしここで素直に話すのもどうだろうと思う自分もいる。
一条さんからの質問はどう答えても、中学の告白騒動について話すとなる。
だから逢沢と俺のプライベートな事まで話す必要が出てくる。
本人の許可なくペラペラと喋って後々問題になっても困るのだ。
逢沢が直接文句を言いに来る展開は最悪も最悪。
そうなっては困る。
今の俺は逢沢と顔を合わせるだけで身体的に異常が起きる。
最近顔を合わせた時は距離があったし、イヤホンという防具があったからそこまで酷いことにならなかったが、次会った時もそうとは限らない。
なので、何とかそういうのを伏せつつ、嘘をつかないかつギリギリで納得させる必要があるのだ。
もちろんめちゃくちゃ難易度高い。
「その前に1つ確認させて欲しい。逢沢が幼馴染だって言ったのを本人から聞いたのか?」
ギリギリのラインを攻めるにあたって確認すべきなのは情報の出どころだ。
逢沢が言っていたって噂なら上手いことやりようもある。
証拠ないならそんなの噂だろとかで片付ける事も可能だ。
「ううん。本人がクラスのグループトークで言ってた。私には好きな人がいてそれが幼馴染だって。ほらここ」
近づけられたスマホには確かにその文面が書かれたトークがハルという名前のアカウントから送信されている。
アイコンは逢沢と友達の中学の制服をきた後ろ姿だから本人で間違いなさそうだ。
「まて、いちから会話の流れを教えて貰えないか?」
ありえないはずの話が聞こえて俺はなにか誤解をしてしまったのかと思い、ひとまず話を最初から聞くべきと判断した。
俺は間違いなく振られた。
中学の入学式終わりの校舎裏でこっぴどく。
思い返すだけで激痛をともなうぐらいにみっともなくだ。
だから幼馴染が好きなんて嘘つく必要があったとしか考えなられない。
「あたしもリアルタイムでトークにいたわけじゃないから正確かどうか分からないけど、サッカー部の2年のイケメンの先輩がいるじゃない? うちのクラスのマリカがその先輩狙ってるんだけど、その先輩が逢沢さんのこと気になってるんじゃないかって話が入学決まってすぐからあったの。マリカそれでちょっと機嫌悪くて逢沢さんと同じ中学の子から情報聞き出して意地悪してたの。それで昨日の夜グループトークでハルマ先輩に色目使ってるだろって突っかかったの。そしたら私幼馴染が好きだから色目なんて使わないわって感じの流れです、はい」
捲し立てられた情報はどこの高校でも起こりそうな、イケメン争奪戦に巻き込まれた美少女とクラスの女王の意地悪。
その過程で俺が幼馴染だと言い、好きだと嘘をついたと。
それってただの男避けに勝手に名前使われたって事じゃん。
はぁ? 振っておいて都合よく名前使うとかなんだよそれ。
俺の中で怒りがふつふつと湧き上がる。
振られたのは俺が勉強もろくにできなくて、運動もダメで将来性もない人間だったからだって納得して諦めて、近寄らないようにしてきたのに。
都合のいい時に勝手に名前をなんて許せるはずがない。
万が一にもその先輩が逢沢の事を好きで俺のところに殴り込みにでも来たらどうするつもりだったんだろう。
怪我をしたかもしれないのだ。
本当は配慮して、迷惑かけないようにやる過ごすつもりだったけど向こうが勝手に名前を出すのなら迷惑なんて考える必要はない。
向こうは俺に迷惑をかけようとしたのだから。
配慮する必要がないと思うと口が勝手に喋り始める。
「教えてくれてありがとう。質問の答えだけど、確かに俺と逢沢は幼馴染だったよ。それも物心ついた時からのな。でも今は違う。中学の時に告白して振られたんだよ。入学早々な。それ以来1度も話してないし、話しかけられた事もない。だから俺はもう幼馴染とは思ってない。多分だけど波風立てたくないからそういう普通に嘘をついてやり過ごそうとしただけだろ。俺は無関係だ。出来ればあまりこういう話を振るのはやめて欲しい。ついでに言いふらすのもだ」
話すと楽になるって言うけど実際は全身を貫かれたような苦しさが俺を包んでいる。
出会って約2日程の知り合いの知り合いぐらいの関係の女子に黒歴史の公開。
心が痛くない訳はない。
でも吐き出したおかけで繋がれた鎖みたいなものを断ち切ることができた気がする。
なので俺の顔をは空同様晴れ渡っているに違いない。
「え? それあたしに全部言っちゃうんだ」
そんな俺とは対象的に、一条は困惑して顔をしていた。
内容が内容だけに当然といえば当然なのだが。
だがおかけで吹っ切ることができたのだから俺的にはありがたい。
「いやいや、自分から話振っておいて素直に答えたら困惑するって酷くないか?」
「そんな重たい話隠れてると普通に思わないでしょ。まーあ謎は解けたからいいけど……ってやばっ急がないと遅刻しそうじゃん」
話がひと段落してスマホを見た一条さんは慌てたように、手に持っていたビニール袋を雑にカバンに入れ何故かこちらを見ている。
「ん?」
「ん? ってなに呑気な顔してるのよ。遅刻するって言ってるの! 普通慌てるでしょうが。ほら走る走る」
どうやら一緒に登校するということらしい。
幸いここから学校まで走れば15分ぐらいだ。
それぐらいなら俺でも走れる。
走りはじめて5分も立たないうちに俺は歩き始めてしまった。
「ちょっなに休んでんの。遅刻するってば」
「先行ってくれていいぞ」
食後急に運動するのは良くないって習ったことあるけどあれガチだったんだな。
横っ腹痛てぇ。
肺も限界らしく苦しくて痛たい。
そういえばここ2年ぐらい全く運動せずゲームしてたもんな。
しかも春休み中はゲームして宅配で食事済ませて寝るみたいな生活送っていたわけだし。
そりゃ体力も落ちる。
それに元々体は強くないし。
なので間に合わないと判断して、先に行くように告げたのだが、一条さんは少し先からわざわざ引き返して来て俺の隣に並んで歩き始めたのだ。
「ほんとに遅刻するから。俺のことなら気にしなくていいし」
「ううん。ユウマにできた久しぶりの友達だもん置いて行く訳には行かない」
「一条さんほんとにアイツのこと好きなんだな」
「は? 別にそういうんじゃないわよ! ユウマの周りってなんか知らないけど女の子が集まって来るから男子の友達できてもすぐ離れていくの。だからここで優しくしておけばユウマの友達で良かったと思ってもらえるかなって。普段迷惑かけてるってのはわかってるのよ。だからこれは好きとかそういうんじゃなくて幼馴染として当然の務めってあっ、ごめん」
俺が逢沢との事を話したからか一条さんもそんな事を語り始めた。
先程の話を聞いて幼馴染惚気が良くないと察したのか話の途中でしぼんでしまったけど。
遅刻する事にした俺たちはそこから話しながら10分程遅れて登校した。
少しだけ一条さんと仲良くなったきがする。