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これでもプロですから

 家に帰って来ると制服から部屋着に、着替えベッドに倒れ込む。

 考えてるのはA組の噂の美少女、逢沢のことだ。

 ファミレスで聞いた通り既に美少女の1人として人気と注目を集めているようで、今後も噂の提供先の1人になっていくことだろう。

 逢沢が目立てばそれだけ噂が耳に入ることになるのだが、正直どう反応すべきなのかが分からない。

 実際今日も他のことを考えてその場はスルーしたが、何度もスルーなんてしたら変に勘ぐられる。

 我ながらめんどくさい性格だと思う。

 3年経っても未だに引きずってるわけだし。

 別にもう恋愛感情はないはず。

 実際前向きに、彼女を作ろうと交流しているわけだし。

 完膚なきまでに振られて、疎遠になっていた3年だ。

 もはや幼馴染と名乗るのもおこがましいと思えるほどに交流が途絶えて家族にも微妙に気を遣わせてしまっているし。

 だが、振られたショックは今も心に深く刻まれてて、姿を見たり名前を耳にする度に心にダメージを負う。

 胸が一瞬痛くなるのだ。

 それから無性に遠くに走り去りたくなる。

 振られた事に対しての恥ずかしさだと思うけど、慣れない。

 

 「はぁ。いつまでも引きずるのは良くないってのは分かってるけど」


 なんて考えているとピコンと電子音。

 枕もに置いてあるスマホにはメッセージを受信したことを示す通知が来ていた。

 ロックを外して確認すると、インストール終わってる? の文字。


 「やべ。そういやアイツらとゲームする約束してたんだった」


 時刻既に21時を越えている。

 帰ってきたのが19時過ぎだったはずなので2時間もグダグダ考えていたらしい。


 「沈んだ気持ちになった時はそれこそゲームするに限るよな!」


 今インストールしてると返信し、それから急いで、アプリのダウンロードを開始する。

 容量自体はそう多くないのか、アプリ自体のダウンロードは1分もかからず完了した。

 しかし問題はその後。

 アプリを立ち上げた時に起こった。


 「はぁ? 3GB程ストレージの空きがある事を確認してインストール開始を押してくださいだと?」


 スマホゲームっていつの間にこんなにこんなに容量食うようになったんだ?

 中学時のソシャゲなんて、1GBあればだいたい遊べただろ。

 厄介なのはインストール作業がなかなか進まなかったことだ。

 20%を超えた辺りでリトライを繰り返し、その間もまだ? と催促するメッセージに返信してインストール作業に戻るというサイクルを繰り返すこと5回。

 さすがに変だと感じた俺は、公式のSNSを確認。

 そこで意外な事実を発見する。


 「PC版はこちらからだと……あるなら最初からそっちでやればよくねぇか? なんかスマホ版はインストールできないしな」


 無事PC版をインストールすることに成功した俺は意気揚々を出来たことを報告。

 既読がついた瞬間グループ通話が開始された。


 「新道いつからおった?」

 「いやぁなんか凄いトラブってるから眺めとこうと思って。あっ桜井さんこんちには〜」

 「こんにちは2人とも。というか新道君いるなら返事してよ。全くもう」


 あっという間に、桜井と新道が合流し、いよいよ戦場行動で遊ぶ。

 と言いたい所だが、全くやったことの無い俺はログインするなり、アバターの設定をしてくださいの文字と共に、性別を選ぶためのボタンとアバターの設定をいじれるカスタムが出てきた。


 「なんか出てきたんだけど」

 「アバター作るやつでしょ? それはお好みでやってくれれば大丈夫」

 「仮に女アバター使っても引かないからな西川」


 2人から煽りとアドバイスを貰った俺だが、特に強さに関係なさそうなのでデフォルトの男をそのまま使うことにした。

 アバターを確定させるとそのままチュートリアル。

 筋肉ムキムキの迷彩服を来た教官に銃の扱いを習う。

 この辺はどこのゲームでも同じらしくあっさり終わった。

 毎回思うけど実践でこのチュートリアルって役にたつことあんまりないよな。


 「とりあえずチュートリアル終わったぽいぞ?」

 「じゃあ早速潜る?」

 「いや待て西川のセンスをみたいから射撃場に行こう」


 フレンド申請を受けパーティーを組みやって来たのは射撃場と呼ばれる所だ。

 基本どのFPS系のゲームには実装されているもので、エイム調整をするのに使うのだが、この戦場行動では決闘と呼ばれる対決ができるらしい。

 これはモードではなく戦場行動民が生み出した独自の戦い方で、お互い武器を拾って一定の距離をとる。

 開始の合図と共にお互いが銃を撃ち合う、実践に近い戦い方らしい。

 普段やっているゲームではあまりやらないことなので少しだけ戸惑っている。


 「桜井さん1度おれが西川のセンスを測って見るから開始の合図をお願いできる?」

 「わかった」 

 

 新道もやはりゲームは好きなのかいつにも増してテンションが高く、ぶっちゃけ鬱陶しい。

 しかも承諾してないのにやる事になってるし。

 

 「ちなみにスコープはありか?」

 「ハンデでありにしてあげるよ」


 ムカつく。

 常々思うがなんでこいつ幼馴染に嫌われないんだろう。

 俺なんてこんなイキった言動したこと無かったのに。

 本当は適当に負けて楽しくゲームしようかと思ってたけど、気が変わった。

 プロゲーマーの威信にかけて全力でボコボコにしよう。

 なんてたって俺はスナイパーで日本チャンピオンになった男だ。

 こんな幼馴染たらしに負ける訳には行かん。

 この瞬間これはただのゲームでは無くなった。

 幼馴染にイチャイチャしながら片手間にゲームをしていた新道と幼馴染に振られて3年間ゲームに費やして来た時間が無駄だったかどうかを決める大事な1戦となったのだ。

 

 「そうか。じゃあ遠慮なく4倍つけさせて貰うわ。新道もつけておいたらどうだ? ハンデとか要らないし」

 「まぁそう言うなら遠慮なく。でも負けてもキレるなよ?」


 お互い何故か挑発のし合いを挟んでから距離を取り始める。

 このルールにおいて大事なのは索敵とエイム力だ。

 俺は通話を繋いでいたスマホをスピーカーモードに変えてイヤフォンを外す。

 それから普段使っているヘッドホンをつける。

 日本チャンピオンとった時も使っていたガチのやつだ。

 このヘッドホン値段が高いだけ合って敵の足音の方向から音を出してくれる、サラウンド? とかいうやつだ。

 

 「俺は準備できた」

 「こっちもOKだ。桜井さん」

 「了解! よーい……ドン」


 可愛らしい声を合図に俺は、山の上に伏せスナイパーを構えた。

 ひとまず索敵を優先する。

 覗いた先に敵兵の姿はないが、ヘッドホンの右側から小さく聞こえる伏せて移動する音に従って少し右にスコープをずらす。

 すると、50メートル程先の山の上に数本生えている木の間で伏せながら索敵している新道のアバターを見つけた。

 素早くピンを刺し、山を降りて裏からこっそり距離を詰める。

 木という遮蔽物のせいで頭が狙えないのでここは距離を詰める一択。

 時々立ち止まって、スコープで覗いても同じところでイモムシみたいにクネクネしながら見当違いの方を索敵している。

 

 「おい。どこ隠れた西川。全然音しないぞ」


 このゲーム、走ったり、伏せて動くととめちゃ音が鳴る仕様で中腰での移動だとほとんど音がしない。

 新道は普段こういう動きをしないからか気づいていないらしい。

 みんなでワイワイやる時はそれでいいんだが、プロゲーマーには味方が全員倒されて向こうがフルで残っていても戦わないと行けない時があるんだ。

 なので音を極力たてないように動く術は最初に探す。

 プロゲーマーになるまで色々FPSやって来たのけど、だいたい中腰でゆっくり歩くのがどのゲームでも音が出にくい。

 そして新道との距離が20メートルまで詰まった。

 新道は山の上にいて俺は降りて裏に回ったので下から狙う事になる。

 本来は俺が不利なのだが、向こうは索敵に難儀していて後ろを見ている。

 これぐらい近いとアサルトライフルで仕留めてもいいけどスナイパーで一撃必殺をしたい気分なので、スナイパーを構える。


 「ちょ、返事ぐらいしてくれよ西川。もしかして操作がおぼつかなくて喋る余裕ないとかか?」


 あまりに黙っている俺を不審に思ったのか、新道が必死に挑発してくるがもう遅い。

 エイムは完璧に合ったとと思う。

 ゲームによっては完璧にエイムを合わせてもぶれることがあるからなんとも言えないが、俺のこれまでの感覚なら完璧に頭を撃ち抜ける。

 

 「じゃあな」


 ドン。

 サプレッサーがついているスナイパーは僅かに発射音を鳴らし弾丸を1発打ち出す。

 連射できない仕様なのでアバターはリロードのモーションを初め、その1秒後に拍手と悔しがる声がスマホから聞こえてきた。


 スピーカーを解除して、イヤフォンを挿し直し、通話に戻る。


 「西川君本当凄いねぇ。私びっくりしちゃった。なんかこの前見た戦場プロの人みたいに綺麗なエイムだったしさ、もしかしてプロゲーマー? 本当それぐらい上手だったよ」


 これはもしやモテ期か?

 桜井さんのテンションの上がり方はそれはそれは尋常じゃ無かった。

 本当はこの後ろで悔しがる新道の声が聞こえているのだが、まるで聞き取れない。

 さらっと正解を言われてドキッとしたが、ここはあえて言わない。

 プロじゃないと思っているからのべた褒めだし気持ちよさが半減しそうだもんな。


 「うぅー。西川。チート」

 「人聞きの悪いこと言うな。今始めたばかりのゲームですぐチートできるわけないだろ」

 「分かってるよ、んな事。なんか世の中理不尽だと思ってさ。これでも500時間ぐらいやってるはずなのに素人に負けた」


 まぁ俺は単純計算で8時間を3年だから8000時間ぐらいゲームに時間使ってるしな。

 まぁかけた時間が上手さに直結するわけじゃわないけど。

 実際大会には二三ヶ月やりこんだだけで他のプロ並に動く人もいるにはいるしな。


 「新道。そう落ち込むなよ」

 「別に落ち込んでねぇーし」


 芋って負けたわけだし落ち込まないないわけはないだろうけどさ。

 ちなみに芋るってのは1箇所から動かず戦う戦法でめちゃくちゃ嫌われる。

 プロでもたまにやる人いるけど後々暴言付きのフレンド申請が来たりして厄介らしい。

 俺は正々堂々と勝負派なのであまりやらないけど。


 「そうだよ新道君。まだまだ戦場行動は始まったばかり。よーし朝まで耐久言ってみようか!」


 さっきの決闘でテンションが上がった桜井さんの妙な提案で、寝落ち耐久戦場行動が始まってしまった。

 しかし0時を過ぎたところで桜井が寝落ちし、俺と新道でやっても不毛だと言う結論になり0時30分には解散。

 1時にはベッドに入り眠りについた。

 意外と人とやるゲームも悪くない。

 そんなことを思いながら。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼馴染たらし(笑)
[一言] スマホ対PCとかプロゲーマーじゃなくても卑怯だわ
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