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放課後とお礼(後編)

 店内に入るとそこかしこから食べ物の匂いが押し寄せてきた。

 それが空腹で敏感になった鼻を猛烈に刺激する。

 さすが駅前のファミレスだ。

 まだ夕飯時じゃないのに店内の席は半数近く埋まっている。

 

 「意外と混んでるねぇ」

 「放課後だもんな。そりゃ混む」


 先に扉をくぐった桜井と新道が辺りを軽く見回しなが会話を始めた。

 そうなると俺の横辺りから不機嫌なオーラが放出される。

 

 「あれ、何とかしなさいよ。ほら」

 

 嫌なオーラの出処と目が合うとそんな理不尽な要求をされ顎で割り込めと指示される。

 もちろんそんな事をしてやる義理はないし、なんならこの2人意外と合ってるんじゃないかと、思う。

 道中はなんだかんだずっと2人で喋っていたし、今もこうして隣同士、並んで歩いていたし、新道も少なくとも迷惑には思ってなさそうだ。

 もっと付け加えれば、サンドイッチを貰ったお礼に手助けできるならしておこうと思ってもいる。

 なのでここは、スルーの方向で。


 「奥の方の席、空いてるぽくないか?」

 「おぉほんとだ。新道君ナイス! ちょっと遅かったから待つかもって覚悟してたけどラッキーだったね」

 「西川、ユイいくぞ」

 「あぁ」

 「うん」


 


 「おい、なんで俺の隣にお前が座るんだ?」


 確保した席に座ると最初に浮かんだ疑問はそれだった。

 俺たちが座った席はテーブルを2つ繋げた席。

 椅子が2つ横並びなので、隣に誰か座ることにはなんの疑問もない。

 しかし、普通こういう時男なら自然と女子と座れるように悪知恵を働せるもんだろ。


 「なんでってそりゃ女子2人が先に座っちゃったからだろ。もしかして西川どっちか狙ってるのか?」

 「本人目の前にして何言い出すんだよ」


 注文用タブレットを眺める2人を1度確認。

 反応がないことを確認して小声で続ける。


 「気まずくなるだろ」

 「大丈夫大丈夫2人ともタブレット弄ってるし、んで、どっち狙いなんだ?」

 「何故2択なんだ?」

 「もしかしてお前他に狙ってる女子がいるのか? 噂の美少女とか」

 「なんだそれ」 

 「もしかして知らないのか? なんか昼休み外で食ってた奴らがグループトークで言ってたんだけど、新入生の中にめちゃ可愛い女の子がいるのを見たらしい。めちゃ脚早いらしい」

 

 目を輝かせて語る新道。

 どうやらこいつ噂話が好きらしい。

 今朝も噂話でにやけ顔してたし。

 放課後すぐに俺を起こしてたから、授業サボってスマホいじってたのは確定だ、重症レベルじゃないか。


 「ねぇユウマ? あたし、ユウマには常々デリカシーが足りないって話してきたけど全然響いてなかったのね。普通女の子とお店に来て、それを放って他の女の話しする? ありえないんですけど」 


 そんな冷たい声と共に店内の温度が一気に冷えた気がした。

 見るまでもなく、一条さんが怒っている。

 桜井は気まずそうにスマホをいじり始めているし、少し前から会話聞かれてた可能性がある。


 「いやー、ユイこれは違うんだ」


 浮気男見たいな言い訳を始めた新道を横目に俺はメニューに手を伸ばす。


 「西川君何食べるの?」


 2人の言い争いから逃げ出せる口実として俺に目をつけたのかスマホを机に置き、こちらに顔を寄せ注文用のタブレットを覗き込みながら話しかけて来る桜井。


 「メニュー多くて悩む」


 ファミレスって小学生時代に来てから1度も来てなかったからメニューの豊富さに驚き、いつ間にかタブレット端末注文になった事にも反応したいが、さすがになんでか突っ込まれると答えづらいのでぐっと我慢。


 「でも、西川君今食べすぎると夕ご飯食べられなくなるからほどほどにね」

  

 桜井はなかなかに優しい娘らしく、そんな気づかいを見せて来た。

 

 「その心配は要らないぞ。なんなら今夕ご飯まですませてもいいからな。一人暮らしだし」


 優しくされるとついつい余計な事まで話しちゃうのが俺の成長してない点だな。

 桜井びっくりして固まってるし。


 「へっ、へー。そうなんだ。もしかしてご両親が海外出張? そんなラノベみたいな展開がリアルに!?」

 

 あっ。

 なんか変ながスイッチ入った音がする。

 という桜井ってラノベとか知ってるんだ。

 そういうの読まない人だと決めつけていたからめちゃ意外だった。


 「違うけど……。両親は日本にいるし、近くに住んでる。将来に向けての予行練習だよ」

  

 プロゲーマーである事はむやみに隠すつもりはないが、わざわざ言いふらす必要もないので、考えておいた表向きの理由をひとまずは話しておくことにしよう。


 「どこら辺? 今度見に行っていい?」


 一人暮らしの高校生が珍しいのかグイグイと距離をつめ圧倒してくる桜井に俺は若干引き気味にそのうちと答えるのが精一杯だった。

 というか全然メニューを見る暇がない。

 

 何とか桜井を落ち着かせた頃には半泣きの新道と嬉しそうな一条さんがこちらを見ていた。


 「さ、さぁて注文しないとなぁ」

 「西川」

 「おっハンバーグがあるじゃないか。ドリンクバー頼んじゃお」

 「おい、西川」

 「桜井さんドリンクバーいる?」

 「呼ばれてるよ西川君。それはいる」

 「なんだ? 死体の新道」


 新道は机に突っ伏し恨めしそうに俺を見ていた。

 一条さんにこってり絞られたのだろう。

 触れたら火傷しそうなのであえてスルーし続けて来たのだが、さすがに限界らしい。


 「お前が変なことを言うから、俺の今月の小遣いがここのパフェに消えそうだよ」

 「そもそもその話題振ってきたのお前じゃん」

 「何の話?」

 「いや、新道の奴が噂の美少女がどうのってのをな」

 「それ私も知ってる、A組の娘でしょ? 確かに逢沢さんって人。昨日の夜はどこのグループのそれで盛り上がってたもん」

 「はぁー。それあたしのクラスの女子。ムカつくぐらい可愛い娘で、クラス女子のグループトークでは結構嫌われる。こういうのあんまりいい気しないけどぉ。まぁあれは嫉妬するなってのが無理」


 もしかしてこの中でネットでもぼっちなの俺だけ?


 衝撃の事実に気づいた俺だったが、それを悟らせないためにタブレット端末を手繰り寄せ、ステーキセットとドリンクバーを注文する。


 「西川何してんだ?」

 「いやなんでもないよ。ほんとになんでもない」

 「なんでもない奴がいきなりステーキセット頼まんだろ。つか1人だけドリンクバー頼むとはどうゆう了見だ!」

 「安心しろ桜井さんの分は注文してある」

 「それは何も安心できないんだが?」


 本当はさっきの弄ってたやつが残っていたから2個になってただけなんだけど。


 「あたしの分はユウマが奢ってくれるから別にいいですけどぉ」

 「あ、あぁ。任せておいてくれ」

 

 新道は震える手で財布の中身を確認し始め、脳内で電卓を弾き大きくため息をついた。


 「あのー西川さん? いや西川様。先程の暴言は撤回するんでわたくしめににもドリンクバーを奢っていただけないかなと……いや無理だった全然いいんですけど」

 

 しんと無言の時間が訪れる。

 俺の反応を3人が見ている。

 本来なら、こんな幼馴染に愛されてまくって、そのうえで桜井なんて美少女に好かれているラノベ主人公にドリンクバーを恵んでやるなんてありえない所だが、桜井は意外と誰とでも距離が近い可能性が出てきた。

 初対面の俺の家に行こうとしたのが何よりの証拠だ。

 なので桜井に関してはまだ俺にも恋人になれる可能性がある。

 ここは男として優しさをアピールすべきだ。


 「しゃーねーからいいよ」

 「ほんとうですか?」

 「うざいから敬語やめ。いいよそれぐらい。なんか見てて可哀想になった」

 「西川君優しいっ」

 

 予定通り桜井の株が上がった。


 その後各々が料理を注文し、食べ始めた。

 食事中は不思議と話が弾むもので、話題は趣味へと差し掛かった。

 

 「西川君ってやっぱりゲームとかするの?」

 「そのやっぱりてのが気になるけど、そりゃまぁ人並みには。そういう桜井さんはゲームとかしなさそうだね」

 「えーそんな事ないよ。ほら私のスマホゲームでパンパンだよ」


 見せられた画面にはゲームとかかれたフォルダにFPS系ゲームが大量に詰まっていた。

 それだけじゃなくアイドル育成ゲームが女の子と男の子の2種類似たようなタイトルのやつが入っていたりぶっちゃけ引くほどゲームがインストールされていた。


 「うわ、戦場行動じゃんおれもやってるやつ。最近あんまりやってないけど」


 やはりラノベ主人公、女の子と同じゲームをたまたまプレイしているとは。

 突然のフラグ立てやはり危険だな。


 「新道君ランクいくつ?」

 「おれは最高プラチナ5でも今は結構落ちてるかもしれない」

 「うわ強っ。今度一緒にやろ! キャリーしてよ」

 「全然いいよ。西川はやってないのか?」


 油断したところに話をふられたけど、あいにく俺がやっているのはパソコン限定のFPSでスマホの方は一切やってないのだ。

 中学時代に使っていたスマホはスペック不足でまともにプレイ出来ず泣く泣くパソコンに移行した。

 おかげで中学時代ゲーム友達の1人も作れずプロゲーマーになりましたけど。

 そんでスマホ最新機種にしましたけどね。

 わーい。なんか自分で言ってて悲しい。


 「やってねぇな。そもそもスマホゲーム全般」

 「そんなにいいスマホ持っててゲームしないとかもったいなさ過ぎだろ」


 価値感なんて人それぞれと言いたいところだがそれに関しては俺が1番感じてる所だ。

 スマホに関してはスポンサーからの支給品だから自分で買った訳じゃないけど容量すかすかで未だに綺麗なままのスマホを見ると時々使ってねぇなとは思う。


 「スマホゲームってほらインフレ激しいんだろ? だからちょっとな」

 「戦場行動はインフレとは無縁だ」

 「そうそう。西川FPSって知ってる? 一人称の戦うゲームなんだけど……、戦場行動はそれとはちょっと違うTPSってゲームなんだけど、ガチャで強くなるソシャゲと違って実力の世界だから、やって見て欲しい」


 桜井……、俺一応そういう系のゲームの日本チャンピオンでしかもそれでお金稼いでるんだとはとても言える雰囲気じゃない。

 流れ的にスマホFPS未経験にインストールさせよう見たいな流れになってるし。

 そのせいで、一条さん空気になってるけど。


 「家に帰ってたらインストールするよ」

 「インストールしたら連絡して! 私が教えてあげるから」

 「それならいっそ夜集合しないか? グループトーク作っとくから、西川にレクチャーして行けそうなら実践的な感じで」

 「いいねそれ。西川君は夜大丈夫?」

 「まぁ少しなら大丈夫だな。それよりも新道、一条さん放置していいのか? めちゃ怖い顔してるけど」

 「あぁーごめーんユイ!」


 その後、新道は今度の日曜日にデートに行くことを条件に許してもらい、俺たちはファミレスを後をすることとなった。


 今夜プロゲーマー初心者の振りをする編が開幕することになったけど。

 少しの不安も抱きつつファミレスを出て解散となった。

 結構3時間もいたんだもんな。

 店員さんごめんなさい。でも結構売上に貢献したので許して。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公は消極的にしてもよくこの新道とつるんでいられるなぁ 自分ならこんな状況くっそ面倒くさくてハッキリもう関わらないでくれって言うわ
[一言] ラノベ主人公シンドウ君は懲りないですね
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