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プロゲーマーの高校生活初日

 ドクン。

 発作のように心臓が跳ねる。

 向こうは帰宅してきたのだろう制服姿にスクールバッグを肩にかけている。

 知りたくなかったが、どうやら同じ学校に通っているらしい。

 この時間まで出かけているとはさすが陰キャ嫌いのリア充様は違うねぇと思う反面、3年極力避けて来て、会わないように一人暮らしまで始めたのになんで今帰ってくんだよとも思う。

 内心己の不幸さを棚にあげて向こうを罵る。

 完全に妬み陰キャの思考そのものだ。

 やはり話すのは無理だ。

 心臓と本能が激しく警鐘を鳴らす。

 動悸が始まり顔や脇からじっとり嫌な汗がにじみ出る。

 大会出た時よりもよっぽど緊張しているらしい。

 身体は強ばって動かず、頭もろくに回らない。

 もう早くいなくなって欲しいと願うことしかできなくなった。

 そう思っているのに現実は都合よくはいかず、逢沢は何故かじっと見ている。

 気まずそうに立ち止まってあからさまにこちらに関心を向けているようだ。

 話しかけないならさっさと家に入ればいいのに。

 緊張のし過ぎからかそんな他人事のような感想が脳を巡った。


 「んっ……」


 逢沢から咳払いなのか喉を整えたのかよく分からない音が出た。

 それを合図に僅かに思考が戻った俺は露骨にスマホを取り出す。

 そうだ。こういう陽キャに絡まれそうな時は露骨にスマホをいじるしかない。

 歩きスマホの危険より目の前の逢沢の方が危険だ。

 万が一にも告白以来だねとか声をかけて来られたらどうなるか自分でもどうなるか予想がつかない。

 一応想像の範囲では全く会話にならないかブチ切れて罵倒大会を開くかだが、どっちにしたっていいことはない。

 とりあえず関わりたくないアピールのスマホで対応してそれでも絡んで来るようならその時はダッシュで逃げよう。

 逃げ足もあまり早くはないけど、会話してまた惨めになるのも嫌だし。

 俺はさらに万全を期すためイヤフォンを装着した。

 陰キャ流話しかけんなアピールその2だ。

 さすがに安全のために音楽をかけたりはしないがこれで充分歩き出せる。

 ちゃんと成長してる。

 前にあった時はゲロ吐きそうになったんだ。

 その時よりだいぶマシ。

 ひたすら自分を鼓舞して門を潜り逢沢に背を向けて歩き出す。


 「あっ……」


 門を出た瞬間女の子の絞り出したような声が聞こえた気がしたが、1度歩き出したら止まらない。

 結局姿が見えなくなるまで逢沢の足音は一切聞こえなかったが声をかけられることはなかった。

 もしかしから俺を空き巣かなにかと思って警戒していただけなのかもしれない。

 俺はそれで納得することにした。


 たまごを買って戻って来る頃にはすっかりいなくなっていたので、プリントを回収すると夜にはマンションに帰った。

 さすがにもうしばらく顔を見るのも勘弁願いたい。

 いくら美少女でもトラウマはトラウマ。

 どんだけ時が経っても植え付けられたものは簡単に消えない。

 やはりそれを払拭するには彼女を作る他ない。

 決意を新たにベッドに潜り込む。


 朝、教室に入ると、義妹持ちで幼馴染と仲がいい俺の宿敵の新道が、不敵な笑みを浮かべて俺の席に着いていた。

 

 「なんだ気持ちわりぃな」


 朝からあまりいい光景ではないのでテンション低めに新道に話しかける。

 本来なら無視したいところだが、いじめと捉えられるような行為は控えないと仕事に影響するかもしれない。


 「いやーなぁ。昨日いつの間にか帰った薄情な友人にどんなイタズラを仕掛けようかと思って早く学校来たわけなんだけど、そこで2つ面白い噂耳にしたのよ奥さん」


 突然の奥様口調になり、耳を貸すように要求するジェスチャーをしてくる新道に嫌々ながら席につき耳を貸す。


 「実はな遅刻しそうなわけでもないのに入学式早々タクシーで通学してきた新入生がいるって噂を耳にしたのと、その新入生の幼馴染を名乗る美少女が現れてな朝からみんなその噂で持ち切りなのよ。西川なんか知らん?」


 まぁ薄々タクシーの事件は変な噂になるとは思ってたよ。

 高校生にとってタクシー通学はレア中のレアイベントのようだ。

 結構金掛かるし。

 なのでそっちに関しては回答を用意はしてきたが問題はもうひとつの方だ。

 その新入生の幼馴染を名乗る美少女。

 脳裏に浮かぶのは、昨日道路から俺をガン見していた逢沢ハルカ。

 しかし、わざわざ逢沢がそんな変なことをしてマウントをとって上位カーストを狙おうとする必要はないだろうから謎だ。

 逢沢は美少女で成績も良く、記憶にある限りトップカーストから溢れたことがなかったはずだ。

 となると逢沢じゃない誰が目立つために嘘をついた可能性がある。

 これは下手に名乗り出ず飽きられるのを待った方がいいかもしれない。


 「いや、知らん。あんまり変な噂に首突っ込むとそのうち変なイベントに巻き込まれるぞ、ラノベ主人公」

 「だからおれはラノベ主人公じゃない!!」

 「朝からうるせぇ。鼓膜破壊する気か」

 「いや悪い。でもラノベ主人公はやめろラノベ主人公は。中学時代どれだけそれでいじられて来たことか」


 新道は新道で中学時代苦労してたのか。

 あまり好きにはなれんが変なシンパシーを感じるなぁ。

 少しだけまともに対応してやろうと思った。

 

 あっと言う間に昼休み。

 まぁずっとぼーっとしていただけなんだけど。

 中学時代と違い高校生には給食がない。


 「なぁ西川、お前お昼どうすんだ?」


 そんな簡単なことにも気づけなかった俺は途中で買ってくるなんて事している訳もなく昼休みになってピンチを迎えていた。


 「学食とかないのか?」

 「うちの学校に学食はねぇよ1時間目の学校案内で何聞いてた?」

 「それじゃあ購買とか?」

 「購買が利用できんの5月からプリントに書いてあったけど読んでないのか? 西川お前もしかしてアホ?」

 「アホじゃないぞ。お昼が用意でなければ今注文して持ってきて貰えばいいだけだろ」


 最近話題の出前。

 一人暮らし始めてから良く頼むんだが、住所近辺の店にアプリを通じて注文するとその付近にいる人が届けてくれる素晴らしいシステムがあるのだ。

 昼飯の用意を忘れた俺のような哀れな学生もこれで救われる。


 「西川、どこの世界の高校生がお昼ご飯に出前頼むんだよ。有り得ん。あれ配送料でもうひとつハンバーガー食えたりするからもったいないんだぞ? もしかしてお前、金持ちなのか?」


 新道のツッコミで俺は普通の高校生からかなりズレていることを察した。

 周りがみんな大人でしかもプロゲーマーしかいないからそりゃ高校生からズレるよな。

 プロゲーマーで俺よりもしたってほぼいないし。

 基本みんな酒飲める年齢だもんな。


 「あれだ。春休みの間お昼といえば出前みたいな感じだったから脳にそれがこびりついててうっかり出ただけだ。決して金持ちとかそんなことは無い」

 「ふーん。そうか、んでどうすんだよ」


 俺の返答で興味が無くなったのか新道は雑に話を戻してきた。

 出前できない購買もやってないとなれば取れる選択肢はひとつ。


 「今からこっそり抜け出して買ってくるとか?」

 「いやそれもダメだろ。発想が不良じゃねぇか。もしかしてそっち系だったとか?」

 

 新道は今度は疑いの目を向け始めた。

 まぁこれは中学時代の不良が実際にやっていたことだから否定しづらい。

 給食だけじゃ足んねぇからコンビニ行ってくるわって昼休み仲間から金集めて行ってる奴いたなぁ。


 「不良はねぇよ。停学とか嫌だし。……素直に食べない選択をとるさ」

 「西川君もしかしてお昼ご飯忘れてきたの? なら私のサンドイッチ半分食べない?」


 新道との会話に疲れて来たころ。

 すっと1人の少女が割り込んで来た。

 今どき珍しい位の黒髪の少女。

 外国の血が入っているのか瞳は蒼色。

 まつ毛かすっと長くてびっくりするほど綺麗な顔をしている。

 制服にはシワひとつないのに着崩すところは着崩して僅かに胸の谷間が見え隠れしている。

 

 「えっと?」

 「お前まじか。朝自己紹介したばっかだぞ?」

 「は? 覚えてるに決まってるだろ。もちろん」


 いやほんとに聞いていたんだよ?

 でもほら昨日の数分の再会のせいでスタミナ全部持ってかれたし。

 それはもう良くて。今は目の前の少女の名前を当てる事が大事だ。

 確か女子の最初の方だった気がする。

 

 「たぁー? 違う。さ? そうそう桜井アリサだ!」


 とても表情が読みやすく反応からあっさり正解を導き出すことができた。


 「そうそう。だいせいかーい!」

 「絶対覚えてなくて反応で探っただろ。桜井さんこんな薄情ものに食べ物を恵む必要ないよ?」


 新道のやつ余計なことを言い出しやがって。

 ほんとに貰えなくなったらどうしてくれようか。


 「食べ切れなさそうでちょうど食べてくれそうな人探してたからいいの。なんかママお弁当作り張り切ってるみたいで」

 「へー」

 「ついでから聞いちゃうけど2人って同じ中学なの? なんかすっごく仲良く話してるしみんな気になってるみたいで」

 「いや、違うぞ」


 答えてから周りを観察すると確かに見られていたらしい。

 こちらに聞き耳たてることに夢中で、紙パックのジュースにストローが中途半端で止まっている女子を見つけた。


 「え? じゃあ2日で仲良くなったんだ。へー。じゃあ私とも仲良くしてくれるかな?」


 なんだこの娘。

 やたらとグイグイ来るぞ。

 これはもしや好かれて……いや待て。

 入学早々仲良くしてくる女子は危険だ。

 速攻告白して振られた中学時代を思い出せ。


 「もちろん。おれは大歓迎さ」

 「ありがと!」


 あぁ察し。

 この娘、新道を狙いに来たのか。

 この輝いてる目を見れば馬鹿でもわかる。

 そうとわかれば利害が一致しているサンドイッチだけ貰ってそっと手助けしておこう。 

 お礼はそれで良さそうだな。


 「あ、まぁうん。」

 「え? ダメなの?」


 なんでそんな悲しそうな顔するだ?

 やっぱりこの娘俺のこと……て腹減りすぎて同じボケ擦り始めたよ。


 「もちろん問題ない。うん」

 「よかったぁ。それじゃ連絡先交換しようよ!」

 「それいいな! 西川昨日速攻帰ったせいで交換しそこねたし」


 そんなわけで連絡先に2人程追加され、サンドイッチを貰って飢えをしのぐことができた。

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[一言] 主人公が好きになれなかった
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[気になる点] 主人公、海外のゲーマーとの交流等で、英語ができると格好良くて、今後のグローバルな活躍が期待できて良いなあ、と。 主人公、髪型等きちんとすれば、イケメンだったりするのでしょうか。プロとし…
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