幕間、桜井アリサの話
元々私、桜井アリサという少女は今のように目立つ性格ではなかった。
中学時代までの私は、どちらかと言うと大人しめで、クラスに男女各1人ぐらいはいる無口枠にいるような少女だった。
一言も喋らず誰ともつるまず常に1人でいる。 別に1匹狼を気取っていたわけじゃない。
単純に友達の作り方がよくわからなくて気がついた時には孤立していただけ。
それでも毎日学校に行けていたのは当時ハマっていたMMORPGをパソコンでやるためだ。
ここではチャット機能を使っての交流があって、中学時代の唯一私の拠り所だった。
私の両親はそれなりに厳しくて、学校の成績が悪くなるとパソコンを禁止すると言いつけていた。
それがパソコンを買ってもらう時の条件でもあったのだ。
私は唯一の拠り所を守るために勉強だけは頑張ることにした。
しかし受験シーズンに入ると両親はだんだん私に辛辣になってきた。
いつまでもゲームばっかりしてるから友達の1人も出来ないのよとか、女の子なんだからゲームに課金なんてしてないでオシャレのひとつでもしてみたらどうだとか。
両親からしてみれば娘の将来を心配しての事なんだろうけど、私としては口うるさいとしか思わなかった。
だからそんな両親の忠告を無視していのだが、そうなると当然私のパソコンを没収した。
どうすれば返してくれるかと尋ねたら高校受験生の合格と友達を作ることという新たな条件を突きつけられた。
私は言われた通り、受験に合格するために勉強をし、オシャレで可愛くなって友達を作るために努力を重ねた。
スマホまでは没収されなかったからメイクなどは動画を見て勉強したし、オシャレに興味をもったから服にお金を使いといえば買って貰えたから少しだけオシャレにも興味を持つことができた。
そして受験に合格して今の私が出来上がった。
メイクで可愛くなったおかげか友達もすんなりできた。
そのおかげで昔程じゃないにしろゲームをするのも許して貰えている。
最近は手軽に出来るのスマホのFPSにハマり西川君や新道君と定期的にゲームをするようになった。
まさに高校デビュー大成功でハッピー。
運良くトップカーストにも入れて大変だけど楽しい毎日を過ごしている。
そんな時だった。
私のスマホに連絡が来たのは。
『 桜井アリサ。あなたの秘密を握っています。バラされたくなければ今日の昼1人で校舎裏に来てください』
そんな露骨な脅し。
でも私はそれに応じる以外の選択肢はない。
私の秘密、そんなのは考えるまでもなく、中学までの根暗で無口な自分の事。
もしもこれがバラされたら私は今の地位を失うことになるだろう。
高校生活が始まってまだそんなにたってない。
信頼関係が出来上がっているならバレても問題ないかもしれないけど、今はまだそうでは無い。
場合によってはそれをきっかけにいじめに発展するかもしれない。
だから今バラされるわけには行かなった。
だから私は西川達のグループトークに今日は行けないとメッセージを入れて校舎裏に向かった。
校舎裏にいたのは、A組の一ノ瀬マリカと言う少女だった。
後ろには取り巻きの女子が2人いて圧を感じた。
一之瀬さんは中学時代から良くない噂が絶えない少女らしく、自分の都合のためならいじめも平気でやるような人らしいと一之瀬さんと同じ中学の友達から聞いたことがあった。
それで中学時代に1人不登校にまで追いやったらしい。
私は警戒しながら距離を置いて立ち止まった。
さすがにいきなり物理攻撃してくるとは考えにくいが流れている噂が噂だ。
「初めまして桜井アリサさん」
「私を脅してなんの用ですか?」
「大した事じゃないの。ただ知りたいだけ。あなたのクラスにいるはずの西川アラタ君の事を」
「そんなの調べればすぐにわかる事じゃないですか?」
「それがどうにも見つからないのよ。中学時代からだいぶイメチェンしたのかしらねぇ? 全然よ」
「知りませんよ私は」
「そう? ならこの写真を新入生グループに貼り付けましょうかしら?」
見せられた画面には私の中学時代の卒業アルバムの写真が写っていた。
メイクしてないオシャレに一切気を使ってない見るに堪えない昔の自分。
今となっては大嫌いになった過去の私。
「なんでその写真を……」
私は少し西川に近づいたことを後悔した。
近づかなければ多分一之瀬さんに目を付けられることもなかったのではないかと。
「手に入れるにはだいぶ苦労したわ。西川アラタ君の事を探るためにクラスの生徒全員分のSNSのチェックして顔写真か交友関係を把握するつもりだったのに、ほとんど情報もなくって泣きそうだったわ。でも唯一あったのがあなたの名前。だからあなたの事を徹底的に調べたのよ。それで見つけたのが、これ」
何がおかしいのか半笑いでスマホを振る一之瀬さん。
やはり西川君と仲良くなったことが原因だった。
この粘着質な感じから西川君は相当一之瀬さんから恨みを買っているに違いないと確信した。
私は協力する代わりに写真の消去と一切の私の秘密を口外しないことを約束させた。
その日からほぼ毎日、昼は会って情報交換することにもなった。
私が命じられたのは西川君が逢沢さんと幼馴染である確証を得ることだ。
なんでそんなことをするのかは教えて貰えなかったが、そんなことはどうでも良かった。秘密を守るためにやるしかなかったから。
しかしこれがとても大変だった。
確かに西川君と逢沢さんは小中と同じ出身なのだが、幼馴染だとはっきり証言してくれる人はいない。
小学校の頃は仲良かったが中学に入ると疎遠になったぽい。掴めた情報はそれだけ。
だから何とか聞き出そうと買い出しを一緒に行くように仕掛けたが、これも空振り。
もしかしてスパイがバレてるんじゃないの?ってぐらいに会話する暇もなくて最後は意味不明に高級なお肉を買っていたし。
でも失敗したと知られれば秘密をバラされるかもしれない。だから私は確証を得たと嘘をついた。
そうしたら次の指示は遠足のお昼ご飯を一之瀬の近くで食べるように仕向けること。
これは実にスムーズに行った。
一之瀬さんの差し金なのか一之瀬のさんの近くだけ不自然に空いているスペースがあってそこにしようと提案しただけ。
断られることもなく一之瀬さんの近くに私たちの班のかまどをセッティングし、一之瀬さんからの指示を待つ。
そこで一之瀬さんから離れるように指示が来たので私は新道君達を手伝って来ると告げ最もらしい理由で西川君を動けないように火を見るように頼んだ。
私の最後の仕事は一之瀬さんが西川君を連れて行ったらしばらくして逢沢さんを森の奥に連れていくというもの。
逢沢さんは一之瀬さんの名前を出すと抵抗することなく、目隠しを受け入れ着いてきてくれた。
その顔には諦めたの色が浮かんでいたので、もしかしたら逢沢さんも私と同じように一之瀬さんの被害者なんじゃないかと思ったけれど、会話する勇気はなく無言を貫いた。
森の奥に着いた時、私は驚きのあまり混乱した。
あれだけ強気だった一之瀬さんが膝から崩れ落ち、絶望の表情していた。
それをやったのはどう見ても西川君だ。
一刻も早くこの場を離れたい。
何をしたかはわからなくてもあの一之瀬さんに膝をつかせたそれだけで恐怖対象になる。
私は少しでも許してもらおうと謝りながら返答も聞かず逃げ出した。
だってそうしないと裏切った私に何が起こるか分からないから。
西川君がそんなとんでもない人だとは思わなかった。
私は敵に回す人を間違えたかもしれない。
遠足が終わるまでずっと後悔が頭をよぎって楽しめる訳もなく、オリエンテーリングはぶっちぎりの最下位。
夜もまともに寝れず、寝不足のままバスに揺られながら何とか遠足を終える。
もう西川君達には近づけない。
もし怒りをかえば一之瀬さん以上の何かが起こるんじゃないかとそう思うから。




