キャンプ遠足メニュー決め編
班決めの日から数日が経過した。
クラス内の雰囲気は日に日にイベントに向けて、浮つき初めている。
今日は2度目の班での話し合いという事もあってさらに浮ついているのだろう。
今回の話し合いも前回と同じく5時間目。
前回の反省を踏まえて5分前には着席しておいた。
桜井を班に入れたことで、男子の数名から若干扱いが悪くなっているらしいので、悪目立ちしないようにだ。
始業3分前。
担任がやってきた。
教卓に出席簿を置き、教室を見渡すと空席となっている机指さし確認して出席状況を書き込む。
「お? 桜井さんいない?」
今いないのは桜井だ。
今日は珍しく一緒にお昼一緒食べられないというメッセージが入っていたので、新道と2人教室で肩身の狭い思いをして食べていた。
一条さんも遠足のグループとしばらく、食べると言われていたのでわざわざ移動するのもめんどくさいと言うのがめんどくさがり屋2人の本音だったりする。
女子がいるから中庭に行っていただけなのだ。
そのおかげで始業前に着席できたのでこれはこれで悪くない。
「それなら西川達に聞けばわかるんじゃないですか? 同じ班で仲良いみたいですし」
担任の問いかけに、答えたのはクラスでもトップカーストの地位についている斉藤という男子だ。
クラスメイトから何度も斉藤と呼ばれているので覚えてしまったが、あまり交流はないしむしろ桜井を班に引き入れたことで1番ヘイトをかった。
どうやら桜井の事を狙っているようで、何かと言えば桜井に話かけている。
トップカーストの男子だけあって担任と話す機会も多く、どうやらそこそこ信頼を得ているようだ。
「そう? 西川何か聞いてないですか?」
信頼されているからあっさりその言葉を信じて俺に確認をとってくる。
斉藤は俺たちが桜井と今日の昼休み一緒に過ごしていない事を知っているのに。
これは軽い嫌がらせだろう。
俺はクラスで新道と桜井以外とあまり喋らない。
そこから西川は根暗陰キャという認識がクラス内で根付きつつあったところに桜井をトップカーストから奪いとった形になっているので、こういうちまちまとした嫌がらせが起こる。
もちろん俺はプロゲーマーの脳みそをフルに使ってカウンターを仕掛ける。
「俺は知らないが、斉藤の方が知ってるんじゃないのか? 今日も昼休み誘ってただろ?」
今のところ成功率はゼロなのだが、グループに桜井を入れられなかったからか最近露骨に接触の機会を増やしてきたのだ。
皆振られ続けていることを知っているのでクスクスと忍び笑いが生まれる。
班わけからずっと断られ続けているのでさすがに友達といえど笑わずにはいられないのだろう。
「そうなのですか? 斉藤君知ってるなら教えてくださいよ」
「一緒に食べないかって? 誘ったら急いでいるからって断られたんで、知らないすねぇ」
斉藤が答えた瞬間忍び笑いがぐっと大きくなる。
見事にカウンター成功だ。
「やったな西川」
「当然だろ」
新道と顔を合わせることなく、会話する。
本当はハイタッチぐらいしたいところだが、あまり露骨な事をするとホントにいじめられかねないので自粛。
そして5分遅れて桜井が教室に入ってきた。
「桜井さん遅刻ですよ」
「す、すいません……」
「早く席に着いてください」
申し訳なさそうに席に着く桜井をクラスの数名が心配そうに見守る中、担任が黒板に文字を書き始める。
メニュー決め。
「前回決めた班にこの後別れてもらいます。1日目お昼のメニュー決めて今から配るプリントに材料と料理名と使う調理器具書いておいてください。当日はその紙に書かれた分の調理器具しか貸し出さないので適当に書かないように」
担任からの軽い説明の後班に分かれる。
何故か俺の机の周りに全員が集合した。
桜井さんは少し遅れてきた事を余程気にしているのかその表情は暗い。
星河さんは一応班に分かれろと言われたから来ましたけどみたいな仏頂面で少し離れたところにたっている。
新道は後ろなので見えない。
「えっと……おい、この空気なんとかしろ新道」
遅刻したことで落ち込んでいる桜井のおかけで他の俺たちまで気まずい。
他の班が盛り上がり賑やかにメニューを決めている中で俺たちの班だけお通夜状態である。
この中だと桜井が進行すると思っていたのだが今日は様子がおかしいので無理そうだ。
なので新道に振ったわけなのだがその新道も黙りである。
さすがにおかしいと思って振り返って見ると新道のやつは担任の説明をしている5分程度の間に寝やがった。
耳を澄ませて見ると微かに寝息が聞こえてくる。
「おい、新道。いつもと逆だろが」
「やめな。新道って寝たら起きないから」
背後から低く鋭い声がした。
女子の声だが、それは不良としか考えられないぐらい怖い声。
思わず飛び上がりそうになりながら振り返る。
いつの間にか俺の正面まで移動していた星河さんの顔があった。
桜井さんに負けず劣らずの整った顔にさらに驚き漏れそうになった声をぐっとこらえる。
星河さんとは今日が実質初対面。
変な人だと思われたくはない。
万が一にも新道と星河さんが恋人同士になる展開があると少なくとも1年の間は関わる機会もゼロじゃないし。
「そ、そうなのか。でも起こさないとメニュー決めもなにもできないぞ? 桜井さんもこんな感じだし」
「だ、大丈夫だよ。私は」
「うちら3人で決めても寝てたんだから新道には文句は言わせない。それでいいだろ」
星河さんはどうやら文学少女ぽい見た目とは裏腹に、言動には棘あるタイプのようだ。
これがいいなんて言い出す新道はもしかしてドMなのかもしれない。
「そうだな。うじうじしてても仕方ないしサクッと決めちゃうか。まず班のリーダーだけど……誰がやる?」
今回のこの遠足には班のリーダーがあるらしい。
リーダーは調理器具の貸出と返却、と班員の点呼を担任へ報告するという仕事があるようだ。
「私は遠慮したいかな。こういうのはちょっと苦手」
「うちもパス。めんどいし。つーか新道にしとけば?」
「勝手に決めていいのか?」
「じゃああんたやる?」
「それは遠慮したい」
「ならそれしかないじゃん」
「だな」
「寝てるのが悪い。一応うちら起こしたからね」
「2人とも……悪い顔してる」
こんな感じで特に反対意見が出なかったのでリーダーは新道になった。
そして問題のメニュー決めへと進んでいく。
「貸しだして貰えるのはかまどと鉄板、鍋まな板と包丁は調理場にあると。調味料さえあればだいたいなんでも作れそうだな」
キャンプ遠足なんて銘打ってはいるが泊まる所もテントじゃなくて普通の建物だし。
調理器具もだいぶ貸し出してくれるようだ。
「みたいだねぇ。どうしようか」
「うちに振る? ぶっちゃけ調理がめんどくさくなければいいんだけど」
桜井はみんなの意見を聞きながら決めたい派、星河さんはとにかく手間を減らしたい派のようで一向に決まる気配がない。
他のグループのチラ見すれば既にメニュー決めから買い出しの割り振りを決め始めている所もちらほら出始めている。
事前に打ち合わせていたのか既に全部終わらせて他のグループに混ざって雑談している猛者もいる。
俺自身イベントは楽しみだが、中学時代振られたことをこなすだけで文化祭も修学旅行も終わらせてしまったので自分の意見なんてものは持ち合わせてないので、完全に話し合いがストップしてしまった。
他の班が盛り上がる中で俺の班だけ静かなのは精神的にきついものがある。
そんなタイミングで担任が声を張り上げる。
「言い忘れてましたけど、メニューの紙今日の放課後絶対提出ですので今決まらなかったから居残りでお願いします。放課後までに提出がないと調理器具の貸出が無くなるのでそのつもりで。はいメニュー決め戻ってください」
そう締めくくると教卓の上でプリントに丸つけを再開した。
再びザワザワと失われた活気が戻る。
「ホントにどうする? このまま決まらないと放課後残ることになりそうだが?」
「うーん。新道起きないし放課後でも私はいいよ」
「うちは反対放課後はバイトあるし遅れられない」
真反対の返答に頭抱えそうになる。
俺自身プロゲーマーとして働く身だ。
お金をもらう以上遅れられないというのはわかる。
ここは何とか提出できるように意見を出さねば。
と言っても自分の意見を持たないのでここは盗み聞きをする。
プロゲーマーとして常に鍛え続けてきた聴力。
今こそ活かすときだ。
「斉藤とミサっぴがお肉の買い出し担当ね。んで私たちがデザート担当ってことで決定」
聞こえて来たのはどこかの班の買い出し決め。
斉藤の班なんだけどさ。
肉という単語から察するのはバーベキューとだろう。
確かにあれも料理といえば料理だ。
バーベキューってこの状況だと1番楽だよな。
焼いて食べるだけ。
うん、素晴らしい。
「めんどくさいしバーベキューってことでいいんじゃね?」
他に意見が無かったので、採用されてしまった。
「買い出し担当なんだけど誰が行く? 肉と野菜しか買うものないし、4人で行く必要もないだろ」
俺としてはここで行く人数を絞ることであわよくばめんどうを回避したいというのが本音だ。
上手いこと理由をこじつけて新道と星河さんに行かせたい。
「私やるよ。でも結構重いし保管するにしてもうちの冷蔵庫だけじゃ入らないからさ西川君手伝ってくれないかな?」
「男手なら新道でもよくないか?」
「新道君は当日リーダーとして頑張ってもらうんだしね?」
毎度あっさり反論を失い遠足の前日桜井と買い出しすることになってしまった。
これはデートじゃないぞ。
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