不穏な気配
班決めで微妙になりかけた空気もすっかり霧散し、いつも以上に賑やかになっている放課後。
やはり多くのクラスメイトが班のメンバーと放課後を過ごすようで昨日までは無かった4~5人の男女のメンツで集まり、遊ぼうと誘っている声が聞こえてくる。
しかしそれは他の班のみで俺たちの班はと言うと。
まず桜井は、他のグループとどこかに行くらしい。
これは俺たちと組むにあたって反感をかってしまったグループとのバランス調整のためらしい。
グループトークにはそんなような内容の長文と共に何かのキャラなのか目つきの悪い犬がすまねぇと詫びるスタンプが送られて来ていた。
もう1人のメンバーである新道はと言うと班の中で誰も連絡先を知らない星河さんの連絡を聞き出すために即帰宅した星河さんを追いかけていった。
そんなわけで入学から3日目にして放課後ぼっちが確定したわけだ。
「帰るか」
別に寂しくはないぞ。
中学時代の悲惨さを思い出せばこんなの余裕。
俺はカバンを肩に担ぐと無駄に元気よく廊下に飛び出す。
放課後が始まってすぐだからか、廊下は生徒で溢れかえっていた。
想定外の人の多さに飛び出した時の元気はどこかに消え去り、人の合間を縫って進む。
途中何人かにぶつかり舌打ちや文句を言われたりしながも右へ左へ体をくねらせ進んで行く。
ついに人混みを抜け階段へと差し掛かると、そこに怪しげな女子3人組がいた。
「違いますね」
「そ。なら行っていいわ」
「聞いてた話と違いますね。帰るのめちゃ早いって話なのに」
その3人組は、どうやら検問をしているようで1年の男だけを通せんぼして何か検査をしている。
スマホと止めた人の顔を交互に見ているところを見ると人でも探してるのでは無いかと予測がくつ。
学年まで絞られて、顔写真までわかってる人探しなら教室に乗り込めばいいのにと思う。
うちの学校はA~Eの5クラスしかないのだから自分のクラスを抜いて単純に4分の1の確率で探し人をみつけられるって言うのになんとも手間のかかる事してんなぁ。
まぁ今の俺には下駄箱に1番近い階段であるこの階段から降りる以外の選択肢はない。
もう1回舌打ちに耐えて人混みを進む勇気はない。
高校に入ってから一条さん以外の他クラスの人間とは関わってないから少し時間を取られるだけで済みそうだ。
そう結論づけて検問に挑む。
「君1年だよね? ちょっと止まってくれる?」
まず話しかけて来たのは人当たりの良さそうな娘だ。
真ん中のボスぽい立ち位置の娘の右に立っていて、ボスぽい娘の右腕か交渉担当かそんな感じだ。
俺は一言発することなく止まる。
「ありがと。でどう?」
真ん中の娘をスルーして左側でスマホを見ている娘に問いかける。
2度3度スマホを俺の顔を交互に見て数秒固まった。
「んでどうなの?」
疲れて来たのか少しの苛立った口調で急かす。
放課後始まってからずっとこれをやっているとすれば、それは疲れるだろう。
「怪しいですね。髪が長くて見づらいですけど輪郭は似てます」
数秒の間をさらにとりスマホを持っていた娘が呟いた。
その発言に俺は困惑する。
そもそもこの3人とは面識がないし、同級生なのか先輩なのかも分からない。
にも関わらず怪しいですねなどと言われて喜ぶ人はいないだろう。
自分がどういう状況に陥っているかも不明なさなのだ。
困惑と不安以外の感情しかわかない。
「どうするんですか? マリカさん」
怪しいという発言に、ここまで一切反応を示してない真ん中の娘が気になったのかスマホの娘が不安そうに問いかける。
真ん中のボスぽい娘は、ずっと不機嫌そうに黙ているだけだし、そりゃ怖いよな。
「どうするもなにも確かめる」
「ね、ねぇ君名前は?」
ギロっと右の少女が睨み付けられると慌てたように動き出す。
その様子はもはや女王と家臣にしか見えない。
おそらく真ん中のボスぽい娘はこの3人の中での女王なのだろう。
中学時代もこういう特殊な友達をはべらせているやつはいたし。
さて、このいかにも面倒くさそうな状況で名前を聞かれたわけだが、素直に答えていいものなのだろうか?
向こうの探し人はおそらく俺ぽい。
確信に至れないのは多分中学時代の写真を使っているからではないだろうか。
中学時代の俺は振られた事を引きずって、前髪をありえないぐらい伸ばしていた。
受験の前に切ったが、それまではずっと長い髪で過ごしていた。
つまりスマホの娘の発言とも一致する。
これで違ったらめちゃ恥ずかしいけど。
まー怪しいってだけだし人違いの可能性が高いのか?
こうなる思考の沼にハマりそう。
どちらの可能性も正直ある。
面識がないからありえないと思う自分もいるし、証言的には俺だろって思う自分もいるのだ。
迷いに迷って、一応嘘をついておくことにした。
万が一の保険は重要だ。
変な確信があったのに振られて以降俺は女絡みのことに対して少しだけ臆病になってしまったのかもしれない。
「俺は新道ユウマだけど?」
すまん新道。
心の中で謝りつつ反応を伺う。
「嘘っ。新道ってもしかしてユイちゃんの幼馴染の?」
意外にも反応を示したのは右にいた人当たりの良さそうな娘だ。
「あーそうそう。い……じゃないゆ、ユイの幼馴染だよ」
「えーそうなんだ。ワタシの話聞いたりしてない? 同じA組の佐藤なんだけど」
どうやらこの人当たりの良さそうな娘は佐藤さんと言うらしい。
そういえば一条はA組だった。
そういえばA組に女王がいるとも言ってたな。
おそらく真ん中のがそうなのだろう。
名前は忘れたから女王さんと呼ぶことにしよう。
「それで何してたの?」
共通の知り合いがいたおかけで少し打ち解けた俺は佐藤さんから情報を探る事にした。
「マリカ教えてもいいかな?」
「あの娘の幼馴染なんでしょ下手に言いふらしたりしないでしょ? まバレたらその時はね」
何やら意味深な会話が聞こえてきたのだがあえて触れない。
これは考えるまでもなく学校の闇の部分だろし。
楽しい高校生活を送りたい俺としては極力関わりたくないのだが、今回は自分が関わってそうなので、無関係だとわかるまで情報を集めておきたい。
「あんまり言いふらして欲しくない話なんだけど、ワタシたちね、西川君って人の探してるの」 「それはどうして?」
「ワタシたちのクラスにいる逢沢さんって娘の恋を応援してあげようと思って。あの娘すごく恥ずかしがり屋だから告白したくてもできないみたいで……だよね?」
後ろにいる女王とスマホの娘に同調するように視線を送る。
案の定2人からは頷きがかえってくる。
その嫌な笑顔から俺はひとつ察した。
これは女王の逢沢を地に落とすための嫌がらせの一環なんだと。
今朝一条さんは俺と逢沢が幼馴染だった事を当ててきた。
それは俺や逢沢と同じ小中学校にいたやつがリークしたからとしか考えられない。
一条さんは言いふらさない事を約束してくれたものの、この学校に西川アラタがいるということは調べれば少しわかる。
今は入学して間もないので、どこのクラスに誰がいるかが把握出来ていない。
だからわざわざ検問なんてめんどくさい事をしているのだろう。
目的は俺を見つけ出し逢沢に告白させるため。
都合よくキャンプ遠足というイベントがすぐくるわけだし。
要するにこの3人は逢沢から先輩を引き剥がすために幼馴染と付き合わせようとしている。
上手く行かなくても振られた事をネタにしてクラス内の地位を下げるって算段ではないだろうか。
実にドロドロした気分の悪い話だ。
正義感に溢れた物語の主人公ならここで正体でも明かしてこの3人を成敗するかもしれない。
しかし、俺は逢沢に対してあまりいい感情をいだいてない。
元幼馴染とも呼べない関係が断絶された今となっては他人と言っていい。
なので今日のことは聞かなかった事にしよう。
いずれ3人が俺が西川アラタだと気づいたとしても、その時は幼馴染じゃないと言えばいい。
向こうは保身のために俺の名前を使ったんだから俺が保身のために幼馴染であることを完全否定する事はなにも問題ないだろう。
先にやってきたのは向こう。
そう自分に言い聞かせながら下校する事にした。
今日は配信するかぁ。
気が滅入りそうになる時は視聴者と戯れるのに限る。
なんて全然別の事を考えながら。
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