班わけ
始業ギリギリで教室で教室にすべり混むと、既に俺たち以外のクラスメイトが勢揃いして椅子に座っていた。
教卓には担任が来ていて、あんまり遅れないようにと注意を受けてしまった。
「まだ2分前なんだから別にいいだろ」
新道は遅れた訳でもないのにと愚痴を吐く。
担任から注意を受けた事が不服なようだ。
口には出さないものの俺も似たような心情だ。
他のクラスメイトが班決めを張り切って早く集まったにすぎないのにな。
それに授業に遅刻してきたやつに睨まれたのもあってより気分が沈む。
まぁ人間ってだいたい都合のいいものだからなぁ。
「少し早いが、全員いるみたいですし始めてしまいますか」
担任は、俺たちが席に着いたのを確認すると黒板にチョークで何やら線を数本引き始めた。
その後プリントを配り注意点やキャンプの流れを読み上げた。
その内容をざっくり言えば1泊2日。
目的はクラスの親睦と結束を深め今後の高校生活をより豊かにするなんて崇高な目的が文字としてプリントに踊ってる。
キャンプと言うだけあって、初日の昼飯は班で作るらしい。
メニューに制限はなく、予算内であれば制限はないらしい。
調理器具もある程度用意されているみたいだ。
予算は一応1人1000円。
班の人数が4~5人なので、最大5000円まで使えるとなると相当豪華な昼飯になる。
昼食後少しの休憩を挟み夕方までオリエンテーリングと書かれている。
これも班での行動らしい。
何となく小中学校とやること変わらねぇじゃんと思うが、周りを見ると相当盛り上がってる様子だ。
というのもこの班の分け方が男女各2人以上の構成でという決まりがあるので、男子たちの頭の中では、これをきっかけに仲良くなって付き合いたいと言うような妄想が膨らんでいるようだった。
その証拠に男子の8割近くが仲良し同士で視線を交わし合い、こっそり狙っている女子をチラ見しているのが露骨に見て取れる。
「なぁ西川」
「ん?」
声を潜めて新道が話しかけてきた。
新道には一条さんがいるんだから他の女子を狙う必要はなさそうだが一体なんの用だろう。
「一応聞くけどお前狙ってる女子とかいる? 周りみんなやってるし一応おれ達も流れにのっておきたいだろ?」
聞かれてざっと周りを見渡す。
うちのクラスにはトップレベルの美少女は桜井1人しかいないがほかは粒ぞろいで平均点が高い。
そのおかげで桜井一強にはなってないわけだ。
しかし俺はほとんどの女子と交流がない。
唯一交流があるのは桜井くらいだけど、今の所狙って上手く行くとは思えない。
彼女を作りたい気持ちはあるが、もう入学そうそう失敗もしたくないので慎重にいきたところ。
「お前には一条さんがいるだろうが浮気願望か?」
「何度も言うがおれとユイはそういう関係じゃないんだって。小学校の時に告られたけど振ったし」
さらりと告げられた真実に驚きそうになるがプロゲーマーたるもの表情はクールにと無駄にポーカーフェイスを練習していたおかげで表情が表に出ることは無かったが、班決めとかどうでも良くなりそうなぐらい深堀したい。
いや深堀したくない。
興味本意で聞く話じゃないもんな。
「ならモテモテのラノベ主人公の新道は誰を狙ってるんだ?」
「ラノベ主人公じゃないが、狙ってるのはあの娘だ」
新道の視線の先にいるのは、一言で言えば文学少女。
クラスが浮ついているのに1人だけ凛としていて彼女の周りだけ風1つふいてない水面のように静かだ。
あまり親しい友人がいないのだろう。
イベントに興味ありませんといったい感じて窓の外を眺めている。
その後ろ髪はセミロングで手入れにこだわっているのか窓からの光を受けて艶が眩しいくらいだ。
ダークブルーの髪は本人の白い肌と相まって夜空のような雰囲気をまとってる。
席の関係上、顔を見ることはできないが、後ろ姿だけで言えばとても綺麗だと勝手に想像できる。
ひとつ残念なのは。
「誰だ?」
俺がその少女の名前を覚えていないこと。
確かに自己紹介は聞いたはずなんだけどなぁ。
「にーしーかーわー。お前なぁ! いいか1回しか言わないから覚えろよ。あの娘は星河スピカだ。いいか本人はこの名前をあまり気に入ってないからからかうなよ?」
いつも鬱陶しいノリの新道だが、今日はいつにも増して鬱陶しい。というか暑苦しい。
「わかったわかった。それは置いといてだな。いつからだ? 入学してからお前桜井と一条さん以外は男子としか話してなかったよな?」
「小学校からだよ。おれからふっといてなんだが放課後にしないか? さすがに誰に聞かれてるか分からない状況でする話じゃないだろ?」
そういうわけなので、深く追及するのは放課後に回すとして、早速ではあるが皆さまお待ちかねの班分けが本格的にスタートした。
まずは男子同士女子同士仲の良いメンツが固まって小さなグループを作る。
そこから異性のグループを誘って完成となるのだが、俺と新道は完全に組む女子が居なくなっていた。
というのも桜井は、俺たちと本気で組むつもりだったみたいで仲のいい娘達とグループを組まないらしく、男子が余ってるならうちのグループおいでよと引き抜き合戦。
各グループに1人は桜井狙いの男子がいるのかどこもかしこも必死に誘っている。
「桜井ちゃん、まだ組む男子のグループ決まってないならうちグループこない?」
「桜井さんもしかして1人? 俺たちのグループ後1人入れるから来なよ」
「桜井さんやっぱり私たちと組んだ方が…………」
あまりに桜井争奪戦が激化したからか仲の良い女子たちが仲裁に入ろうとしたのだが、ヒートアップしている男子の声に掻き消されてしまった。
「あれ、助けてあげた方がいいよな?」
それを教室の少し離れた所で傍観している俺達。
さすがに見ている場合じゃないと思った新道が俺に問いかけてきた。
俺も助けたい気持ちはあるが、俺も新道もクラスカーストはそれほど高くない。
そんな奴らがでしゃばったとしても助けられない可能性がある。
場合によってはクラスの絆に致命的な亀裂を入れてしまう可能性だってある。
このクラスにいる誰しもができることなら楽しく1年を過ごしたいと思っているはずだ。
だから可愛い女子と行事を楽しみたいと必死に勧誘する訳だし。
「まぁそれはそうだが、俺たちが言って助けられると思うか? 昔テレビで見たバーゲンセールより荒れてるぞあれ」
「確かにそうだけどあのままだともみくちゃにされそう」
「ならここはお得意のラノベ主人公パワーでも使って助けて来たらどうだ?」
「2人で助けに行く選択肢はないのかよ」
「ないだろ。俺たち2人があの人混みに行って桜井を救出したとしても、根本的に桜井をどこかのグループに入れて誘いをやめさせることには繋がらないからな。助けたいならまず仲間集めしかない。それも女子」
今揉めているのは1人でいる桜井がどのグループに入るかって問題だ。
グループ作りのルール上男女最低でも2人ずつは必要。
今俺たちは2人しかいないので桜井さんをグループに迎え入れる準備ができない。
その状態で無理やり桜井さんを助けようとすれば反感を買わないわけが無い。
「でも待ってくれよ西川。ほとんどの女子はグループを作ってるぞ? 都合よく1人の女子なんていないだろ」
「いるだろうがそこに」
先程から一切このイベントに興味の欠片も示さない孤高のダークブールの髪の星河さんが。
「まてまてまてさすがに西川。ハードル高くないか?」
「俺は別にいいぞ。新道が恥ずかしいから桜井を見捨てるというのならそれでも」
幼馴染を振ったこいつは少し女絡みで苦労すればいいと思う。
振られた側としてこれくらいの意地悪は神様だって許してくれるだろ。
「無理無理。お前それはちょっと」
さすがにハードルが高いと渋る新道だが、俺はそれを許す程優しくはない。
「んじゃ他に女子のあてがあるのか? もうほとんど組み終わってるんだぞ?」
これは本当で、高校合格共に発足したグループトークのおかけで実はほとんどの人間関係は構築済みらしく、班わけはとてもスムーズに行われている。
俺のような中学生活失敗プロゲーマーや新道みたいな男子から嫌われラノベ主人公みたいな人間でもない限りは、溢れることはないのだ。
逆に言えば余り物は余るべくして余るので残っている女子は星河さんと、桜井それから数名の陰キャ女子の集団とぼっち男子が1人。
陰キャ女子は明らかこういういイベントが苦手なのかアニメキャラぽい落書きにセリフ書いて遊んでる。
ぼっちは捨てられた子犬のような目でいつ拾われるんだろうみたいな感じで、ソワソワしていた。
星河さんは興味なさげに机に突っ伏しまま動いていない。
「わかった。おれが星河さんを誘って成功したら西川が桜井さんを助け出してこい。お互い平等に恥ずかしい思いはすべきだ」
新道はそう言い残し星河さんに特攻していった。
コソコソ話しているから会話は聞こえないが顔をあげて会話しているあたり門前払いではなさそうだ。
しばらく会話を続け新道がこちらに引き返してきた。
「さぁ勇者西川よ。グールの軍勢からアリサ姫を救いだすのじゃ」
どうやら成功したらしい。
「さすがにスルーは恥ずかしいんだ?」
そんな新道の言葉を2つとも無視して、俺は桜井に飢えたグールの群れに飛び込む。
折れない桜井にだんだん苛立ってきているようで男子の口調は暴言一方出前だ。
「いいから俺の所に入れよ!」
「いやいや僕の班でしょ」
みたいな会話を永遠やっている横からすっと現れる。
桜井は俺を見るなり少し怒ったような表情をして口パクで遅いと主張してきた。
さすがに無言で連れ去るのは良くないと思った俺は目の前のグール達を倣い班に誘う。
「俺の班、後女子1人だから入ってくれない?」
「よろしくね」
桜井が俺の手を取ったところで、グール達の声が静まり、不満に変わる。
「おいお前。俺たちが先に誘ってたのに横取りすんなよ」
「そうだ僕が1番最初に声をかけたんだから」
「いやおれだ」
「いや違う」
俺を放っておいて喧嘩になりそうな空気になってきた。
しかしそれを止めたのは桜井だ。
「あのねみんな。誘ってくれたのは嬉しいけど、みんなのグループは私が入らなくてもグループとしてOKだったよね? でも西川くんのグループはまだ人数が足りてなかったの。だから私は西川くんのグループに入ることにしたの」
最初から組むのは決まっていたが、なんとも見事に理由をでっち上げクラスを鎮めてくれた。
おかげでその後もスムーズに班決めを終える事ができた。
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