イベントの気配
高校生活3日目。
気がつくと4時間目の授業が終わっていて、教師が教室を出てった後だった。
皆、昼飯を取りだしスマホで連絡をとりながら他のクラスで仲の良い人達と合流していく。
「なぁ、西川。ちょっといいか?」
俺はいつものようにぼーっとして過ごしていた所を新道に声をかけられようやく昼休みである事を悟る。
「ん?」
今日の新道はなんか深刻そうな顔で俺に声をかけてきた。
何となく嫌な予感がしなくもない。
怪訝な顔になりながらも顔をあげる。
「昼飯外で食わないか? ここだとちょっと」
新道は周囲を軽く見渡してから小声でそう言い出した。
教室内に残っているのは、クラスの端っこでそっとしているような大人しい人種の人とクラスカースト二軍の女子のみ。
桜井さんを含めたトップカーストのメンツは既に教室の外らしく姿は見えない。
本来ならめんどくさいから断る所なんだけど、さっきからちょくちょく突き刺さる二軍女子の邪魔オーラに多少居心地の悪さを感じている。
なのでここは気分転換も兼ねて外で食べるというのも悪くないだろう。
「まぁいいぞ。なんか居づらいしな」
しっかり嫌味を言うのも忘れない。
プロになる前煽りザルと呼ばれた黒歴史が顔をのぞかせた所で俺はビニール袋を持って廊下にでた。
廊下に出てすぐ窓の下を見た俺達は自分たちの見通しの甘さに苦笑いを浮かべるしか無かった。
「下めちゃ混んでるなぁ」
「誘った癖に場所の見当つけて無かったのかよ」
窓の下見える中庭は本来緑色の芝生が見えるはずなのだが、昼休みに限ってはカラフルになっている。
ちょっとしたアートのように色とりどりでそれが絶えず動き回るので人によっては気持ち悪くなるかもしれない。
「おれだって外で食うつもりは無かったからな。でも安心してくれ。手は打ってある」
やけに自信満々な新道に多少疑問に思ったものの空腹の対処の方を優先すべきと判断して黙ってついて行く事にした。
外に出るとぶわっと風が全身を撫でていく。
「風強くねぇか?」
「まぁまぁ涼しくていいだろ、な?」
新道になだめられながら、中庭へと向かう。
先程上から見た時同様に中庭を埋め尽くす人。
何とか通れるスペースはあるが、弁当箱の横を通らねばならないのでいい顔はされない。
できる限り端を通るがそれもあまり意味はなさそう。
しばらく肩身の狭い思いをし続け、中庭の奥の方にまで来ると途端に人の数が減り歩きやすくなった。
「あっやっときた。こっちこっちー!」
俺たちの顔を見るなる軽く手を振って出迎えてくれたのは桜井達だ。
「なんで桜井さんが?」
「あれ? 新道君説明してなかったの? というか西川君グループトーク見てよもー」
「え?」
「な、だから言ったじゃん。 西川のやつ絶対メッセージ確認しないってさ」
全く話が見えて来ない。
どうやらメッセージとかトークとかいう単語からスマホなのはわかるが。
ひとまず俺は、スマホのメッセージアプリを立ち上げる。
メッセージアプリの1番上昨日できたエンジョイゲーム同好会という俺と新道と桜井さんのグループトークに、よろしくの文字と共に未読の通知が来ていた。それも15件。
プライベート用のスマホの通知としては異例の数だ。
軽くさかのぼれば、単純で明日お昼一緒になんだけど中庭で食べようと朝の6時に桜井さんからメッセージがあって、7時頃に新道が返信してトントン拍子に計画が進んでいた。
つまりそういうこと。
だが、ここでまだ解消されてない疑問がある。
先程俺は桜井達と言った。
もう1人この場にはいるのだ。
「グループトークには俺と新道と桜井さんしかいないのになんでそこに一条さんまでいるんだ?」
「何? あたしがいちゃ悪いわけ?」
今朝の話はお互いのため言いふらさないという条約を結んだからか一条さんの態度は出会った時よりもあたりがきつい。
まぁ変に仲良くなったと思われて変にぼろを出すよりはいいと思うのであえてスルー。
「私が誘ったの。迷惑だったかな? やっぱりこういうのは皆で仲良く食べた方がいいって聞くし」
微妙になった空気を察して桜井さんがフォロー。
こうなると空気を乱してしまった俺は謝る他ない。
「いや、そういうつもりじゃ無かったんだが……単純に気になったというか」
「ユウマのいる所にはだいたいあたしはいるんだって覚えて起きなさい」
一条さんがひと笑いとった所でようやく俺と新道も腰を下ろす。
「それじゃあ食うか」
「だな」
「お腹ペコペコだよ」
「ユウマが遅いから先食べようかと思ったぐらいよ」
新道と桜井さんは弁当箱を取り出し、俺と一条さんはコンビニのビニール袋の中身を広げる。
「え?」
困惑したような声を漏らしたのは桜井さんだ。
俺と一条さんのビニール袋を交互に見ている。
「どうした桜井さん?」
つい癖で買ってしまったエナジードリンクを1口飲んでもまだ交互に見ていて気になった俺はつい突っ込んでしまった。
「いやー、2人共同じコンビニの袋だから」
「そういえばそうだね。まぁユイは絶対弁当作らないと思ってたからわかるけど、西川お前」
「なんだよ」
「てっきり出前してもらうのかと思ってよぉ」
「昨日のやつ引きずってんじゃねぇーよ。昨日は入学2日目で給食ないの忘れたんだよ」
「なんの話?」
「昨日ユイはいなかったもんな昨日さぁ」
「余計な事言うんじゃねー」
「えー教えてよー気になるんだけどー」
みたいな感じで弄られ弄り笑いながら昼ごはんを食べ進める。
あらかた飯を食い終えてしまうとそこからはスマホ片手に雑談となる。
その中で問題が起こったのだ。
「そういえばさ、うちの学校あるんだって」
「なにが?」
「遠足だよ遠足。正確にはキャンプらしいけどね」
「キャンプってあの泊まるやつだよな?」
「当たり前じゃでしょキャンプなんだからさ西川君もしかしてアウトドアとかあんまりしないの?」
「しないな」
「あたしとユウマは中2までは行ってたよね」
「そうだったな。車でちょっと行ったところにキャンプ場があって毎年夏の恒例だった。去年は受験だったから行かなかったけど」
一条さんは露骨に地雷踏んだみたいな顔してるんだが。
俺的にはようやく吹っ切れたから気にしなくてもいいのだが。
というより泊まりがけの学校行事の方が問題だ。
これでも俺はプロゲーマーをやっていて放課後の日程は配信かチーム練習が夜には入る。
今は入学と引越ししてまだ新しい生活に慣れてないという理由で、今は免除してもらっているのだが、そろそろ再開したいとオーナーからオーラが出ている。
俺自身も今年は世界を狙いたいと思っているので、練習を再開したいという思いはあるのだ。
しかも配信の方は月に10日以上するという契約でお金をもらっているのでその貴重な時間を1日いや準備や遠足後の事まで考えればそれ以上に取られるのはきつい。
これは後でオーナーと相談しないとな。
「ちなみにいつなんだ?」
「多分1週間後ぐらいだと思う。5時間目班決めって先生言ってたらしいし」
「班?」
「西川、さすがに班はわかるだろ」
もちろん知ってる。
中学時代苦い思い出を出しまくったやつだ。
振られたショックでゲームしかしなくなったおかけで友人と呼べる人間が中学校に1人も出来なかったから常に誰が引き取るかで押し付け合いされてたし。
見かねて担任がトップカーストの所に入れてやってくれってとか言い出して、女子に嫌な顔されながら、申し訳なさと恥ずかしさを代償にして入れてもらう惨めなやつね。
しかもめちゃくちゃ雑用振られてトップカースト様達は悠々と遊んだり喋ったりしてるんだよなぁ。
思い出したら泣きそうになってきたぞ。
「もちろん知ってるっ。知ってるぞ」
「なんでちょっと泣きそうになってるの?」
「西川君もしかしてぇ……」
「ユイやめてやれ」
先程まで散々いじって来ていた一条さんと新道が気を遣うぐらい酷いことになっているらしい。
「西川安心しろ。おれが組んでやるよ!」
「わ、私もいいよ?」
「あたしはパス」
「一条さんクラス違ぇだろ」
「はぁ? ボケよ」
初めて昼休みのチャイムがなり終わるまで教室の外にいた気がする。
そんな事を思いながら、昼休みを過ごすのだった。
それを見ている人影にも気づかず、呑気に。
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