振られてプロゲーマーに
「ゲームばっかしてる陰キャと付き合うとか無理でしょ。将来性もなさそだし。もー変な冗談やめてよ」
俺の一世一代の告白に対して幼なじみの逢沢の返事は半笑いでキツめの言葉だった。
確かに当時の俺は、陰キャとしか言いようのないぐらい暗く地味で学校の成績もぱっとしない運動神経の普通で、ゲームしかしてない存在だった。
小さな頃からあまり身体が強くなかった俺にとってゲームは普段できない事ができる世界でそれが楽しくてついつい勉強を疎かにしていた節がある。
暇さえあればゲームをしていたけど、友達もゲームきっかけで仲良くなった人達のおかげでいじめられたりとかはしていなかった。
それでも逢沢とは小学校の時からほぼ毎日登下校をしていたし、家も隣同士で、お互いの家で寝泊まりし合うぐらいの仲だった。
家族ぐるみの付き合いってやつだ。
妹なんかは逢沢を姉のように慕って2人で買い物に行ったりしていたらしい。
だが5年6年の時は一緒に近所の夏祭りだって行ったわけだから、これは完全脈アリと思っていた。
当然振られるなんて想像もしてなかった。
なんなら中学生になったら告白しようと決め、中学の入学式終わりにドヤ顔で呼び出したわけだ。
結果は冒頭の通りの惨敗。
それどころか冗談扱いされて私とあなたが釣り合うわけないでしょと言われてる気さえしてくる。
実際はそこまで思っていないのかもしれないけど想像もしてない振られたショックは俺の思考を一瞬でネガティブに染め上げた。
普段そこまでネガティブに考えるような性格ではないにしろ、それぐらい衝撃的だったのだ。
「なんかごめん。私これからクラスの親睦会あるからじゃね」
逢沢は気まずそうに言って去っていった。
その遠ざかっていく背中が見えなくなるまで俺は何も言えずにいた。
そんなわけで入学早々振られた俺は暗黒の中学生時代の幕開けになるはずだったのだが、2つ程の幸運により想像よりもいい中学生活を送ることになる。
1つは入学早々の告白を広められなかったこと。
ぶっちゃけ広められていたら不登校待ったなしだったんだけど、どうやら逢沢は最低限のマナーは守ってくれたらしい。
しかし、振られた俺は気まずさから逢沢と露骨に距離をとることにした。
振られた相手と仲良くやれるメンタルがなかったし。
万が一にも仲良くしてて彼氏出来たとか聞いたら発狂しかねんので自己防衛のためにというのが大きい。
2つ目は振られたことから現実逃避をするようにゲームにより深くハマっていった。
その中でもバトロワ系のFPSゲームは暇つぶしとしても現実逃避としても最高で、最初の方はやればやるだけ上手くなれる状況が楽しくかった。
強くなれば当然楽しくなるわけで、放課後誰よりも早く下校しては宿題もそっちのけで、毎日平均8時間はプレイしていたと思う。
いちいち数えてないから正確には分からないけど体感はそれぐらい。
1年近くそんな生活を続けていれば、同じランクにいる上手い人達と何度も撃ち合う中で交流が生まれて、その中の1人が他のゲームのプロで何度かオフ会までする仲になれた。
そのプロゲーマーの方に誘われてそのゲームの世界大会の予選に出ることになり、見事予選本戦と勝ち抜き、見事世界4位に。
そこでFPSゲームのプロチームを作ろうとしている人にスカウトを受け、中2の秋に正式にプロゲーマーになった。
この頃は、このゲーム以外やっていなかったのでこのゲームが全世界で人気でリーグ戦をやっている事を知らなかった。なので
めちゃくちゃ胡散臭い話だとは思ったもののプロゲーマーの人に背中を押されてプロになることを決意。
親からはプロゲーマーになる上で高校までは卒業することを約束させられたが、オーナーは優しい人である程度融通してくれることを約束してくれて今のところは守られている。
テスト期間前にはチーム練習を休ませてくれるし。
プロになってから約半年となる中3の夏には日本最大の大会で見事に優勝して賞金が引くぐらい入ってまさに勝ち組となった。
一応作っておいたSNSのフォロワーも20倍近くになったし、スポンサーが正式についたおかけで機材も新しいものが手に入った。
さらにいえば優勝効果で知名度が上がったおかけで配信? とか言うゲームやってる所を垂れ流すだけでお金が貰えるらしい。
そして高校入学式前日となった今日。
「ふふふっ。あのこっぴどく振られたところから約3年そろそろ彼女作りに力を入れてもいいのではないか俺?」
賞金で調子にのって借りたマンションの一室で俺は鏡に向かって語りかけていた。
表向きは高校生になったから一人暮らしの練習ということになっている。
実際は配信するために家族バレを防ぐための一人暮らし。
本音をいえばたまに顔を合わせる元幼馴染を見るのがきついから。
振られたおかげですっかり苦手意識を持ってしまったらしく、顔を見るだけで変な汗がでるし、呼吸も荒くなる。
なので少しでもエンカウント率を下げておきたいのだ。
しかしそのトラウマも彼女を作ることで払拭されるだろう。
とにかく高校では彼女を作る。
そうすれば俺はリアルでも最強になれる。
完璧な計画を携え明日の入学式に備えて寝ることにした。
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