アントシアニンの名を覚えた女
「ほらっ、アントシアニンがどんどん増えている」と、女がこちらに見せにくる。
もう顔にまで昇っていって男と女の判別さえあやうい。こうまで変わっていくと、この女との繋がりが今なのか昔であったのかさえあやしくなる。髪の色まで塗られてしまって、茶色よりも黄色に近い色になっている。けれど、こうしたひとつひとつを相変わらずの真っ白い歯がニコニコ満足そうに言ってくるから、その健気な表情を見せられると、やっぱり一緒に調子を合わせてしまい、さっきまでの決意など何処ぞ遠くへと追いやられてしまう。ざっくざっく結わえ付けるようなケロイドが這い廻る姿を、アントシアニンなどと覚えたての言葉にすがるのは、もうよしてほしい。
藍で染めた衣々で顔を覆うのをよす代わりに、うつろで偽りの言葉を身にまとう知恵がついてしまった。何ものかで隠さねばならぬのがこの女の身上であるなら、どちらがこの女を不憫に仕立てているのか。もう、この女の肌に直接うかがうよりほか手立てはない。