再会
「ねえ覚えてる?私が死んだ時ここでーーー」
彼女からの言葉をしばらく待った後、僕は続きを促すように顔を上げた。
彼女…菅原日菜は窓の外の空を見て目を輝かせていた。
そこには満天の星空があった。
僕が引っ越して来たのは今から3ヶ月前。高2の始業式に合わせて10年ほど前から喧嘩の多かった両親が離婚したのだ。
父も母も子どもと暮らせる状態ではなく、僕は仕送りを頼りに田舎で1人暮らしを始めることになった。
さっぱりとした性格なので、重い事情を抱えているわりには毎日楽しく過ごしている。
なんと言っても田舎は空気も水も空も綺麗で最高だ。ずっとここに住むつもりはないから存分に堪能したいと思う。
通学にはバスで1時間。田園風景を視界の端に捉えながら音楽を聴くのはとても素敵な時間で、全く苦ではなかった。すぐ飽きるんだろうけど。
学校に着いて担任の先生に教室まで連れて行ってもらう。転校初日は何度経験しても慣れない。
ーーーガラガラッ
「みんな席に着いてね〜!新しい仲間を紹介するよ!!…さ、入って。」
先生はなんだかおっとりとしつつも元気な雰囲気で、いい人感がにじみ出ていた。
僕は入室を促されて教壇の近くまで行き、教室を見渡して口角を上げる努力をした。
「堀野蒼です。東京から来ました。よろしくお願いします。」
その時、見覚えのある顔を見つけてかなしばりのように動けなくなった。
一瞬普通にすごい偶然だね!なんて言って話しかけそうになった。そんなはずない。
そんな僕の気持ちなんてわからないみたいに日菜は声をあげた。
「えーーー!蒼くんじゃん!!!びっくりしたぁー!」
待って待って。理解が追いつかない。
まず東京で同じクラスだった菅原さんがこんな田舎に、しかも転校先の同じ学校で同じクラスに居ることがすごいし、彼女は2年前に事故で死んでいるはずだった。
「わ、久しぶりだな!」
僕の動揺とは裏腹に、他のクラスメイトもにこやかに「え?知り合いー?」「なになに元カレー?」などと話しかけているので当たり障りのないように返した。
僕が座るのは菅原さんの後ろの席に決まり、席に着くなりにやにやと振り向いてきた。
「蒼くん目見開きすぎだよ〜。幽霊でも見たみたいな顔しちゃってさ〜!」
地縛霊ジョークを生きているうちに聞くことになるとは思わなかった。
僕が何も返せずにいると菅原さんは面白そうに黒板を向き直して間もなく授業が始まった。