最終章 「後片付け」
最終章 「後片付け」
彼が、死んだ。自殺した。
何故か傷口は、完全に止血してあったらしい。
それでも、心臓を破れて即死だったらしい。彼の手には、漆黒の毛が絡んでいたらしい。
私は思う。クロちゃん。あの黒猫が涼太を守ってくれたんだ、と。
2日後。涼太の葬式が行われた。
参列者は、黒陵院と名乗る集団と私と涼太の元中学校の生徒数人で行われた。
泣いてる人は、いなかった。私以外。
お焼香を上げ、私は涼太の死に顔を見た。
死んでる。そんな風には、見えなかった。
安らかに眠り、クロちゃんに会える。そんな日を待ちわびた顔だ。
あの日、涼太がいなくなった日。私はすぐにわかった。
「やり残した事がある。」
それを、実行したんだ・・・。
私宛の置手紙に「今までありがとう。」と書かれていた。
心配になった私は、涼太に電話した。
出たのは、涼太ではなく。「ルイ」と名乗った。
ルイさんに、ここの場所を教えてもらい。すぐに向かった。
彼の故郷。異様な気もしたが、気にせず進んだ。
そして、私は見てしまった・・・・。
彼が・・・涼太が、血塗れで立っていた。その奥には、綺麗な女の子もいた。
傍らには、父親らしき人物が倒れていて、血溜まりを作っていた。
暫く立ち尽くした後、涼太は歩き出した。
涼太は、崖の方まで登り、お墓の前で止まった。
「クロ。もうすぐ、逢えるな・・・。」
その瞬間、彼は血に塗れた黒い刀を、自分に刺した。
止めたかった。でも、止められなかった。
何かに邪魔されているように。「行くな。」って言われているように。
「クロ・・・・ありがとな・・・・。」
そう言って、死んでいった。
体全体から力が抜けて、地面に崩れ落ちた。
私はどうする事も出来ず、ただ泣いていた。
「あなたは?」いきなり、後ろから声を掛けられた。
さっき見た綺麗な女の子だ。
「あ、あの、涼太の・・・友達です。」
「あぁ、白蓮様の。私、霞瑠衣です。白蓮様とは、幼馴染にあたります。」
「霞・・・?白・・蓮?」私は涼太の友達と言ったはずだ。
「お友達なら、知っておられた方がいいと思います。彼の全てを。」
ルイさんは、この人だったんだ。
それから、ルイさんは、彼について教えてくれた。
「黒陵院宗家、元20代目当主。黒陵院白蓮様。それが、霞涼太の本当の名前です。」
いきなりで、頭が付いていけなかった。黒陵院って?20代目当主?
私の頭は、どんどんこんがらがっていく。
改めて、ゆっくり言って貰った。
そこで、分かった。彼は偽名を使っていたのか・・・。
それでも、何故偽名なんて使うんだろう?かっこ悪い名前・・って訳でもないし・・・。
でも、今はそんな事より、彼が死んだと言う事が、何より衝撃だった。
「白・・涼太様より、手紙を預かっています。どうぞ。」
私は手紙を受け取った。A5の用紙を4つ折りにした手紙だった。
『ミナへ
たぶん、これを読んでる頃には、俺は死んでると思う。
親父を殺して、俺も死のうと決めた。
これが、間違っているんか、正しいんか。それはわからんけど。
クロの仇や。刺し違えてでも、親父を殺す。
不本意やけど、お前に後片付けを頼みたい・・・。
俺が死んだ事を、この街で広めてほしい。親父を殺した事も、全部。
それが、俺の最期の復讐や。涼太としての復讐と、白蓮としての復讐や。
これが、正真正銘。最期になる。
ほんまに、今までありがとう。
涼太』
これが彼の「けじめ」なんだと思った。
そして、彼の後で私が「後片付け」をする。
彼の為になら、私はなんだって出来る。
だって、好きだから・・・。
そして、私は彼の言うとおり、この村全ての人間に「彼の死」を告げた。
お墓は、クロちゃんの横に立てた。
「クロ」と「霞涼太」。二つの名が並んだ。
彼に愛された猫と、愛故に復讐者に染まった彼。
哀れだろうか?醜いだろうか?
私には「純粋な愛」。そう。可憐に輝いて見えた。