第6章 「墓参り」
第6章 「墓参り」
次の日、俺は徹夜明けのボーっとした頭を、風呂で清めた。
時計は、8時を示している。
久しぶりに帰ろうと思う。故郷へ。元我が家へ。
家を出て、屋根に登った。朝の一服。風呂上がりの一服も乙なものだ。
制服姿を見掛けない。
あぁ、そういえば土曜だった。
俺は、タバコを吸い終えてから屋根を下りた
俺の頭の地図で、駅を目指す。
正確ではないが、的確だ。
いつも「屋根回り」の時、散策してるから迷う事はない。
案外簡単に、駅に入れた。でも、人でごった返していた。
何故だ。土曜なのに。
その答えは、掲示板にデカデカと飾ってあった。
どうやら、隣街で規模の大きな祭があるらしい。
「漢の紅蓮祭!!☆」
ポスターの男は、血まみれで笑顔を作っていた。
正直、サディストとして、血が騒いだ。
まぁ、墓参りに行くんだ。そんな遊びなんか、やってる暇はない。
だが、人込みは苦手だ。
だから、待ち合い室で時間を潰した。
途中おばあちゃんに、質問責めされたが「え?あ、まぁそうっす。」で流した。
しばらくして、人が疎らになった。
それを見計らい、電車に乗る。
予定通り、空席に座りIpodで、音楽を勤しむ。
ポルノのラテン調に酔いながら。
1時間程で、目的地に着いた。
久しぶりの故郷の地。
懐かしくはあるが、再会の楽しみは微塵もない。
それにしても懐かしい。
10程歩くと、大きく寂れた日本家屋がそびえ立っていた。
「黒陵院」
忌ま忌ましい表札だ。
「珍しいですね。里帰りですか?」
後ろから声がした。
「いつ以来や?お前と口聞くんわ・・・。」
振り返える。懐かしい顔がある。
「久しぶりですね。黒陵院白蓮様。」
「残念。今は、霞涼太や。」
まぁ、こいつはわざとだろう。
「参りましょう。ご自宅へ。」
そして俺は、元我が家で誘われた。
俺は、気になってた事を聞いた。
「剥奪者のお前がなんで、ここに出入り出来るんや?」
剥奪者。それは、黒陵院の名を剥奪された者。いわば反逆者だ。
「あなたと違って、私は真面目なんですよ。今では、黒陵院の専属メイドです。」
霞瑠衣。彼女の名前だ。俺に「霞」をくれた張本人。
俺に名をくれた。反逆者に名をくれた恩人だ。
「へぇ、そらすごいな・・・。」
「軽はずみな言動は、止めてくださいね。私が叱られますから。」
昔と変わらず、燐とした瞳で闇を見つめている。
俺は父親の前に、連れてこられた。
「何の用だ?」
逢ってすぐに、これだ。こいつは相変わらずだ。
「別に。ただ、死に顔でも拝もうと思ってな。」
俺も相変わらずだ。こいつを前にすると、戦闘モードに入ってしまう。
だから、今までここに戻ろうとは思えなかった。
「霞様。不謹慎ですよ。」
しばらく、睨み合いが続いた。
が、今回は俺の負けだ。あの腐った顔を見るだけで、殺意が湧いてくる。
「ルイ。どっか、案内してや。」
俺は、ここから抜け出すために、ルイに話を振った。
そして、ルイの返事を待たずに歩き出した。
この屋敷は、日差しが届かない。たかだか、10分の話なのに物凄く長く感じた。
ひさしぶりに、ルイと並んで歩く。
幼馴染とは、縁深いものだ。中2・・・いや、4月だからもう中3だ。
この年になっても、ルイと歩くだけで、落ち着く。
好きとかそういうのじゃない。ただ、一緒にいた。
それだけだ。
黒陵院宗家の俺と、分家のルイ。
ただの主従関係じゃない。俺が余所余所しい態度を叱って。
それ以来の付き合いだ。
「どこへ案内しましょうか?」
ルイが昔に戻ったようだ。違うのは、完璧になった敬語とポーカーフェイスだけだ。
「もういいやろ?何回も言わせんなよ。ルイ。」
それを聞いて、ルイもあの頃に戻ったようだ。
ただ、嬉しいとか楽しいはない。それは、ルイも俺も変わらなかった。
正直な話、敬語は苦手だ。そして、人間4ヶ月も別の場所に住めば、故郷を忘れてしまう。
俺だけかもしれない・・・。
でも、俺には断片的な物しか残ってない。
だから案内人が必要だった。
「クロのいる場所や。ここに来た理由はそれだけや。」
「やっぱり、白蓮は変わらないんやね・・・。」
感慨深げに、卒業アルバムを眺めているかのように、静かに言った。
「行こっか。クロちゃんのいるとこ。」
俺は、ルイが見える位置を保ち、着いていった。
そして、あの日のけじめの、宣戦布告をしに行った。
30分程、歩いただろうか・・・。
見覚えのある、海を臨む大きな崖。ここから落ちれば、確実に死ぬだろう。
土の盛り上がった場所。クロの亡骸が眠る場所。
俺が作った墓標には「クロ」と、しっかり書いてある。
墓前には、クロが好きだった。勿忘草が置いてあった。
「お前か?」直感的に聞いた。
「うん・・・。」ルイは、泣いていた。
もらい泣き。復讐を果たすまで、枯らせた筈の涙が涙腺を熱くさせる。
駄目だ。まだ、復讐は終わらない。我慢だ。
静かに手を合わせて、クロの幸運を祈る。