第2章 「屋上」
第2章 「屋上」
真面目に授業を受ける。その生徒を、遠目に眺めながら時間を潰す。
彼女とは、変な雰囲気になってしまい。
妙に居心地が悪い。なんなんだろう?このもどかしさは。
気が付いた時には、4現になっていた。
腹が減った。この感覚が、俺を現実に戻した。
4現は、国語らしい。
眼鏡を掛けた年増の女教師。名前は・・・知らない。
教室の風景に飽きた俺は、窓を開けてグランドを見渡す。
体育の授業中だった。
むさ苦しく雄叫びのような、男子のランニングと、甲高く発狂したみたいな、女子の柔軟。
最近、何をしていても楽しくない。
元よりあの日を境に、楽しむも糞も無くなった。
「霞!!」
先生が怒鳴っている。俺を呼びながら・・・。
「なんすか・・・?」
「何回も呼ばすな!この問題、答えて。」
そんな怒らなくても、と思う。
だが、今時の先生は適当に聞き流せば、それで満足する。
ふと、黒板に目をやる。
そこには、大きく漢字が書かれていた。
「これの読み方、答えて。」
『蒲公英』
どうやら、この女は俺を嘗めてるらしい。
漢字以外はまったく駄目だけど、漢字に掛かれば俺の右に出る者はいない。
そう自負している。
「タンポポ。」
「・・ようわかったな・・・。」
なんだ。まるで、俺に恥を掻かせたいみたいな言い方だった。
どれだけ性格が悪いんだ・・・。
俺はもう、退屈過ぎて寝てしまった。
授業の終わりを告げるチャイムで、目を覚ました。
いや正確には、彼女に体を揺らされて起きた。
「授業、終わったよ。」優しく微笑んだ。
でも、俺の目には、それが「偽りの笑顔」にしか見えなかった。
昼食を摂る。何故か、彼女も着いてきた。
「で、なんか用?」
向かい合って、弁当を食べてる彼女に聞く。
「ううん。別に何もない。」
僅かな沈黙が、二人の間を流れる。
「私、片桐美菜って言うの。よろしく。」
「ん。よろしく。」
彼女・・いや、片桐はもったいぶって言った。
「そうじゃなくて、君の名前は?」
「あぁ・・・。俺は霞涼太。」
そしてまた、沈黙が流れる。
俺は、最期に残しておいた卵焼きを口に入れ、立ち上がった。
グランドを眺める。元気な後輩が、思い思いに遊んでいる。
片桐もいつのまにか、横にいた。
少し距離を取る。自分のテリトリーに他人がいると、居心地が悪い。
「逃げないでよ。」
彼女は、少しずつ近付いてくる。
俺も少しずつ、遠のいていく。
「どうして逃げるの?」
「・・・苦手やねん。横に人がおるんわ・・・。」
間があく。まるで、ここにいないかのように。
「人が・・・嫌いなの?」
「・・・・ん。」・・・静かに、頷く。
絶えず流れる風は、俺達の全てを受け流すように、無常に流れていった。
妙に響くチャイムの音で、片桐は「またね。」と言って、階段へと歩き出した。
久しぶりに、本音を語った気がする。
変に疲れてしまった。このまま、家に帰ろう・・・。
俺は、鞄なんか放っておいて、学校を抜け出した。