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戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、和食屋『桜花亭』は今日も元気に営業中!!』編第二部 桜の木の下で……
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第八章 売られたケンカ 03

「い、今……何と申した……?」


 まるで錆び付いて壊れたブリキ人形のように、ゆっくりとした動きでコチラに顔を向ける姫さま――

 いや、シルビアだけでなく、四人揃ってまるで幽霊でも見たかのように、戸惑いと驚きが入り混じった視線を向けてくる。


「いや、だから……オレはそのコンテストには出な――」

「なぜじゃあぁぁぁーっ!?」


 オレの答えに、被り気味で声を張り上げるシルビア。そして、その第四王女を筆頭に、一気に詰め寄る四人の乙女達――

 その、あまりの迫力におれは、壁際まで後退を余儀なくされた。


「ちょっ!? み、みんな、落ち着けって……」

「これで落ち着けるワケがないだろっ!!」

「そうですよ、シズトさんっ!」

「ご自身で提案されておいて、自分は出ないなどと……それ相応の理由があるのでしょうな? ご主人様」


 なんだろう……?

 四人もの美女に囲まれているのに、まったく嬉しくないこの状況は?


「それ相応も何も……オレが提案したからこそ、オレが出たらマズイだろ? もし、そこでオレが優勝したら、出来レースみたいじゃんか?」


 まっ、まだ審査方法なんかは決まってないようだけど、とりあえず賞金や商品は出るらしい。

 発案者が優勝して賞金なんか貰ったら、後でどんな噂が立つ事やら。


「うっ……た、確かにそうかも知れぬが……」


 どうやらオレの言い分に、一定の説得力はあったようだ。

 眉を顰め、声を詰まらせながら引き下がる姫さまたち。


「しかし、ご主人様……? 誰の目から見ても公平な審査法であれば、良いのではありませんか?」


 と、引き下がりながらも、アルトさんは対案を提示する。

 さすがは、元一軍の将。タダでは引き下がらないようだ。


「かもしれないけど……コレは祭りの余興だろ? なら楽しく盛り上げる事が第一。そこに本職が出張って本気出すとか、大人気(おとなげ)ないし」

「そうは申すがシズトよ。本職と申すなら、他の参加者も(みな)、本職じゃぞ?」

「ああっ。今、参加者を募っているが、他の店の料理人や(いち)で屋台を出している者がほとんどだ」


 そうは言ってもねぇ……

 あのダメな方のコロナの話じゃあ、サウラントは大陸一料理のマズイ国らしいし。正直、張り合いもなければ、ヤル気も起きない。


「くくく……逃げるのか、主よ?」

「ああっ?」


 美女たちの包囲網から開放されたオレに向けて、不敵な笑みを浮べるラーシュア。


「口ではなんのかんのと言っておるが、本当はこのクレープを超えるモノを作る自信がないのであろう?」


 何を言い出すのかと思えば、馬鹿馬鹿しい。

 オレは取り合うのも面倒になり、ロリっ娘に背を向けると厨房へと歩き出した。


「ふん……何とでも言え。そんな安い挑発に乗るほど、オレは子供じゃ――」

「主が初めて買った艶本(エロほん)は、ペンギンク――」

「おしっ! そのケンカ買ったっ!!」


 行儀悪く、テーブルに座るラーシュアの独り言みたいな呟きを遮って、オレは振り向きザマにその不敵な笑みへ人差し指を突きつけた。


「はやっ!?」

「子供か? お前は……」

「正に子供のケンカですね……」

「シズトさん……不潔です……」


 乙女達のジト目が、背中に突き刺さるが……


 フッ、何とでも言うがいい。オレはいくつになっても、少年の心を忘れない男。そして男にとって、子供と大人の違いは玩具の値段しかないのだ。


「かかかっ、よかろう。せいぜい高値で買ってもらおうかのう」

「ふんっ、言い値で買ってやるよ」

「ふむ。では負けた方が一週間、勝った方の言う事を何でも聞くと言うのはどうじゃ?」

「いいぜぇ。その高慢チキな高い鼻をへし折って、胸と同じ平にしてくれるわ」

「何とでも(のたま)うが良いわ。勝負が終わったら倍にして返してくれる。主が泣きながら土下座する(さま)が目に浮かぶようじゃ」


 お互い口元に笑みを浮かべ、殺気にも似た黒いオーラをぶつけ合いながら睨み合う。

 いくらムダに長生きしてるとはいえ、本職に勝てると思っているのか? このロリっ娘は。


「して、姫さん達よ。お(ぬし)らはどちらに付く?」

「えっ……? わ、妾達も参加するのか?」


 オレたちの発するオーラに、若干怯えるように萎縮していた姫さまたち。ラーシュアに突然話を振られて、目を丸くする。


「当然じゃろう。この店から二つの屋台を出すのじゃ。どちらかの手伝いをしてもらわなければならん」


 確かに……

 屋台を出すとなれば、人手は必要だな。それに、この綺麗どころ達が接客や客引きをするとなれば、それだけで客足が変わってくる。


「ちなみにワシへ付けば、主を何でも好きに出来る好機(こうき)じゃぞ」

「なん……じゃと……?」

「シズトを……」

「何でも……」

「好きに……?」


 ラーシュアのひと言で、シルビア達の目の色が一気に変わる。

 って!?


「ちょっと待てっ、ラーシュアっ! それは卑怯だろっ!」

「何がじゃ? 勝った方の言う事を聞くと言うルールじゃ、当然じゃろ?」


 くっ……(はか)られた。

 もし、あの美女軍団が全員向こうに付いたら、そのアドバンテージは計り知れないぞ。


「のう、トレノにステラよ――シズトは、あのクレープよりも上に行くモノを出せると思うか?」

「わかりませんが……屋台でアレを超えるモノを出すのは、かなり難しいかと」

「正直なところ、シズトさんの得意分野は、どちらかと言えば高級料理。あまり屋台なんかのシンプルな料理は専門外かもしれません」


 角を突き合わせて、まる聞こえの密談を始める乙女達。特にステラ参謀のコメントは痛いトコを付いてくる。


 確かに、屋台などは専門外。まして今回は、基本的に作り置き禁止で、その場での調理がルールになっている。

 なので例えば、店でイカ飯なんかを作っておき、屋台で販売――などという事は出来ないのだ。


「よし、妾はラーシュアに付こう」

「姫さまが付くのであれば、当然わたしもラーシュアに付こう」

「シズトさん、すみません……わたしもラーシュアちゃんに……」


 ぐぬぬぬ……

 爆乳、巨乳、美乳が揃って敵に回るとは……


「そういう事でしたら、わたしはご主人様に付きましょう」


 妖艶な声と共に、もう一つ残っていた巨乳がオレの二の腕に押し付けられる。


「ア、アルトさん……ホントですか?」

「はい。わたしはいかなる時も、ご主人様の味方です」

「アルトさん……」


 とても、紫紺の竜召喚士と恐れられていたとは思えないほどの、慈愛に満ちた笑み。その女神の微笑みに、オレは思わず目頭が熱くなる。


「ところで姫さま――」


 そんな慈愛の女神は、取っていたオレの腕を離すと、眉を顰めていたシルビアの耳へと口を寄せた。


「目先の欲望に負けるなど、小娘のすること。もっと先の事まで見る目を持って下さい」

「なんじゃと……?」

「たかだか一週間好きに出来たとて、それで嫌われては元も子もありますまい? それに、わたしの方はコチラに付いた事でご主人様からの好感も得られましたし、コンテストの日までベッタリとくっ付いていられます」

「なっ!?」


 何を言ってるかは分からないけど、アルトさんの耳打ちに驚き目を見開くシルビア。


「こういうのをご主人様の国では、試合(いくさ)に勝って、勝負に負けると言うそうですよ」

「ぐぬぬぬ……」


 耳打ちを終え、再びオレの腕を取るアルトさんに歯噛みする姫さま。そして、そのやり取りを見て、ラーシュアが呆れ気味に肩をすくめた。


 どうやら、話の内容がラーシュアには聞こえていたらしい。

 相変わらず、黒い悪魔のデビルイヤーは地獄耳だな。


「腹の黒い女子(おなご)じゃなぁ……」

「フフフ……一軍の将たる者、このくらいでないと務まりませんゆえ」

「じゃがな、泣きぼくろよ。そっちに付いても勝ち目はないぞ。一軍の将が負け戦(まけいくさ)に身を投じるのか?」

「随分と強気ですね? それほどまでに、自信があるのですか?」

「無論じゃあ。主の祖国である日の本(ひのもと)ならともかく、コチラで手に入る食材でクレープを超える物を屋台で出すのは不可能じゃ」


 まあ、確かに屋台は専門外だし、食材――特に調味料の種類が、日本とは比べ物にならないくらい少ない。


 正直、現状でクレープに対抗出来るモノなど、咄嗟には思いつかないのも事実だ。


「なるほど……ラーシュアさんがそう言うなら、間違いないのでしょう」


 当然だか、アルトさんはラーシュアの正体を知っている。見た目は子供、頭脳は大人――いや、大人どころか、人間など比較にならない程の知識を持つ仏法の守護神。

 そんなラーシュアが断言するのだ。間違いはないのだろう。


 この勝負、早まったか……?


「では、参りましょうか、ご主人様」


 参加表明に若干後悔が湧き出していたオレの腕を引き、出口の方へと(いざな)うアルトさん。


「ちょっ!? アルトさん……参るって、ドコに……?」

「今夜は休みなのですよね? ならば余人を交えぬところで、ゆっくりと作戦会議です」


 アルトさんはイタズラっぽい笑みを浮かべると、オレの二の腕に大きな果樹を押し付ける。

 そして、ナゼかその笑顔は、オレではなく姫さま達の方へと向けられていた。


「さ、作戦会議……? 二人っきりでですか?」

「はい。コンテストが終わるまで、姫さま達とは敵同士。敵の前で作戦会議をするほど愚かな事はありませんから」


 ふむ、確かにその通りだな。作戦会議は必要な事。

 アルトさんの言葉は、100%正論だ。決して二の腕に当たる柔らかな感触に負けた訳ではなく、それが正論だからである。


「ぐぬぬぬ……」

(たばか)ったな、女狐が……」

「むう~~~っ」


 しかし、その正論に、ナゼか悔しさを滲ませ眉を吊り上げるシルビアとトレノっち。更にステラに至っては、コレでもかと頬を膨らませている。


「謀るとは心外ですねぇ、トレノさん。それに此度(こたび)の事は、目先の欲に目の眩んだ自滅でしょうに。では参りましょう、ご主人様」


 大人の余裕を見せつけるような笑顔を浮かべ、踵を返しながらオレの腕を引くアルトさん。


「シズトォーッ! 門限は七時じゃっ! 一分でも遅れたら、王都から騎士団を呼び寄せて、街中を捜索するからなぁ~~っ!!」


 出口を潜るオレの背中に、シルビアの怒声が飛ぶ。

 王都から騎士団を呼んだとして、ここへ着くまでに何日掛かるんだよ。


 てか、門限七時って、中学生かオレは……?

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