第六章 国境を超えて 02
「ちょ、ちょっと待てっ!!」
「お前とラーシュアがそっちに回ったら、我々に勝ち目などなかろうっ!?」
抗議の声を上げるトレノっちとシルビア。
当然だ、勝たせる気などサラサラない。オレは負ける戦はしない主義だ。
でも――
「安心しろ。オレのいた日本は完全な法治国家だ。オレはそこの最高府直属である、内閣調査室に所属していたんだぞ。当然、裁判に私情を挟んだりなどせん!」
「まっ、所属と言っても嘱託で、仕事は非合法の裏仕事じゃがな」
うるさいデスよ。この合法ロリ一号がっ!
「まあ、良いではありませんか、シルビアさま。異国の司法制度を知るよい機会。お義兄さんに任せて見るのも一興です」
と、レビンがオレの提案に賛同の声を上げる。
てゆうか、お前はお義兄さん言うなっ、この残念イケメンがっ!
「ぬ、ぬぅ……レビン殿までそっちに回るのか……?」
「はい、私はどんな時でも、ラーシュアさまの居る方に回ります」
眉をしかめるシルビアに、屈託のない笑顔でキッパリと言い切るレビン。
お前はホント、どんな時もブレないな。
「はぁ~、仕方ない……確かに異国の司法制度を知る機会ではあるしな。しかし、シズトよ――あまりに的外れな判決を出したら、遠慮なく控訴するぞ」
肩を竦め、ため息をつきながらも、渋々と承諾するシルビア。
そういえば、少し前に民主主義制度の話をした時も、この姫さまはやたら食いついていたな。
やはり王族として、他国の治世には興味があるのだろう。
まあしかし、こんな小学校の帰りの会でやる様なお遊び裁判で、日本の複雑怪奇な司法制度を再現するのは不可能だけどな。
「なるほど、このお兄さんが裁判長という事は、このお兄さんの一存でウチの処遇が決まるわけッスね? ――――ニヤッ」
値踏みでもするように、オレをジロジロと視線を向けていた合法ロリ二号は――いや、二号はステラが居るから三号だな。
その三号は、何やら良からぬ事を思いついたらしく、ニヤリと口もとに笑みを浮かべながら、おもむろに立ち上がった。
そして――
「ジャジャ~ンッ!」
と言う掛け声と共に、コロナは身を包んでいた白いマントを勢いよく広げた。
白いマントを背景に浮かび上がる、一糸まとわぬ健康的な肌色の肢体――
フッ……そんな起伏の乏しい身体で、色仕掛けのつもりか? オレも甘く見られたモノだ……
オレは眼前で裸体を晒す合法ロリっ娘の浅知恵を、一言の元に斬り捨ててやる事にした。
「判決っ、無罪っ!」
「あざ~ッス!」
うむっ! まさに民主主義に基づいた公平な、そしてスピーディーな裁判だっ――
「「控訴じゃっ!!」」
「「ぐごっ!?」」
いきなり脳天に激痛が走り、頭を押さえてうずくまるオレとコロナ。
「おい、主よ……こっちは昼飯も食わず茶番に付き合ってやっておるのじゃ。真面目にやらんと、修羅道に転生させるぞ……」
「じょ、冗談……冗談だから……てか、く、首……マジで首、締まってるから……」
修羅道の王たるラーシュアに、背後からチョークスリーパーで首を締められて、落る寸前のオレ。
そんなオレの霞む視界の先では、シルビアがトレノっちの腰に差さるブロードソードを抜いて、その切っ先をコロナへと向けていた。
「おい、小娘……」
「こ、小娘って……ウ、ウチはコレでも齢百を超える――」
「そんな事はどうでもよい――これ以上シズトにチョッカイを出して、もし彼奴が小さな胸にしか興味を示さんようになったら――」
「な、なったら……?」
「ウェーテリードとの全面戦争も辞さぬからのう。覚悟しておけ……」
「――――!?」
サウラント王国第四王女の、余りにもスケールの大きな話に、顔を青ざめさせて、言葉を失っているコロナ。
「よいな……?」
「………………」
「よいなっ!?」
「(コクコクコクコクッ!!)」
シルビアの剣幕に、もの凄い勢いで首を縦に降るコロナ。
しかし、安心しろシルビア。大から小まで等しく愛する事はオレのポリシーだ。
そして、オレは両国の平和の為にも、そのポリシーをこれからも貫き通すと再び固く誓ったのだった――
てか、ラーシュア、いい加減に放せ。でないと、そろそろマジで落ちそうだ。
「とゆうかコロナよ。もう身体も乾いたであろう? いい加減、服を着たらどうだ? 防水の加護を受けたリュックの中にあるなら、服は濡れておるまい?」
「ああっ、そういえば、そうッスね」
なにっ! 少女の生着替えだとっ!?
いや、少女ではない。彼女はドワーフで、年齢は百歳を過ぎているのだ。
だから、いくら幼く見えても、法的にはなんら問題ない。故に、児童ポルノ根絶を訴える、ユニ◯フ親善大使のアグ◯スさんに怒られる事も――ぐおっ!?
「問題大ありじゃ! アグ◯スに怒られたくなくば、上を向いておれっ!」
後ろから首を締めていたラーシュアは、オレの顔を強引に上へと向ける。そして、そのままオレの顔面を小脇に抱えるようにしてロック――いわゆる、ドラゴンスリーパーの体勢へと移行した。
ああ……空が青いな……
※※ ※※ ※※
「え~、一審は控訴されましたので、これより二審に入りたいと思います」
正面に座る、赤いチューブトップの胸当てに革製のショートベスト、そしてショートパンツに着替えたドワーフ娘は、神妙な面持ちで頷いた。
「主よ、昼飯の時間が押しておるのじゃ。サクサクと進めよ」
ハイハイ、分かってますよ。
「では、コロナ被告。アナタはなぜ、不法入国という法を侵し、あまつさえ危険な国境越えを敢行してまで、この国に来たのですか?」
「え~と、ウチの村――アコード村は、あの山脈の向こう側に隣接する小さな村でして、ほとんどの村人が狩りや畑仕事で自給自足の生活をしてるッス。ウチはその村で、三人の兄様と五人の弟、妹、そして母様の十人で暮らしていたッスよ――」
淡々と語り出すコロナ――
はてさて……このヘソ出し生足ドワーフ娘は、どんな理由があって、あの危険な山脈を超えて来たのやら。




