第五章 河川敷の邂逅 04
「ぶぇ~っくしょんっ!!」
レビンの着けていた白いマントでその身を包み、豪快なくしゃみをしながら焚き火に当たる少女――
いや、話を聞くに彼女はドワーフという種族で、どうやら『少女』ではないらしい。
ドワーフはエルフ程ではないがとても長寿で、普通に二百五十歳くらいまでは生きるそうだ。
ホント異世界というのは、合法ロリの宝庫だな。日本のアニメやライトノベルで、異世界転生モノが人気なのも頷ける(偏見)。
「して、その方……コロナと申したか? 何故、川に流されておったのじゃ? しかも裸で?」
「ズズゥゥゥ……話ぜば、長ぐなるんッスが――」
コロナと名乗った合法ロリッ娘は、垂らした鼻水を啜りながら、シルビアの問いへと答え始める。
「実は森の中で迷ってしまいましてな、そこでようやくこの川を見つけたッスよ。ただ、代わりにそこで、獣人の盗賊に見つかってしまったんッス……」
コロナの口にした『獣人の盗賊』という言葉に、オレは眉をしかめた。
おそらく、その盗賊とやらはウェーテリードの敗残兵であろう。
ウェーテリードの敗残兵はオレとラーシュアが蹴散らし、降伏した者はトレノっちが捕らえ、捕虜として王都に送られた。
しかし、隊長であったアルテッツァさん改めアルトさんの話では、オレ達と対峙する前に多くの脱走兵が出ていたらしい。
その脱走兵が森に住み着き、盗賊に身をやつしているのだ。
まあ、それもある意味では仕方ない。
脱走兵――それも敵軍の脱走兵である。街に降りて来て見つかれば、罪人として処罰される。
かと言って、あの険しい山脈を抜け、ウェーテリードに帰還するには獣人の傭兵と言えど、よほどの勇気がいるだろう。
そう、結果的に今の状態は、敗残兵達を森と言う袋小路に閉じ込めてしまっているのである。
暇を見ては、オレとラーシュアで夜な夜なこっそりと討伐に出ているけど、あの深い森だ。正直あまり成果が出ていないのが現状だ。
「もしや、ソナタが着衣を身に着けていなかったのは、その盗賊に手籠めにされて――」
なにっ!? それは羨ま――じゃなくて、けしからんっ! いくら合法ロリとはいえ、そんな事をする輩には性技の――じゃなくて、正義の鉄槌を――
「食いつきすぎじゃ、主っ!」
「あぐっ!!」
思わず身を乗り出したオレの脳天へ、ラーシュアのかかと落としという名の鉄槌が下される。更に追い打ちとばかりに、シルビアとトレノっちから向けられる冷たい視線……
まあ、反対隣のドМペド紳士からは、羨望の視線も届いているけど。
「ハハハッ。まあ、実際手籠めにされかけたッスし、むしろ犬ッコロに犯されるくらいならと、自害しかけていたんッスけど、すんでのところで助けて貰ったッス。だから、お兄さんが期待するような展開にはならなかったッスよ」
とんでもない事を、あっけらかんと話すコロナ。
しかし……
「助けてもらった……? あんな森の奥でか?」
「はいッス! 凄かったッスよぉ~。突然、三本足のカラスが飛んで来て盗賊達を蹴散らしたかと思ったら、炎を出してアッとゆう間にやっつけてくれたッス」
「ほおぉ……」
「炎を使う」
「三本足のカラスにのぉ~」
オレ、トレノっち、そしてシルビアの視線が、黒いゴスロリっ娘へと向けられる。
が、しかし、当の本人は吹けもしない口笛を吹きながら、そっと視線を逸らしていた。
別に責めているワケではないのだから、とぼけなくてもいいだろうに……
「まあ、無事であったのなら、なによりじゃ。では、ソナタ……何故に衣服を身に着けておらなんだのじゃ?」
「ま、まあ……それも話すと長くなるんッスが……」
シルビアの問いに、今度はコロナがそっと視線を逸らす。
そして、バツの悪そうにポリポリと頬をかきながら、ゆっくりと真相を語り始めた。
「実はですな……そのカラスさんに、この川沿いを下れば街に出られると聞いたんッスよ。だから夜明けを待って、川沿いを下りはじめたんッスけど、流れる川を見てるウチに『アレ? コレって川を流されて行ったら楽じゃね?』っと思いついたんッス。幸いな事にウチのリュックは、防水の加護の魔法がかけてあるから、コレを背負っていれば溺れる事もないだろうと――」
なるほど……だからあんな重たそうなリュックが、水に沈まなかったのか。
てか、夏場ならともかく、朝晩はめっきり冷え込むようになったこの季節に、よくもまあ川になんて入ろうと思ったもんだ。
「ずっと森の中を歩いていて身体も汚れていたッスから、ついでに水浴びもしようとも思いましてな。着ていた服をリュックに詰め込んで、川に飛び込んだんッスが…………思ったより川が浅かったらしく、頭へ激痛が走ったのを最後にそこから先の記憶がないんッスよ……あは、あははははは……」
全員から呆れるような視線を向けられ、気恥ずかしそうに笑いながら、自分の頭を擦る合法ロリのドジっ娘ドワーフ。
ってか、ドワーフの身体は頑丈に出来ているという話しだけど、人間だったら死んでてもおかしくないぞ、ソレ……
「はぁ……。で? そもそもお前は、何で森になんか居たんだよ? だいたいお前、この街の住人じゃねぇよな?」
オレは一つため息をついてから、呆れ顔で更に質問を続けた。
「うっ……そ、それはその……」
オレの問いに口ごもり、言葉を詰まられるコロナ。
上目使いで全員の顔を見渡すと、ゆっくりと大きく息をはいてから、意を決したように口を開いて行く。
「皆さんはウチの命の恩人ッスからお話するッスけど、出来ればこの事は内密にお願いしたいッス」
「うむ、善処しよう」
シルビアの返事と共に全員が頷くのを確認すると、コロナは神妙な面持ちでゆっくりと語り始めた。
「ウチは……ウェーテリード王国、アコード村からやって来たッス……」




