第五章 河川敷の邂逅 02
「お、おいっ!? シルビア……」
「ん? なんじゃ?」
オレの腕にしがみつく様にして、上目使いに小悪魔スマイルを浮かべるシルビア。
そう、腕に当たる柔らかなモノの正体は、シルビアの持つ形の良いお胸さまである。
まったく、このお姫さんは……
日に日にパーソナルスペースが狭くなっていくなぁ……
「主よ。そう言いながらも、鼻の下が伸びておるぞ」
「ムッ!?」
ジト目を向けるラーシュアと、剣の柄に手を掛けたトレノっち達から視線を逸し、柔らかい谷間に挟まった腕をスルリと抜いて誤魔化す様に平静を装うオレ。
「ああぁ、コホン……で、シルビア。何か名案でもあるのか?」
「うむ。クレスタ男爵との交渉、妾が行おうと思おてな。今回の堤防工事は王室公認。ある意味、王国にとっての試金石じゃ。妾が直接出向いてソレを話せば、男爵もイヤとは言うまい」
「なるほど……」
今回の堤防工事は、確かに試金石――いわゆるテストケースだ。
上手く行けば王国中に広めるという名目で、王室からも費用を引っ張って来ているしな。そういう意味では、確かに王室公認だな。
「そうだな。じゃあ頼めるか、シルビア?」
「ウム、任せておけ!」
再びオレの腕にしがみつき、満面の笑顔で応える第四王女さま。
「お、おい!? だからシルビア……」
「フフン♪ 良いではないか。ご褒美の前倒しじゃ」
暖かで柔らかなモノをグリグリと二の腕に押し付けられ、必死に平静を装うオレ。
むしろコレは、オレにとってのご褒美なのだが……
しかし、口は災いの元。
そんな事を口にした瞬間、柄に手が添えられているトレノっちのブロードソードが、鞘から抜き放たれるのが目に見えているので発言は控えておく。
てゆうか、こんな散歩みたいな視察に、わざわざ剣なんて持って来るなよ……
まっ、さすがに甲冑なんかは着けてはおらず、白が基調になっている胸元が開いた、やけに谷間の強調された服を着ているトレノっち。
しかし、あの巨大な山脈は何度見ても素晴らしい。一度、あの大きな谷間に顔を埋めてみた――
「ムッ!?」
オレの放つ熱視線に、手を添えていた剣の柄を強く握りしめる騎士さま。
咄嗟にしがみつくシルビアから再びスルリと腕を抜いて踵を返すと、鋭い眼光の騎士さまから視線を逸らすように、さりげなく晴天の空を見上げた。
「ご、ご褒美は別の物でな……」
心地よい秋晴れの青い空。太陽は間もなく真南へと差し掛かる時間だ。
「とゆうわけで……ご褒美に少し早いけど、この辺で飯にしようぜ」
頬を膨らませるシルビアとジト目のトレノっちから逃げる様に、オレは河原に向かって土手の斜面を降り始めた。
「まっ、そろそろ頃合いじゃな――弁当を落とさぬように付いて参れ、駄犬」
「かしこまりました、ラーシュア様」
オレに続いて斜面を降り始める、ラーシュアと伯爵公子。
てか、仮にも貴族に荷物持ちをさせた挙句、今度は駄犬扱いかよ……
「待つのじゃ、シズトッ! ご褒美と言うなら、シズトの分の卵焼きは妾が貰うぞっ!」
はいはい。そんなんで良ければ、安いもんだ。
頬を膨らませたまま、姫さまはオレたちの後を追い、駆け足で土手を降始める。
そして、慌てて主君の後を追い走り出した護衛騎士は――
「姫さまっ、お気を付けをっ! 土手は滑りやすくいので、そんなに急いで降りては危な、なななあぁぁ~っ!?」
と、ソッコーで足を滑らせてバランスを崩していた。
もの凄い勢いで護衛対象の主君を追い越し、コチラへと向かって突進してくる護衛騎士。
って、お前が気を付け――
「ちょっ、どけぇっ! シズ――とぐっ!!」
「うぷっ!!」
心のツッコミも半ばで、王国騎士のタックルをモロに食らい押し倒されるオレ。そのまま、オレ達は折り重なった状態で、勢いよく土手の斜面を滑り落ちて行く。
「んっ!?」
「ぐっ……」
そして、地面が水平になった所で、ようやく停止。
オレは激痛を堪え、現状を把握すべく目を開いてみる――が、
「んん?」
そこは、漆黒の闇に閉ざされた世界だった。
感じるのは、背中に感じる河原のゴツゴツとした石の感触と――――顔面を包み込む、とても柔らかで暖かく幸福感に包まれた感触。
なんなのだろう、この気持ち……?
この、口も鼻も塞がれて喋る事も――いや、呼吸すらもままならないのに、少しでも長くこうしていたいと思う矛盾した気持ちは……?
「いつっっ……大丈夫か、シズト……?」
「ふが?」
暗闇の中、意外と近くから聞こえるトレノっちの声。そして遠くからは、もの凄い勢いで近付いてくる足音が聴こえてくる。
「コラ~ッ、トレノッ! ナニ凶悪なモノをシズトの顔に押し付けておるっ!?」
「えっ? き、凶悪って…………くぁwせdrftgyふじこlp」
顔の上から重みが消えて、パッと視界が開ける。
そして、再び光を取り戻したオレの眼に映るのは、顔を真っ赤に染め、両腕で巨大な胸を隠しながらオレの腹の上に跨るトレノっちの姿。
ふむ、なるほど……
オレの顔を挟み込んでいたのは、あの二つの巨大な山脈か――
神よ……さっそく願いを叶えてくれた事、心より感謝いたします。
と、仰向けのまま十字を切り、神に感謝を捧げるオレの傍らに、土手を降りきったシルビアが、眉を吊上げ歩み寄ってくる。
「なんじゃ、トレノッ! それは妾へのあてつけかっ? 『お前のモノでは腕は挟めても、顔までは挟めまい』とでも言いたいのかっ!?」
オレの顔のそばに仁王立ちして、トレノっちを糾弾する姫さま。
ちなみに、今日のお召し物は薄い水色のようだ。
「そ、そのような事はっ! そもそもコレは事故で――」
慌ててオレの上か飛び退くと、横たわるオレを挟んでシルビアの正面に立ち弁明を始めるトレノっち。
うむ。こちらのお召し物は、レースの付いた純白か――本日の装いにマッチした、よいコーディネ――
「ふんっ!!」
「ぐおぉっ!?」
真顔で二人お召し物を見上げるオレの股間に突然、まるでカミナリにでも打たれたかのような激痛が全身に走った。
「すまん、主――あまりに粗末な突起物ゆえ、気が付かずに踏んづけてしもうた」
「お、おま……そ、そこは……そこだけは……」
まったくすまなそうではない態度で、グリグリと分身を踏み続けるラーシュアへ向け、懸命に抗議の声を絞り出そうとするオレ。
が、しかし、……
そんなオレの意思に反して、意識の方はどんどんと遠退いて行ったのだった……
てか、ラーシュアッ! オレの大事な相棒の暴れん棒を、粗末な突起物とか言ってんじゃネェよっ!




