第三章 作成会議 04
B級グルメ――
安価で贅沢でなく、それでいて美味し料理。その基準はあくまで、庶民的で気軽に食べられるモノである事。
しかし、当然コチラにはそんな言葉すら存在しておらず、オレはお茶を啜りながら淡々と説明をして行った。
「なるほどのう。『びぃきゅうぐるめ』というモノの概念は分かった」
「そして、『こんてすと』とやらは、屋台の店を多数用意して、その料理の味を競わせる事でよいのだな?」
オレの話に頷きながら耳を傾けていた王女と騎士の美人主従は、納得したように口を開いた。
「でもぉ、シズトさんの国は凄いですね。そんな面白そうな催しが、年中いたる所で開かれているなんて」
「まあ、日本は娯楽や遊び、それにバカな事や無駄な事にかける手間と情熱は他に類を見ない国だからな」
「まっ、要するに平和ボケしてるって事じゃな」
感心するステラに、身も蓋もない返しをするオレとラーシュア。
まっ、あまり平和ボケ過ぎるのは困るが『それがどんなに無駄で無意味な事だったとしても、好きな事には全力で取り組む』という国民性は嫌いではない。
「しかしご主人様。料理の味を競わせると言っても、味の好みなど千差万別。どのように優劣をつけるのですか?」
「ん~、向こうじゃ箸を使っていたな……」
「ハシ? ハシとは、あの食事に使う箸ですか?」
オレの答えに、目を丸くするアルトさん。
ここで暮らすようになって、今では普通に箸で食事をしてるけど、それまでは箸など見た事も聞いた事も無いと言っていた。
「そっ、その箸。入り口で箸を配って、屋台を食べ歩きしてもらうだろ。そして、自分が美味しいと思った店に投票する」
「その投票に箸を使うワケじゃ。箸の一膳二本を二票とし、一人二店まで投票出来るというワケじゃな」
オレ達の説明に、アルトさんだけじゃなく全員の目が丸くなる。
「じゃ、じゃあ……ぜ、来た人全員分のお箸を用意するんですか……?」
驚きに声を詰まらせながら、質問するステラ。
まあ、驚くのも無理ないか……
ウチの店で使っている箸は、オレお手製の塗り箸。漆塗りで仕上げており、かなり手間が掛かっている代物でる。
箸に関しては、アルトさんに限らずステラやシルビアを始め、この街の人達全員がウチの店で初めて見たはずだ。
そう、つまり見た事がある箸は、ウチで使っている塗り箸だけ。
当然、割り箸という使い捨ての箸があるなんて知る由もないし、そんなエコに優しくない箸をこの世界に広める気もない。
「何も、すべて主の国と同じにする事もあるまい? そも、この街の者はともかく、他所から来た者に、いきなり箸を渡したとて使いこなせまい」
「そうだな、投票券代わりになる物なら何でも構わないぞ。ただあまり高価な物だと、投票しないで持ち逃げされるからな。手頃な物に通し番号なんかを付けるのが一番だな」
「なるほど……さすがラーシュアさまにお義兄さん。その豊富な知恵と知識にこのレビン、感服いたしました」
「フフン♪ そうであろう、そうであろう」
ペド紳士の言葉に、なぜか鼻高々の姫さま。てか、お義兄さん言うなと、何度言えばわかる?
「ふむっ、当初は無理かと思おておったが、だいぶ形になってきたのう――皆がそこまでやる気が有るなら、ワシも本格的に一肌脱ごうかのう」
「ラーシュアさまがお脱ぎになるなら、ワタシがお手伝い、ぎゃぽっ!!」
勢いよく身を乗り出し、ラーシュアの差し出したトレーの角に顔面から突っ込んで行く伯爵公子さま……
懲りないヤツだ……いや、むしろご褒美になっているのか?
「おい、変態公子。この街の詳細な地図はあるか?」
「ひ、ひふれ、ごさひまふか?」
顔面を抑えて蹲っていたレビンが、涙目で顔を上げる。
てか、まずオマエは鼻血を拭け。
懐から取り出した高級そうなハンカチを丸めて鼻に突っ込むレビンをスルーし、話を続けるラーシュア。
「うむ。治水というは、堤防の強化だけにあらずじゃ。川幅を広げ、更に支流を作る事で氾濫の危険を大きく減らせよう。その工事の計画をワシが建ててやろうというのじゃ」
「そ、それは、大変光栄なのですが、しかし……」
ラーシュアの提案に、戸惑いの色を隠せないレビン。
まあ、当然だろう。正体を知らないレビンにとって、ラーシュアは単なる物知りな幼女でしかないからな。
「大丈夫だレビン。その辺の下手な地質学者や建築家なんかより、ラーシュアの方が頼りになる」
「うむっ! シズトもこう言っておるし、何かあれば妾が責任を持とう。じゃから、安心してラーシュアに任せればよい」
オレの言葉にシルビアが、その型のよい胸を張って賛同する。更にその横では、トレノっちとアルトさんがその大きな胸を揺らしながら頷いて――
「いたっ!?」
「今、乳の話は関係ないじゃろ、アホ主が」
気軽にオレの足を踏みつけながら、ジト目を向ける黒ゴス幼女――
今は確かに関係ないかもしれんが、思春期男子にとって女子の胸は最優先事項だっ!
まっ、それはさておき、オレの言葉に賛同した乳達――じゃなくて人達は、この主を主と思わんロリッ娘の正体を知っている人達である。
「ま、まあ、みなさんが、そう仰るなら……」
「うむっ! 大船に乗ったつもりでおるが良い」
戸惑いながらも了承したレビンの正面で、その平らな胸を張るラーシュ――
「主よ……また、踏まれたいのか?」
再びジト目を向けて来るラーシュアから、そっと視線を外しながら右足を静かに引くオレ。
さて、やる事は決まった。
後は――




