第二章 桜並木 05
「ああ、後片付けご苦労さん。てか、そっちまで聞こえてた?」
「はい、伊達に大きな耳はしていません――」
ティーカップ片手に投げかけたオレの問いへ、大きなエルフ耳を誇るようにニコやかな笑顔で答えるステラ。
「シズトさんが、王女さまの胸を覗き込もうとしていたところも、ちゃんと聞こえてましたよ、ウフフ♪」
そして、不自然なまでのニコやかな笑顔で、更に言葉を繋げるステラさま……
「ちなみに、わたしが止めなければ、ご主人様の背中から包丁が生えていましたよ」
更に更に、知らず知らずのうちに生命の危機に晒されていた事を、命の恩人の口から告げられ、ゾッとするオレ……
てか、出来ればその『ご主人様』は、正直やめて欲しい。
まあ、最初に冗談半分で、そう呼んでくれと言ったのは、オレだけど……
そんな事を思いながら、顔を引きつらせ席を立つオレ。
「ふ、二人とも……お茶、飲むかい?」
「はい、お茶請けもお願いします」
「羊羹がいいですね。あの栗の入ったヤツ、わたしはまだ食べた事ありませんから」
物凄いプレッシャーを放ちながら、笑顔で席に着く二人。
「待てぇっ、二人ばかりズルいではないかっ! 栗羊羹は妾もまだ食べた事がないぞっ!」
「わたしもだ!」
顔を更に引きつらせ、厨房へと向かおうとするオレの背中に美人主従の声が飛ぶ。
まあ、食った事がなくて当然だ。栗羊羹は客に出す為に作った、新作の季節限定メニューである。そして、それは従業員に出すものではないのだから。
「まったく……羊羹ごときで、みな大人気ないのう。主よ、ワシは端っこの部分を予約じゃ」
お前が一番大人気ないぞ、ラーシュア。美味いところは、年下に譲ってやれ。
「お、おい? ラーシュアよ。羊羹の端のところは、何か特別なのか?」
「うむ。羊羹とは端の方が味が濃く甘みが強いのじゃ。それに砂糖の結晶が残っており、舌触りも違うてくる」
「なんとっ!? シズトっ、反対側の端は妾の予約じゃ!」
「ではわたしは、ラーシュアさまの使用された菓子フォークをよや、ぐほぉっ!」
「死ね、変態っ!」
「ありがとうございます、ラーシュアさまぁ!」
ラーシュアは傍らにあったトレーを掴み、テーブル越しに伯爵公子の顔面へと投げつけた。
しかし、鼻血と一緒に歓喜の涙を流すレビン。ペド紳士にとっては、ご褒美にしかならないらしい。
奥が深いぜ、変態道……
オレは感心しつつも、『あの領域には決して踏み込むまい』と心に誓いながら、茶菓子の用意をしに厨房へと向かった。
※※ ※※ ※※
「んん~♪ ご主人様の菓子は、どれもよく出来てますなぁ」
「はい、特にこの甘く煮た栗は絶品ですね」
すっかり機嫌も良くなり、満面の笑みで栗羊羹に舌鼓を打つアルトさんとステラ。
正に、ホモの嫌いな女子とスイーツの嫌いな女子なんていません。って事だな。
「すみませんね、お義兄さん。わたしの分まで用意して頂いて」
「お前だけ出さんワケにはいかんだろ? それからお義兄さんゆーな」
「うん、とても美味しいです、お義兄さん」
だから、お前は人の話を聞けっ!
「して、ステラに泣きボクロよ。話を戻そうではないか――」
早々に羊羹を平らげたラーシュアが、お茶を啜りながら話を切り出した。
ちなみに泣きボクロとは、アルテッツァ改めアルトさんの事である。
「先ほど、なんとかなると言うておったが、どうゆう事じゃ?」
おお、そうだった。ドタバタしていて忘れていたけど、治水で桜並木を造るとか話してたんだっけ。
「おお、そうであったな。羊羹の美味さに、すっかり忘れておったわ」
「ええ、わたしもラーシュアさまの美しさに見惚れて、すっかり忘れておりました」
「お主は、少し黙っておれ。さもなくば、出禁にするぞ」
「はい、黙ります」
幼女に睨まれて、ピシッと背筋を伸ばし口を噤むペド紳士。
そしてその、あまりにも威厳のない伯爵公子の姿に、一同揃って苦笑い。
てか、ホントにコイツは伯爵公子なのか?
「あらためて、ステラに泣きボクロよ。先ほどの事は、どうゆうことなのじゃ?」
「え~と、それはですね――」
ラーシュアに問われ、ゆっくり語り出すステラ。
はてさて、このハーフエルフと元宮廷魔導師さんの口からどんな言葉が出てくるのやら。




