第二章 桜並木 04
「「「桜並木?」」」
オレの口から出たワードに、揃って首を傾げる三人。
「オ、オイ、シズト……サクラとは木に花の咲く、あの桜のことか?」
「それが治水と、どのような関係があるのじゃ?」
そして眉をしかめた美人主従から、矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
さて、どう説明したものか――
「徳川吉宗っていう殿様――コッチで言う王様みたいなものか? その殿様が『享保の改革』というのをやったんだけど、その改革の一つに『川の土手に桜の木を植樹して、庶民に花見を推奨する』ってのがあったんだ」
「ハナミ? ハナミとはなんじゃ?」
初めて聞く言葉に、再び首を傾げる姫さま達。
そっか……そこから説明せんといかんのか……
「オレの国では桜が咲くと花見って言って、その花を見ながら宴会をする風習があるんだ」
「まっ、その風習も、始まりは吉宗が行った享保の改革からじゃな。吉宗は花見を推奨するにあたって、わざわざ屋台や出店を出店させておったな」
オレの説明へ、補足するように語るラーシュア。
まるで見て来たような言い方だな……って、コイツは実際に見てるのか。
「ますます分からん……それが治水にどう関係してくる……? トレノ、お前は分かるか?」
「いえ、わたしにもサッパリ……オイ、シズト。もっと分かりやすく説明しろ」
あまり口を挟まずに聞いていたトレノっちに、話を振る姫さま。
しかし、さしもの近衛騎士でも、コレだけのヒントでは正解には辿り着けないようだ。
「堤防が決壊するのは、結局強度が不足してるのが原因だろ? 堤防になっている土手に木を植えて根が張れば、その木の根が土を抑え込んで土手の強度を上げてくれる」
「そして花が咲き、その花を見に人が集まり、更に集まった者達が酒宴を開けば、その者らによって土手の土が踏み固められるというワケじゃ」
「それに花が咲けば、景観だって良くなるからな。一石二鳥だ」
「「おおぉぉーーっ」」
ちなみに、このやり方を大々的に広めたのは八代将軍吉宗だけど、始まりは確か初代将軍の家康だったはずだ。家康が指示した木曽川の治水『御囲堤』にも桜が植樹されている。
まあ、今はそんな事まで話す必要はないだろう。実際、ココまでの話を聞いた姫さま達は感嘆の声を漏らしているし。
「なるほど、素晴らしい発想ですな」
「ただコレは、あくまでも堤防の補強をする案だ。コレで堤防の決壊が、完全に防げるワケじゃないぞ」
感心するレビンに釘を刺すオレ。
いくら地面が踏み固められても、所詮は土で固めた堤防だ。
コレで完全に洪水が防げるのなら、日本でも莫大な予算を掛けて治水工事なんてしないだろう。
「とはいえ、理に叶った話じゃ」
「ええ。木を植えるだけで堤防の補強が出来ると言うのなら、やってみる価値はありますな」
「うむっ! ココでやってみて上手くいったなら、他の領地に広めるのも良いな」
「その時は及ばすながら、わたしもお手伝い致しましょう」
明るい未来予想図に顔を綻ばせる、第四王女と伯爵公子。
しかし、ぬか喜びさせたようで悪いけど――
「コレは、そんな簡単な話じゃないぞ」
「ふむ……それに今年はもう無理じゃ」
オレの言葉に続き、ラーシュアも無慈悲な現実を突き付ける。
「な、なぜじゃ?」
「なぜって、時期が悪い。これから冬になるだろ? 寒くなる上に、日照時間――日の出てる時間も短くなるから、季節的に植樹には向いてない。こんな時期にムリして植樹をしても、枯らすのがオチだ」
「それに、枝分けをして、苗木を育てねばならんしのう。並木を造れるほど大量の桜なぞ、近くにはあるまい?」
「ぐっ………」
先ほどまでとは一転、表情を曇らせ眉をしかめる姫さま。
まっ、世の中そうは上手く出来てないもんだ。
って、そんな迷子の仔犬みたいな目で見られても、オレにはどうにも出来んから……
縋るような目を向けて来る姫さま達から視線を逸して、すっかりぬるくなった紅茶のティーカップに口を着け――
「それなら何とかなるかもしれませんよ」
「確かに何とかなりそうですね」
そう、紅茶に口を着けようとした時だった。
突然、俺の背後から会話に割り込む声。
オレはティーカップを手にしたまま、ふわりと香る紅茶の香りと共に後ろを振り返る。
そしてそこに居たは、さっきまで厨房で洗い物をしていたステラとアルトさん。
明るい笑顔を浮かべたのハーフエルフと、艶妖な微笑みを浮かべた元宮廷魔道士が並んで立っていた。




