第二章 桜並木 02
「と、ところでレビン――今日は何しに来たんだ?」
とりあえず話を逸らす方向で、ペド紳士に会話を振ってみる。
「おお、そうでした。久しぶりに拝見したラーシュアさまの美しいご尊顔に舞い上がり、すっかり忘れるところでした」
ご尊顔ってほどの顔か? このロリッ子の顔が。
「主よ、また足を踏まれたいか?」
とっさに、足を引いて隠すオレ。てか、人の考えを読むなっ!
「ならば代わりにわたしの事を――」
「ふんっ!」
レビンが素早くラーシュアの隣りへ回り込み片膝を着いた瞬間。椅子に座ったラーシュアは、ちょうどよい高さにある顔面へ靴底をメリ込ませた。
「あんっ♪ ありがとうございます、ラーシュアさま~」
片膝を着いたまま、恍惚の表情を浮かべるペド紳士……
てか、マジ引くわ~。オレだけじゃなくて、さすがの姫さま達も、コレにはドン引きだわ~。
「気が済んだら、とっととココに来た理由を述べるがよい」
「仰せのままに」
座ったままふんぞり返るラーシュアへ、爽やかスマイルで優雅に頭を下げるレビン。
そして、純白のマントを翻して踵を返すと、今度は姫さまの元へと歩み寄った。
そして、王族に対しての礼を取り、真剣な面持ちで片膝を着く。
さすがこの辺りの作法は、腐っても貴族だ。
「シルビア様。此度は父、アクシオ・カルーラの名代として、姫様にお願いしたき儀があり、参りました」
「カルーラ伯爵の……? とゆうか、まず顔を拭ったらどうじゃ?」
顔面に靴底の跡をくっきり残し、真面目顔をするレビンに苦笑いを浮かべる姫さま。
しかし、ペド紳士は姫さまの苦言に対し、更に表情を引き締めた。
「いえ、この刻印は親愛なるラーシュアさまより頂いたモノ。最低でも今日一日、わたしくしは顔を洗いません」
「そ、そうか……ま、まあ、貴公がそれでよいのなら、妾は構わんが……」
力説するペド紳士に、さすがの姫さまもどう反応すれば良いのかお困りのご様子。
てか、ここまで来ると、タチの悪い宗教みたいだな。
「それよりもレビン殿よ。この店の中は無礼講じゃ。そのような所に膝を着かず、椅子に座るがよい」
「よろしいのですか?」
さっきまでの食事の席とは違い、伯爵の名代を口にして、王族に陳情するのだ。
当然、それ相応の礼儀を尽くす必要がある状況なワケだが――
「構わぬ、妾も堅苦しいのは好かん。何より、シズトが為政者や貴族の振る舞いを嫌っておるからな」
そう言って、オレに向かいウィンクを送る姫さま。
「うむ……こうして好いた男の好みに合わせ、更に男を立てるあたり、さすが妾じゃ。シズトよ、惚れてもよいぞ」
「姫さま……自分で言ってしまっては、台無しです」
あざとさ全開の姫さまにため息をつきながら、席を一つ移動するトレノっち。
まあ、しかし……
あざといと分かっていても、クラっとしてしまうのが、男の悲しい性である。
「では、お言葉に甘えて、失礼致します」
レビンは優雅に頭を下げると、さっきまでトレノっちが座っていた姫さまの隣の席へ腰を下ろす。
「して、妾に頼みとは、なんじゃ?」
「はい、実は――」
ペド紳士は、靴跡の着いた顔をキリッと引き締めて、ゆっくり語り出した。




