第一章 賄いの席にて 01
「いやぁ、わたしまで昼食の席に招いて頂けるとは、光栄です」
コレが漫画だったら、歯が『キラッ』と光り出しそうな、爽やかイケメンスマイルを浮かべる伯爵公子。
四人掛けのテーブルを二つくっ付けて、七人で囲む食卓。
ちなみに今日の賄いメニューは、名古屋名物『味噌カツ』である。
「まっ、オマエだけ食わせん訳にもいかんしな」
「ふんっ! このようなヤツのメシなぞ、皿に魚の骨でも乗せ床で食わせればよいのじゃ」
付け合せのポテトフライを口に放り込みながら出たオレのセリフに、右隣に座る仏頂面のラーシュアが言葉を繋げた。
ちなみに左隣のステラに至っては、相手が伯爵公子という事もあり、困った笑いを浮かべるだけで口を挟めずにいる。
明確な身分制度のあるこの世界で生まれたステラとしては、当然の反応なのだろうけど……
オレは、対面の右端――下座に座る残念なイケメンに目を向けた。
「あぁ~、辛辣なお言葉と蔑んだ瞳……恐悦至極です、ラーシュアさま」
恍惚とした表情で、悦に浸っているレビン……
一ヶ月ぶりに顔を見せたと思ったら、ドM属性が付属されて変態レベルがアップしてやがる……
てかステラ……こんな変態伯爵公子に敬意を払う必要は、まったくないぞ。
ちなみにこのペド紳士であるカルーラ・レビンは、ひと月前くらいまでラーシュア目当てで毎日のように顔を出していた。
そんなペド紳士の猛アタックも、最初はのらりくらりと躱していたラーシュア。
しかし、床に這いつくばりスカートの中を覗こうとした事でキレたラーシュアに、股間を蹴り上げられ、口にワサビの塊をネジ込まれ、仕上げに全裸で亀甲縛りにして叩き出されて以来、顔を出さなくなったのだか……
おそらくこのドM属性は、その時に習得したと推測される。
噂では、隣街にある親戚筋の屋敷で、謹慎させられているって聞いていたけどな。
あれから一ヶ月も顔を出さなかったのに、今日は何しに来たんだか……?
オレはもう一度、レビンの方を横目に伺った。
ナイフとフォークを使って、上品にカツを口に運ぶレビン。
「んん~、とても美味しいですよ、お義兄さま」
「「お義兄さまゆーなっ!!」」
同時に声を上げるオレとラーシュア。そもそも兄妹じゃねぇーしっ!
「大陸広しと言えど、コレだけの料理を作れるシェフなど、そうはいませんよ。前々からお願いしている、カルーラ家専属料理人の件、真剣にお考え頂きたいですものね」
しかし、コチラのツッコミなどスルーして、爽やか笑顔を浮かべるレビン。
オレの腕を買ってくれるのは嬉しいが、比較対象が中世レベルの料理では、やはり素直には喜べない。
と、微妙な感情に眉をしかめるオレの他に、レビンの言葉へ反応する者がいた。
対面の上座に座る赤い髪の少女は、静かに箸を置くと口を拭いゆっくりと立ち上がった。
「レビン殿――今の言葉、聞き捨てならんな」
とてもオレの一つ年下とは思えない程の、威厳に満ちた物腰。そして伯爵公子を上から見下ろす、尊大な態度……
まあ、それもそのはず。この美少女は、ここサウラント王国の第四王女、シルビア・サウラント・ヴァリエッタ王女その人なのだから。
なんでそんなお姫さまが、こんなトコでメシを食っているのかは、話すと長くなるので第一部を読んでくれ。
実は縁談の話しまであった、この第四王女と伯爵公子。しかしその縁談は、王家の側から正式に断りを入れたらしい。
なぜなら――
「このシズトは、妾の夫となり王家に名を連ねる者ぞ。その男を、シェフなぞの下働きに誘うなど、不遜であろう」
レビンに厳しい視線を向けたまま、ビシッとオレ、一条橋静刀を指差す姫さま……
そう、どこで何をどう間違ったのか、オレはこの姫さまから求婚されているのだ。
そしてレビンはその事実を知らなかったらしく、驚きに目を見開いる。
まあ、縁談の話しがあったと言っても明らかな政略結婚だし、お互いほとんど面識は無かったらしい。特にペド紳士のレビンは、幼女以外との縁談自体に興味はないだろうからな。
「それにシズトにはのう、そこなアルトと――そしてスペリント侯爵家の長女、トレノ・スペリントも側室として嫁ぐ事になっておる」
「フフフ……」
「わ、わたしはこんな男の事など何とも思ってないが、父上と――何より国王様のご命令でやむなくだ。勘違いするなよシズト」
更なる姫さまの衝撃発言に、胸元の開いた紫色のチャイナドレスを纏って、妖しく微笑む隻眼のアルトさん。
そしてその隣では、胸元の強調されたオレンジ色のフリル付きエプロンドレスを着たトレノっちが、顔を赤らめソッポを向いている。
えっ? なんでそんな服を着てるのかって?
オレの趣味ですが何か? デザイン、作製、共にオレですが、何か問題でも?
――と、まぁオレの趣味は置いといて、この二人はウチに居候する代わりに、ウェートレスとして働いて貰っているのだ。
「なんと……皆様方は、そのような関係でしたか。これは知らぬ事とはいえ、大変失礼しました」
静かに立ち上がると、姫さまに向かって仰々しく頭を下げるレビン。
この辺の立ち振る舞いだけ見れば、立派な貴族なんだけどな。
「分かればよい。シズトの持つ技術や知識は、この国の発展に大きく――」
「待って下さい、王女様っ!」
腰に手を当て、ご満悦の姫さまに語る言葉は、オレの隣に座る少女(見た目)によって遮られた。
そしてその声の主は、小柄な身長には不釣り合いの大きな胸を揺らして、勢いよく立ち上がる。




