プロローグ
ジェルブラテトラ大陸――四つの王国が支配する大陸。ここは、その大陸の南方にあるサウラント王国カルーラ伯爵領、ラフェスタの街。
アクシオ・カルーラ伯爵が治める、漁業が盛んな漁師街である。王国南端に位置し、治安も比較的良好な田舎街。
そんな田舎街で一風変わった店としてウワサになっているお店『桜花亭』。
中世ローマのような町並みに剣と魔法、そして多種多様な種族が混在するファンタジーな異世界。そんな異世界でなんとこの桜花亭では、生粋の日本人であるオレ、一条橋静刀が料理人を務め、本格和食料理を提供しているのである。
「ありがとうございました」
「また来るがよい」
太陽が南から西に傾き出した頃。お昼の食事に来ていた最後のお客さんを店の外まで出て見送る白と黒の少女達。
さて、後片付けが終わったら、オレ達もちょっと遅い昼食だ。
「ステラァ~、暖簾下げちゃって~」
「は~い」
オレの言葉に元気な返事を返す、一部分(胸)だけ極端に成長した白い和ゴスを着たハーフエルフの少女、ステラ――
まあ少女と言っても、それは見た目だけ。実年齢で言えば十七歳のオレよりもずっと上である。
「ラーシュアは、ランチの看板を仕舞ってくれ」
「まったく……主は人使いが荒いのぉ~。少しは老人を労ったらどうじゃ?」
と、ババァ口調で返事を反したのは、外見十歳前後の艷やかな長い黒髪に色白の肌と、まるで日本人形のような少女、とゆうか幼女。
その外見とはかけ離れた、言葉使いとセリフではあるが――
まあ、この幼女。実年齢で言えばオレの数百倍――いや数千倍なのである。
オレはラーシュアの言いように苦笑いを浮べながら、
『さて、今日の賄いは、なんにしようか……最近、一気に人数が増えたからなぁ』
などと考えていると――
「ラ~~~シュアさまぁぁぁぁぁぁぁぁ~~っ!!」
遠くから近づくように聞こえて来る、聞き覚えのある声。
その声に思い切り顔をしかめるラーシュアと、困った笑いを浮かべるステラ。
まあ、気持ちはよく分かる……
オレは一つため息をつくと、店内に残る三人に目配せをしてから表へと向った。
そして店の出口を潜った瞬間――
「ラ~シュアさまぁぁ~~、ギャフンッ!?」
両手を広げて駆け寄って来る、品の良いローブにマントを纏った長髪の男。
その優男風イケメンの顔面に、ラーシュアの打点の高いローリングソバットがカウンターで炸裂した。
イケメン男は走って着た勢いそのままに一回転。顔面からうつ伏せに落下すると、ヘッドスライディングのように滑って行く。
てゆうか『ギャフン』なんてセリフを、まさかリアルで聞く事になろうとは――
さすが異世界、侮れねぇ……
そんな事を思いながら、うつ伏せのまま身体をピクピクと痙攣させている男へと歩み寄った。
「お~い、レビン。生きてるかぁ?」
「あ、ああぁ……ラーシュアさま……帰郷早々のご褒美、ありがとうございました……ガクッ」
一瞬だけ恍惚とした顔を上げた男は、自己申告で『ガクッ』という擬音を発して、意識を深い闇の底へと落としていく。
さて、この残念なイケメンが、この地を治める領主の息子――伯爵公子レビン・カルーラだと言って、どれだけの人間が信じるだろうか……?
そして、この伯爵公子の襲来が、あんな事件を引き起こす事になろうと誰が予想しただろう……?
――――と、大げさに引いてみたけど、とりあえず生きてるみたいだし、帰ってメシにしようか。




