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戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、和食屋『桜花亭』は今日も元気に営業中!!』編第一部 異世界の和食屋さん
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エピローグ 02

「なっ、なななな、なん……」


 突然の出来事で、パニックに陥るオレ。


 いや、パニックってるのはオレだけではなく、ステラも顔を真っ赤にして、口をパクパクさせながらフリーズしているし、この成り行きには、さしものラーシュアですら目を丸くしていた。


「ちょ、ちょっとまっ……な、なんで、結婚とか、いきなり……」


「いきなりではない。シズトの事はずっと狙っておったのじゃ。ただ、今までは王族と市井(しせい)の民という障害があったが、シズトが貴族になったなら問題なしじゃ。それに、シズトの持つ料理の腕や異国の進んだ知識には父上もいたく興味を持っておるしな。妾が、どこぞの貴族のボンボンと政略結婚などするより、シズトを婿に取る方が国益の為になると申したら、父上も二つ返事で許可してくれたわ。それとな――」


 嬉々として語る姫さま。

 しかし、オレの方は胸に当たる柔らかい感触と、鼻孔をくすぐる甘い香りに動揺しまくりで、内容の半分も頭に入ってこない。


 そんなオレに、姫さまは更に強く胸を押し付けながら身体を密着させ、耳元へ口を近づけるとヒソヒソと(ささや)き出した。


「それとな、父上は興味と同時に危機感も持っておる。シズトの剣とラーシュアの術にな――」

「!?」


 耳元で囁かれた姫さまの言葉に、オレは動揺が一気に覚め、表情を強ばらせた。

 同時にラーシュアも眉をひそめて、真剣な表情を見せる。


 ステラに気を使い、声のトーンを落としたのだろうが、どうやらラーシュアには聞こえているようだ。


「もし、シズト達が他国にでも渡り、そこで敵として戦争に加われば戦線が崩壊するやもしれんからな」

「ならばどうする? オレ達を殺すか?」

「まさか。ソナタ等を敵へ回せば、どれだけの被害が出るか見当もつかん。なにせ、ラーシュアが紫紺竜を焼失させた光は王都までも届いたと言うしな。じゃから、どんな手を使ってでもシズトを誑し込(たらしこ)んで王宮へ迎え入れろと、父上直々のご命令じゃ」


 そう言うと、姫さまはオレの首に腕を回したままで胸を張り、谷間を見せつけるように押し付けると、上目遣いで笑顔を浮かべながらパチンと片目を閉じた。


 あ、あざとい……しかし、このあざと可愛さに負けてしまいそうだ。


「それとな、今ならもれなく、側室(そくしつ)にトレノも付いてきて、大変お得じゃぞ」


 通常トーンに戻った姫さまは、まるでテレビの通販番組のような事を言い出した。


 って、イヤイヤ側室って、あのお硬いトレノっちが…………



 赤くなっていらっしゃるぅぅーーっ!?



 目を閉じて腕を組みながら平静を装ってはいるが、その頬はどう見ても紅潮していた。


「ト、トレノっち……まさか……」

「か、勘違いするなよ。私は貴様の事など何とも思ってないぞ。ただ、どんな手を使っても姫さまの縁談をまとめろと、国王陛下直々のご命令だからな。やむなくにだ」


 顔を逸らしソッポを向いて、そう言い切るトレノっちに、

「テンプレ的なツンデレじゃな」

 と、ラーシュアが呟いていたけど、トレノっちの耳には届かなかったようだ。


 まっ、届いたとしても『ツンデレ』なんて言葉の意味は分からんだろうが。


「で、でもトレノっちの家は侯爵家(こうしゃくけ)だろ? そこの娘が側室って……」

「それは問題ない。側室とはいえ正室が妾じゃからな。これでスペリント家は、王室と縁戚(えんせき)になるわけじゃ。行き遅れの娘が、これ以上ない形で片付いてくれたと、トレノの両親も諸手(もろて)を上げて喜んでおったわ」


 オレのささやかな疑問へ、トレノっちに代わって答える姫さま。トレノっちの方は相変わらずソッポを向いたままで、その表情は見えない。


「しかもこの縁談が流れると、トレノは罰として(よわい)百歳を超えるドワーフに、後妻として(とつ)がされるそうじゃ。可哀想じゃと思わぬか? 新婚で、いきなり十三児の母になるのじゃぞ」

「十五児です……最近、愛妾(めかけ)に双子を産ませたそうなので……」


 ガックリと項垂(うなだ)れるトレノっち。


 た、確かに可哀想だとは思うけど、それとこれとは話が違うというか……


 ちなみにドワーフは、エルフ程ではないけどかなり長寿で、普通に二百五十歳位までは生きるらしい。


「フフ……なら私も側室に入れて貰おうかしら」


 と、ここで新たに聞き覚えのある声。この艶っぽく大人の魅力に溢れる声は……


「遅かったのぉ、アルト。馬車は預かって貰えたか?」

「はい。ただ、貸馬屋の御老体に口説かれておりまして――あまりにしつこかったので、股間を蹴飛ばし黙らせて来ました」


 うわ……その光景が目に浮かぶようだ……


 って! そうじゃなくてっ!


「アルテ――じゃなくてアルトさんまで、どうしてココにっ!?」


 そう、新たに現れたのは、アルテッツァさん改めアルトさん。


 短くなった髪は綺麗に整えられ、なにやらハ◯ーン様みたくなってはいるが、あの身体のラインがハッキリ浮かぶセクシーなローブに隻眼の瞳。そして、その綺麗な瞳の目元と谷間のセクシーなほくろは、間違えなくアルトさんのモノだ。


「どうしてって……? 女として命の次に大事な物をムリヤリ奪われ、散らされたのだから、責任取って(めと)って貰わないとね――ご主人様」


 艶美(えんび)な笑みを浮かべて、後ろ髪をサッと払うアルトさん。


 た、確かに、女性の命とも言うべき髪を、いきなり切ったのは悪かったと思うけど、あの時はああするしか……うっ!?


 突然、背後から立ち込めるドス黒い殺気に背筋が凍りつく。


「シズトさん……それって、どういう意味ですか……?」


 今の今までフリーズしていたステラ様が、ようやくお目覚めになられたようだ。


「とゆうか、いい加減に離れて下さいっ!」


 密着するオレと姫さまの間に、その小さな身体を潜り込ませ、強引に引き離すステラ。


 そのままオレに背を向けて、姫さま達を見上げるように立ちはだかった。


「さっきから聞いていれば国益とか縁戚とかって! 結婚というのは、二人の愛を神に祝福して頂く神聖な儀式なのですよ。それを、そんな(よこしま)な理由で結婚するとか、ありえませんっ! そうですよね、シズトさんっ!?」

「お、おう……そ、そうだな。その通りだ」


 ステラの迫力に気圧されて、思わず同調するオレ。

 そして、オレの賛同を得たステラは、嬉々として更に声を上げる。


「ですよね、そうですよねっ! シズトさんからも、ビシッと言ってやって下さいっ!」

「あ、うん……分かった……」


 ビシッと、とか言われてもねぇ……

 庶民と違い、王族や貴族の婚姻なんて九割方は政略結婚だからなぁ。


 とりあえずステラの前に出て、姫さまの正面に立つ。


「姫さま……」

「姫さまなどと水臭い。妾の事はシルビア――いや、シルビィと愛称で呼んでくれてかまわぬぞ」


「王女殿下」

「照れておるのか? まあよい、なんじゃ?」

「参考までに、側室は何人まで、ぶげぇっ!?」


 突然、物凄い衝突音と共に脳天へ激痛が走り、オレは頭を抑えてうずくまった。


 ス、ステラちゃん……椅子は反則でしょう、椅子は……


 と、抗議の声を上げる間もなく、胸倉を掴まれ引き寄せられるオレ。


 そして眼前に迫る、ハーフエルフの(まばゆ)いエンジェルスマイル。そして耳に届くは、甘い囁きスイートボイス。


「シズトさ~ん。そうじゃないでしょ~?」

「うん、分かってる……冗談、冗談だから……」


 怖い、怖いよステラちゃん……どうやったら、そんな天使の笑顔で貞子さんみたいな殺気が出せるのかな……?


 そんな、カツアゲするヤンキーと怯える中学生みたいな構図のオレ達。


 そして待てとばかりに、それを止める正義の味方的な構図で、姫さまが右の手のひらを広げ、ドヤ顔でつき出して来た。


「五十人じゃ」

「………………はい?」

「じゃから、側室は五十人までなら可能じゃ。使用人もおるし、それ以上はさすがに妾の屋敷でも入り切らん」


 ご、五十人……側室が五十人だと……


 ちょ、ちょっと待て……

 例えば、ハーレムアニメのヒロインが一作品につき平均五人だとしよう。それが五十人だとすると、十作品分ってことかっ!?


 バカな……ハーレムアニメ十作品分のボリュームとか…………そこは天国か?


 思わずゴクリと音をたてて唾を飲み込むオレ。


 しかし……


「シ~ズ~ト~さ~ん……」


 炎の様に熱く七色に輝く拳を握りしめたステラの、()てつき(こご)えるような殺気で、オレはすぐに現実へと引き戻される。


「わ、分かってる、分かってるから……」


 今にも虹色の魔力が込められた拳を放ちそうなステラに、引きつった笑いを浮かべから再度姫さまの正面に立った。


「姫さま……」

「なんじゃ?」


「とりあえず前向きに検討しつつ、なんとかステラを説得するから、少しまっ――」

「シズトさんのバカァァァアアアァーーーーッ!!」

「ぉぼんぃれざぐんにいぅぅぅうううぅぅ……………」


 七色の起立する虹の如きアッパーカットを食らったオレは、天井を突き抜け遥か上空まで吹き飛ばされた。


 偉大なる世界初の有人宇宙飛行士、ユーリー・ガガーリンよ。


 コチラの世界でも、やはり地球は青かった……


         ――第一部 完結

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすく、起承転結がしっかりしててすごくいい作品。 一部すごく面白かったです。 [気になる点] めちゃくちゃ面白いのになんで埋もれてるんだろ?
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