表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、和食屋『桜花亭』は今日も元気に営業中!!』編第一部 異世界の和食屋さん
52/328

エピローグ 01

「ありがとうございました~」


 ランチタイム最後の客を、元気な声で見送るステラ。


 さて、後片付けを済ませたら、ようやくオレ達の昼飯タイムだ。


 あの、姫さま達とステラの誘拐事件から十日。

 すっかりと平常運転に戻ったオレ達は、忙しくも平和な日常を満喫していた。


 まっ、元々がヒエラルキー頂点の王族さまと、最底辺のしがない雇われ労働者だ。住む世界も違うし、飲食代の支払いもキッチリ受け取った。

 なにより王宮への出張調理をハッキリ断った今、もう直接会う事もないだろう。


 心残りと言えば、あのミニスカウェートレス服を着た巨乳を、二度と(おが)めない事くらいだ。


「うむ、確かにあの巨乳騎士の乳は、迫力があったからのぉ」

「まったくだ。今でもたまに夢で出……たりしないよ、全然、ちっとも」


 ラーシュアのセリフに思わず釣られてしまったが、ハーフエルフ様の殺気のこもった視線に、慌てて否定するオレ。


 だからお前は、人の考えを読むなとゆうとろうがっ!


「なんじゃぁ? 夢に出たのはトレノだけか? 冷たいのぉ、妾はソナタを忘れた日など一日もなかったとゆうに」


 突然、オレ達の会話に割り込む聞き覚えのある声。

 ウチのロリババと被る言葉使いのセリフに、オレ達の視線は店の入り口へと集中した。


 そこに居たのは、見覚えのある胸――じゃなくて、見覚えのある顔の二人組。

 いや、胸も見覚えあるけど。


「久しいのぉ、息災であったか?」

「な、なんで姫さまとトレノっちがここに? 王都へ帰ったはずじゃ……」


 そう、噂をすればなんとやら。

 準備中の札が掛かっていたはずのドアを開けて現れたのは、王女殿下さまと護衛の巨乳騎士さま。


「なんで、とはご挨拶じゃな。父上への報告を済ませ、馬車を飛ばして急ぎ戻って来たとゆうに」


 いや、だからね。なんで戻って来たのかと、聞いているのだが……


 てゆうか、王都までは通常だと馬車で、片道一週間程度はかかるはず。それを往復で十日とか、どんだけ飛ばして来たんだよ。


「そうそう。父上と言えば、シズトが土産に持たせてくれた、竹筒に入った水羊羹(みずようかん)。大層気に入っておられだぞ」


 呆気に取られるオレ達を尻目に、ツカツカと店の中へ入って来る姫さま達。


「いえ、姫さま。国王陛下だけでなく、王妃様やご兄姉の皆様も、大層喜んでおられましたよ」

「そうであったな。最初は皆、竹から出て来た黒い塊を見て、面食らっておったがな。しかし、それを言うなら同席したスペリント卿など『我等に木炭を食わせる気かっ!』と、怒鳴り出しておったではないか」

「お恥ずかしかぎりです……」


 楽しそうにガールズトークに興じ始める二人。


 ちなみに、話題になっている羊羹は、姫さまが王都へ帰る時に手土産として持たせた物だ。ステラ得意の、劣化防止魔法をかけて……って!


「イヤイヤイヤイヤッ! 羊羹の話はいいからっ! どうして姫さま達が、ココにいる?」

「おお、そうであったな」


 オレ達を蚊帳の外に置いて盛り上がっていた姫さま達は、思い出したかのようにコチラへ向き直った。


「実はな、此度(こたび)の敗残兵討伐に際し、シズトの功績に対して父上から恩賞が出てな。妾が直々に参った次第だ」


 恩賞となっ!? それを早く言え。オレはタダなら何でも貰う男。

 駅前でティッシュを配っていれば、往復して二つ貰うハングリー精神に満ちた男だ。


「性少年はティッシュの消費量が激しいからのぉ」

「うるさい黙れ。そして、人の考え読むな」


 オレはラーシュアにビシッと言い切り、厨房からフロアへと出る。


 ただ、ここで一人、首を傾げる者がいた。

 そう、事の顛末を知らない、白い和ゴスのハーフエルフだ。


「恩賞……? シズトさん、何かしたんですか?」


 ステラには、人質達を救出したのは軍の討伐隊だと伝えてある。

 ただ『詳細は国家の機密事項だ。無用な詮索は国家反逆罪に相当する』と付け加えて。


 それをあっさり信じたステラは、身を震わせて何度も頷いていた。


 さて、今度はどんな言い訳にするか……


「お、おう……じ、実は大活躍したんだぞ。討伐隊を森の入り口まで案内したのは、何を隠そうこのオレだ」

「へえ、そうなんですか。じゃあ、私が助かったのは、シズトさんのおかげでもあるんですね」


 今度もオレの言う事を、笑顔であっさりと信じるステラ。


 うん、いつまでも素直で天然なままのキミでいてくれ。


 彼女の健やかな成長を祈りながら、姫さま達の前に立つオレ。


「トレノ」

「はっ!」


 姫さまに声をかけられ、トレノっちはオレの前に手のひらサイズの箱を差し出した。


 おおっ、宝石でも入っていそうな箱だな。


「なにやら婚約指輪でも入っていそうな箱じゃな」

「むう~~ぅ」


 オレの両隣に並んで、箱へ目を向ける白と黒の和ゴスっ娘達。

 興味津々といった感じのラーシュアと、頬を膨らませるステラ。


 そんなオレ達の視線を受け、トレノっちはゆっくりと蓋を開いていく。



「「「………………」」」



 反応は一様に無言だけど、表情は三者三様だ。


 (いぶか)しげな表情のオレに、落胆するラーシュア。しかしステラに至っては、血の気の引いた顔で目を見開き後ずさっていた。


 そんなオレ達の目の前に差し出されていた物が何かと言えば、鷹がモチーフになっている、王家の紋章を(かたど)った勲章。


 そして、蓋の裏側にこう書いてあった。


『一条橋静刀 此度の功績を称え、子爵(ししゃく)爵位(しゃくい)を与える』


 オレは一つため息をついて、その勲章を摘み上げた。


「これって、いくらくらいで売れるかな?」

「売るなっ!!」

「だってオレ、爵位とか興味ねぇし……」

「き、興味ないって、お前っ! 卿や男爵を飛び越えて、いきなり子爵だぞっ! これがどれだけ名誉な事か分かっているのかっ!?」


 目くじらを立てるトレノっちの手に、勲章を戻すオレ。


「とにかく、爵位とかいらんから。だいたい、オレが為政者を嫌いなの知ってんだろ? そのオレがお貴族さまとか、何の冗談だよ」

「そ、それは……」


 口ごもるトレノっち。


 しかし姫さまは、そんなトレノっちの手から勲章を取り、オレの前に立った。


「そう言うなシズト。肩書きはあって邪魔になるものでなし。なにより、国として感謝の気持ちを形にしたものじゃ。貰うだけ貰ってくれ」


 そう言いながら、オレの胸に勲章を付ける姫さま。


 ま、まあ……感謝の気持ちと言われては、断るのも忍びない。

 貰うだけなら、貰っておくか……

 ってか、作務衣(さむい)に勲章って似合わねぇな、おい。


「さて、これでシズトもめでたく貴族になったわけじゃな――フフン♪」


 別に、めでたくねぇし……


 と、口にしようとした瞬間。姫さまは満面の笑みを浮かべると、いきなりオレの首に抱きついて来た。


「というわけで結婚しよう、シズト♪」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングも一日一ポチお願いしますm(_ _)m
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ