第九章 家族会議 02
「ダメェェーーーッ!! そんなの絶対ダメですっ!!」
「そうです、姫さまっ! 絶対に許しませんっ!!」
そう、声を上げたのはステラとトレノっちの巨乳タッグ。
「何故じゃ?」
しかし、姫さまは二人のタッグによるダメ出しにも、全く臆する事無く平然と問いかける。
「決まってますっ! 高貴なる血が流れる姫さまと、こんな品性の欠片も無いような下賎の輩とが、関係を持って良いはずがないでしょう!」
「そうです! そうです!」
品性の欠片も無くて悪かったなっ!
てゆうか、ステラには、その部分だけでは否定して欲しかった……
「しかし、高貴というのであれば、貴族の奥方の連中には、お抱えの料理人や庭師との秘め事に興じる者も多いと聞くぞ」
「た、確かに、そういう話もよく耳にしますけど……いえ、そもそも何故に姫さまがそこまでされるのですか? 此度の失態は私が原因です。責を負うのであれば私のはず」
「何を言う。部下の失態の責任を負うのは、上に立つ者の勤めじゃ。それに何故かと問われれば――」
姫さまは一度チラリとオレの方へ目をやると、トレノっちの耳元に口を寄せ、ヒソヒソと話始めた。
「何故かと問われれば、ここでシズトを誑し込んで籠絡出来れば、無理に妾の婿にせんでも専属料理人として王都に引っ張り出せるかもしれんじゃろ? じゃからここは妾に任せて、お前は安心してドワーフの後妻にでも収まっておれ」
「むっ……」
と、今度はトレノがチラリとオレの方へ目をやると、一つ深呼吸をしてから、姫さまの耳に口を寄せる。
「いえ、姫さま。先程も申しましたが、今回の失態は私の責任。なればその役目、私が引き受けましょう」
「ちょっと待てっ! 昨夜は散々シズトを拒絶しておったではないかっ!」
「はい、その気持ちは今でも変わりません。しかし、失態の責任を取るのも騎士の勤め――いえ別にオークの子を孕んだり、ドワーフの後妻になるよりはマシかな? とか、全然考えてはおりませんよ」
「くっ……今、本音がチラリと見え隠れしたぞ。さては裸を見られた上に口づけをされたと聞き、いい年して運命でも感じおったな?」
「そ、そんな事は、あ、ああありませんよ……ただ、まあそれでも、彼奴が私の魅力に虜となり求婚を申し込むのであれば、あくまで親孝行の為と割り切って、それを受けるのもやぶさかではありません」
「とにかくっ! シズトは妾が先に目を付けたのじゃ。妾もこの指技を男子に試したいと、前々から思っておったしのぉ」
「いいえ、高貴なる姫さまに、そのような事をさせるワケにはまいりません。ここは姫さまに代わり、私が泥をかぶりましょう」
「何が泥をかぶるじゃっ! お前は泥ではなく、オークの射したドロドロとした白いモノでもかぶっておれっ!」
「ちょっ!? 姫さまっ! 白いモノとか、何を言って――」
何を言っているのかは聞こえないけど、姫さまとトレノっちの内緒話を、お茶を啜りながら見守るオレたち。
てゆうか、なんか内緒話がエキサイトしてきたな……
「何を話してるんでしょう?」
「さあ……」
疑問顔を浮かべたステラの呟きに、お茶を啜りながら端的に答えるオレ。
しかし、反対側ではラーシュアがニヤニヤとした笑みを浮かべながら、二人のやり取りを眺めていた。
「うむ、確かに巨乳騎士とオークのからみは定番じゃな……」
「はあぁ? オーク?」
「何でもない。主には関係のない話――ではないが、聞かない方がいい話じゃ」
なんのこっちゃ……
どうやらラーシュアには、二人の話が聞こえているようだ。
「こうなったら、シズトに直接決めてもらおうぞっ!」
「望むところですっ!」
「というワケで、どっちだシズトっ!?」
「何がーっ!?」
突然の二者択一に困惑するオレ。
いきなり『どっちだっ!』とか言われても、ワケ分からんわ。
しかし、オレのその態度に、姫さまはテーブルに両手で叩いて身を乗り出した。
「話を聞いておらんかったのかっ! 支払いを待たせる代わりに対価を払うと申したろっ! 妾とトレノ、どちらが良いっ!?」
えっ、なに? いつの間にか、トレノっちも候補に入っていたの?
しかし、そんな事を聞かれれば、出てくる答えは――
「それじゃあ、両方で――じゃなくて」
だからステラちゃん、足痛いよ……
ステラの殺気駄々漏れの視線を受け、背中に冷たい汗が流れる。
てか、そんなん答えられるかっ!
どっちを選ぼうと、答えた瞬間にステラのギャラクティ○・マグナムで吹っ飛ばされる未来しか見えんわっ!
「主よ……」
答えに窮するオレの腕を、ラーシュアがクイクイっと引っ張った。
まるで、面白いイタズラでも思い付いたかの様に笑うラーシュア。
オレは、そんな小悪魔幼女と視線を合わせアイコンタクトを取る。
『…………』
『…………』
『…………ふっ、なるほど、それは面白い』
『出来そうか、主?』
『当然だ。フフフ、今夜は徹夜だぜっ! ――しかし、ステラはどうする?』
『そちらは任せておけ』
アイコンタクト成立。
ラーシュアは席を立つと、オレの足を踏んでいるステラへと声を掛けた。
「ステラよ。大事な話があるのじゃが、ちとよいか?」
「なぁに、ラーシュアちゃん?」
ラーシュアに連れられ、店の角へと移動するステラ。
「実はな――」
「うん……」
「ここからは、大人の話し合いじゃ! 子供は少し静かにしておれっ!」
「ちょっ!?」
どこからともなく取り出したロープをステラに引っ掛けるラーシュア。
で、出たぁぁぁぁーーっ! ラーシュア四十八の必殺技の一つ、瞬間亀甲縛りっ!!
説明しようっ! 瞬間亀甲縛りとは、一瞬の間に相手を亀甲縛りで縛り上げる技である。てか、説明いらねぇな。
「おおっ? あんな一瞬で縛り上げるとは、なんと素晴らしい……」
「ええ、ぜひ我が騎士団の捕縛術に取り入れたい技術です」
イヤイヤ、騎士団の捕縛術に亀甲縛りって……
この縛り方は可愛い女の子を縛るモノであって、ムサイおっさんを縛るモノではない。
ご丁寧に、ステラの口をタオルで塞いだラーシュアは、ロープを柱へと括り付ける。
そして、オレの方を向き視線が交差すると、お互いニヒルな笑みを浮かべて親指を立てた。
しかし、巨乳エルフのミニスカ和ゴス少女と縄の組合せが、これ程の破壊力を持つとは……
い、いや、少女ではない。確かにステラは中学生くらいにしか見えないが、それでもオレよりも年上。そう、17歳のオレよりずっと年上なのである。
これ、大事な事だから二回言っておく。
「シズトよ、何をブツブツ言っておるのだ?」
「日本という国は、某社団法人さんなんかが児ポ法だ何だとうるさい国なんだよ」
「しゃだんほーじん?」
「いや、何でもない――それより話を戻そう」
すまん、ステラ……あとでお前の好きなタルトをたくさん作ってやるから。
オレは、店の角で「う~う~」と唸っているステラに心の中で詫びを入れ、姫さま達の方へと向き直った。
「うむ、それでどちらを選ぶのじゃ?」
「オレが選ぶのは――」
オレは溜めるように一拍置いてから大きく息を吸い込むと、勢いよく白金の甲冑を指差した。
「トレノっ乳っ、キミに決めたっ!」
「誰がトレノっ乳だ!」
「くっ……やはり乳なのか? 男という生き物は、乳がデカけりゃそれでいいのか? いや妾とて、比較対象がトレノでなければ負けておらんのに……」
「見損なったぞ、主……」
真っ赤な顔で身を乗り出すトレノっちと、背後で唸るステラ。そして、拳を握り締めて悔しがる姫さまと、蔑んだ視線を向けるラーシュア――
あれ? いつの間にやら四面楚歌……?
てか、ラーシュアっ! お前はオレがトレノっちを選ぶの知ってたろっ!
「そ、それじゃあ、さっそくオレの部屋に行こうか、トレノっち?」
若干、居心地の悪さを感じたオレは、早々にこの場を立ち去る事を決めた。
「なっ!? い、今からか?」
「当然っ! それとも、ヤッパリやめるか?」
「うむっ! ならば、妾が代わってやるぞ」
「うっ……」
冷や汗を流し、たじろぎながら言葉を詰まらせるトレノっち。
しかし、すぐに平静を取り戻し、その大きな胸を張る。
「わ、わた、私も騎士だ。いい、一度、く、口にした言葉はは、撤回なななど、せ、せんぞっ!」
前言撤回……全く平静じゃなかった。てゆうか、すんっげー声が裏返ってるし……
ではオレも、紳士的にあえて空気を読まず、その虚勢にも気付かないフリで話を進めよう。




