エピローグ②
「まず、壊れた闘技場の補修と学園内全ての調査を行うという事で、騎士学園は一ヶ月の休校となりました」
「一ヶ月って……少し長すぎないか?」
春休みが終わってまだ一ヶ月も経っとらんのに、また一ヶ月の長期休校とは。
日本ではちょうどゴールデンウィークのシーズンかもしれんが……それでも、さすがに一ヶ月は長すぎる。
「確かに……しかし、公爵家にして近衛騎士団団長でもあるエルラー家にスパイが紛れ込んでいたかもしれないという事実は、王家でも由々しき問題であると、かなり大きく捉えております」
「故に、学園へ通う生徒の実家はもちろん、教職員を含めた学園関係者。それに出入り業者などの背後関係まで、徹底的に調査をするそうなのです」
オレのクレーム気味な問いに、淡々と答えるメイド姉妹。
まあ、由々しき問題なのは確かだし、徹底調査をするなら、それくらい掛かるのか?
ちなみに、当のエルラー家はといえば、近衛騎士団団長の地位と公爵家の爵位返上を申し出ているという。
ただ、これまでの王国に対する多大な功績。そして何より、騎士団の騎士達から存続を願い出る大量の署名と請願書が出でおり、現在は判断を保留中なのだそうだ。
ホント、この公明正大にして人望の厚い人から、何であんな困ったちゃんが出来たのだろうか?
とはいえ、そのビクトール先輩のオレ達に対する困ったちゃん的言動なのだが……
もし、お付きのメイドと逃亡したダークエルフが同一人物であり、黒幕の組織と繋がっていたのだとすればだ。先輩はそのメイドからマインドコントロールを受け、その組織の傀儡となっていた可能性も考えられる。
だとすれば、先日の盗賊討伐の遠征でオレや明那を参加させた事。戦術、戦略の成績が首席であるはずの先輩が立てた計画がチグハグで杜撰だった事。更に、その時の指揮も滅茶苦茶だった事にも説明もつくのだ。
まっ、あくまで可能性の話しだし、その辺は今後の調査報告――この国の諜報機関に期待と言ったところ……
いや、待てよ。
一ヶ月の長期休校になるという事なら、観光も兼ねてオレと明那でそのダークエルフを追ってみるのも一興だな。
異世界に来て早一年。今までは明那の捜索にかまけ、この世界をゆっくり見て回るなんて事はなかったし。その明那に至っては、エリ女の敷地内から出る事も出来なかったようだしな。
オレがそんな事を考えていると、明那が期待を込めた瞳で何やらアイコンタクトを送って来た。
どうやら明那もオレと同じ考えのようだ。
仕事を休む事に対して、どうしても罪悪感を覚えてしまうワーカホリックの日本人。
ましてや、ゆとり世代やZ世代の人間とは縁遠い、平安時代から続く旧家にして公家の一族である土御門家のオレ達。
見知らぬ土地を観光で観て回るにしても、そこにスパイの捜索と追跡任務という大義名分でもなければ、どうしても罪悪感が付いて回るのだ。
「ところでソフィア。その一ヶ月の休みだが、学園側から生徒達へ何か指示は出でるのか?」
「いえ、通常の長期休校であれば学園側も課題などを用意するのでしょうけど……今回はあまりに突発的だった為それも用意出来ず、自主学習に励むようにとの事です」
「自主学習か……」
「はい。そして、その自主学習の成果を確認する意味で、休校明けすぐに試験を行うそうですわ」
課題がないのは好都合。試験は正直メンドーだけど、受けるのがメンドーだというだけで、オレ達からすれば簡単な問題ばかりだし。特に勉強などする必要はないからな。
これで休み中の、『異世界観光スパイ追跡ツアー』の障害はなくなったわけだ。
とはいえ、黙って行く訳にはいかないからな。とりあえず、ソフィアには伝えておかな――
「ところでアキラ様、アキナ様? 休み期間の事なのですが――」
ソフィアには伝えておかなければ。
そう思った矢先。ソフィアの方から休み中の事に触れて来た。
「その事なんだが、ソフィ――」
「ご一緒に温泉にでも参りませんか?」
ほぼ同じタイミングで言葉を発したオレとソフィア。
しかし、ソフィアの口から出た思いがけない単語に、オレの言葉は途中で止まってしまっていた。
その聞き慣れない単語――いや、コチラの世界で聞き慣れないと言うだけで、オレ達にとっては聞き慣れ、とても馴染みの深い単語だ。
その感慨深くも懐かし単語に動揺し、思わず固まるオレ。
い、いや、待て……聞き間違い、あるいは幻聴という可能性もある。
「ちょ……ソ、ソフィアちゃん……? い、今、何ていったの……?」
オレと同じように動揺を隠し切れず、言葉を詰まらせる明那。それでも、何とかソフィアへと質問の声を絞り出していた。
「えっ……? ご一緒に温泉にでも参り――」
「混浴だとーーっ!?」
「温泉だとーーっ!?」
ソフィアの答えへ、被り気味に声を張り上げ身を乗り出すオレ達。
「って、お兄ちゃん……? 何か字が違くなかった?」
「はい。同じ"おんせん"という発音なのに――」
「アキラ様の発音からは、なぜが卑猥な印象を受けました」
明那、更にはメイド姉妹が揃って向けてくる逆さにしたカマボコの断面みたいなジト目。
「いや、今はそんな些細な事を問題にしている場合ではないのだよ、チミ達」
我が妹の『全然、些細じゃないんだけど』的な目をスルーし、オレは少々苦笑い気味になっているソフィアへと目を向けた。
「ソフィア様。こちら世界にも、混浴などという物がございますのでしょうか?」
「え、ええ……ございます。とゆうか、なぜに敬語……?」
なぜになどと、これは異な事。ソフィア様は王国の第四王女殿下にして混浴の存在をお教え下された、尊きお方。敬意を払うのは当然でござる。
「とりあえず、お兄ちゃんのアホは置いといて……温泉って、アレだよね? 地下から天然で湧き出た湯を張った風呂の事だよね?」
「はい、そのお風呂の事です。温泉は怪我や疲労、それに魔力の回復にも効果がありますので、騎士武祭や覚醒魔王との戦いで疲れたお身体を癒やすのにどうか――」
「「行きますっ!!」」
再び被り気味に声を上げるオレ達。
えっ? 罪悪感? 何それ美味しいの?
「でも、温泉なんて、この近くにあるの?」
しかし、明那の口からポロリと漏れる素朴な疑問。
確かに……
魔物や盗賊なんかの討伐依頼や地下組織狩りで王都近郊はそれなりに見て回っていたが、温泉の話など聞いた事がない。
「いえ、近場という訳ではないですし……そもそも、王都近郊に温泉のある街はありませんから」
だよな……
もし、近場にそんな素敵スポットあるなら、オレの耳に入らん訳がないのだ。
「ですので、少々遠出する事になりますけど、馬車で一週間ほどの場所にある温泉の街"ベッショ"へ行こうかと考えております」
温泉の街、ベッショだと……?
どっかで聞いた――とゆうか、聞き馴染んだ街の名前だな、オイ。
「なあ、ソフィア? そのベッショって街。もしかして、初代勇者と何か関係があるんじゃないのか?」
「さすがアキラ様です。お察しの通り、ベッショの街は初代の勇者様が興された街で、晩年を過ごされた街でもありますわ」
やっぱりか……
真田の城があった信州の有名な温泉地と言えば別所温泉。そして、その別所温泉は、真田一族の隠れ湯と言われている温泉だ。
「しかもそのベッショの街とは、北のノーザライト王国、南のサウラント王国、そして我がウェーテリード王国の国境が交差する街ので、初代勇者様が魔王討伐後、永久中立を宣言され国家間の争いを禁じた街なのです」
「えっ? それじゃあ、その街はどこの国にも属してないのか?」
「はい。初代勇者様の意思を継ぎ、どこの国にも属さず独立と中立を維持したまま、観光と交易、そして各国の貴族達の保養地として栄えている街ですわ。なので前々から、現勇者であるアキラ様、現聖女であるアキナ様を是非一度お連れしたいと思っていたのです」
饒舌に語るソフィア。
なるほど。勇者ゆかりの地か……
それは、観光という面で見ても面白そうだ。それに、日本人である真田幸村が造った温泉街だと言うのなら、斜め上に変なものが出てきて期待ハズレ……なんて事もないだろう。
「でっ? でっ? いつ出発するの? 今から?」
「い、いえ……さすがに今からは……」
期待に目を輝かせて矢継ぎ早に問う明那へ、弱点引き気味に苦笑いを浮かべるソフィア。
まあ、オレと明那だけなら、今から着の身着のままで出掛けるのも有りだろうけど、さすがに王族のソフィアも一緒ともなればそうは行かない。
「一応、先にお父様へはお話しを通して、許可は頂いておりますけど……諸々の準備もありますし、最短でも明後日の朝と言ったところでしょうか?」
まあ、そんなもんだろ。
それに、着の身着のままもいいけど、やはり観光を楽しむなら色々と準備もしたいしな。
「まあ、そんな焦らなくてもいいだろ? 混浴は逃げも隠れもしないんだからさっ」
「お兄ちゃん……? もう一度言うけど、字が違うからね」
To be continued……
『戦乱の異世界で、シスコン陰陽師は今日も健気に妹溺愛中!!』編第一部 元暗殺者のシスコン陰陽師。勇者になって世界を救う!?
ようやく終了ですヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
長かった……
当初の予定では、こんなに長くなるはずではなかったのに……
皆様に楽しんで貰えたかは分かりませんが、わたしは書いていて楽しかったです(笑)
出来ましたら、ここまでの感想を是非是非お願い致しますm(__)m
さて、この次は原点回帰。
静刀くんとラーシュアちゃんのお話、
『戦乱の異世界で、和食屋『桜花亭』は今日も元気に営業中!!』編へ戻りたいと思っております。
皆様、是非とも応援、よろしくお願いいたしますm(__)m