第四十九章 努力! 友情! 勝利! ③
『確かに。いかな近衛の頭とはいえ、正面から、しかも単騎駆けでは足止めにもならんじゃろう――』
オレの考えを肯定する村正。
しかし、話はそこで終わりではないと、村正は更に言葉を綴っていく。
『しかしのう。あの覚醒魔王とやらには、お国の上層部しか知らん弱点があるらしくての。その話を聞き、それを主達に伝えれば十分に勝ちの目があると思おてのう。姫さん達と共に戻って来たという次第じゃ』
「弱点……だと?」
「その弱点ってのが、さっき言っていた"勝ち筋"に繋がるってこと?」
『うむっ! その通りじゃ』
オレの、そして明那の問いに意気揚々と答えると、村正は言語を日本語からコッチの世界の言葉に変え、帝釈天像の後ろにいるソフィアへと向けて声を上げた。
『姫さんよっ! 近衛の頭からの伝言。主に聞かせてやるがよい!』
『かしこまりました――』
聖剣からの指名に、ソフィアは帝釈天像へ霊力を送りながらも仰々しく頭を下げ、淡々と言葉を紡ぎ始める。
『エルラー公爵からの言伝は二つ。一つはビクトール様の事を頼みますとの由。王の元を離れなれぬ自分に代わり、我が愚息が国の民をその手にかける前に、勇者様の手で始末をお願い致しますとの事』
出来る事ならそうしたいのは山々だけどな。出来るかどうかは、その弱点とやら次第だ。
「そしてもう一つが――覚醒魔王の滅し方についてですが……』
表情を引き締めて言葉を区切るように間を開けるソフィア。
そして、その言葉の合間を縫うように、半歩後ろに控えていたメイド姉妹が足を前に踏み出し、ソフィアの両隣へと並んだ。
『この件は国家機密に相当致しますので、決して他言なさらないようお願い申し上げます』
『また後日に、魔力誓約書を用いた誓約もして頂く事となりますので、ご理解下さいませ』
慇懃な物言いでありながらも、キッパリと宣誓するように言い切るメイド姉妹。
魔力誓約書――魔力を帯びた誓約書で、魔法により誓約を強制させるための誓約書。
誓約を破った場合、用いた誓約書の種類により様々なペナルティがあり、重い物には生命に関わる物もあるそうだ。
オレや明那を含め、この場にいる学園生全員に向けた言葉。
魔族の、しかも覚醒魔王の情報なら広く周知し、各国で共有すべきだとは思うが……
まあ、外交の手札としては有効そうだし、他にも偉いさんには偉いさんなりの思惑があるのだろう。
そして、ここは騎士を目指す生徒が集まる学園だ。国の意向に逆らってまで誓約を拒否する生徒はいないだろう。
ただ、問題なのは……
オレは、すっかり人のいなくなった観戦席へと目を向けた。
そう、一見すると確かに人気はない。
しかし、気配を消してこの戦いを見守っている間者――スパイの視線がいくつか確認出来る。
こんな状況で、そんな重要情報を開示して大丈夫なのか?
と、そんなオレの視線に気付き、その思惑を感じ取ったのか? メイド姉のアリアさんが、更に言葉を繋いでいった。
『間者の事ならお気になさらずに。既に闘技場の周辺には、王国軍で編成された第二防衛隊が集結しております。ここで覚醒魔王を討つ事が出来れば、そのまま彼らが間者を逃さぬ為の壁となりますゆえ』
なるほど、なら問題ないか。
オレが納得したところでメイド姉妹は再び後ろへと下がり、同時にソフィアが再び口を開いていく。
『改めて、覚醒魔王の滅し方についてですが――魔琥珀を見つけ出し、それを破壊する事が出来れば、覚醒魔王と化したビクトール様を討ち滅ぼす事が出来るとの事です』