第四十九章 努力! 友情! 勝利! ②
「さあ、アキラ様、アキナ様っ。結界の維持はわたくし達に任せて、お二人は目の前の戦いに集中して下さいませっ!」
ソフィアから――いや、ソフィア達から向けられる、勝利を確信しているような信頼の笑み。
そう、これはアレだ。
強大な敵を前に絶体絶命の危機に瀕するオレ達の元へ、颯爽と駆けつける仲間達。
そんな仲間達の力を借り、そして力を合わせて立ち向かい、更にはそこから仲間達の信じる心が主人公の秘めた能力を覚醒させ、強大な敵を見事に打ち倒す。
――と、少年マンガでよく見る『努力! 友情! 勝利!』の方程式へと繋がる、ご都合主義なシチュエーションだ。
まあ、マンネリ気味ではあるが、そんな展開も嫌いではない。
だが、しかし。残念ながらコレは少年マンガでもなければ、その程度で覚醒する秘めた能力にも心当たりはない。
それどころか……
「てゆうか、どうしようお兄ちゃん……? とても一時撤退なんて言える雰囲気じゃないんですけど……」
「ホント、どうしようか……?」
そう、その過剰で過分な信頼が逆にピンチを招いているという、なんとも皮肉な状況。努力と友情なんかで勝利が拾えるなんていうのは、少年マンガの中だけだという良い見本だ。
マジでどうするべきか?
結界の維持をしなくなった分、霊力に多少の余裕は出たし、身体も少しは軽くなった。
ただそれも、今のビクトール先輩――覚醒魔王を相手取るには焼け石に水である。
『はぁぁ~、やれやれ……やはり一時撤退を考えておったか……?』
スピーカーから聞こえてくる、ため息混じりの日本語。この危機的状況にも関わらず、性懲りも無く呑気にエウルの谷間に挟まっているエロ性剣の声が耳に届く。
「てゆうか、村正っ! ソフィア達を唆して、ここに連れて来たのお前だろっ!?」
確かにこの結界は、起点となる五体の仏像へ霊力を送れば起動するシンプルなものではあった。
しかし、ソフィア達がそんなこと知る由もなし。当然、仕組みも知らない結界の起動に対し、いきなり仏像へ霊力を送り込むなんて事はしないだろう。
となれば、仕組みを知る誰か――それもオレと明那以外となれば、村正しかいないのだ。
『唆してとは、心外じゃな。ワシは主達の事を思って、助っ人を呼んだというに』
「どこがだよ! さっきの口ぶりじゃ、オレ達が撤退して体制を立て直すってこと気が付いてたんだろ? なのにソフィア達を連れ来られたら、それも出来んだろっ!?」
『なれば、撤退などせずに祖奴を倒せばよかろうよ』
「それが出来れば、やっとるわっ!!」
さっきも言ったが、努力と友情で勝利出来るのはマンガの中だけだ! それとも何か? 背水の陣を引いて、戦意と士気を鼓舞してるつもりか? オレ達が引けばソフィア達が死ぬぞってっ!
『少し落ち着け、主よ。ワシとて未熟なひよっこを死地へ引っ張り出すほど酔狂ではない。キッチリと勝ち筋は見えておるし、その為に必要じゃから呼んだまでじゃ』
「勝ち筋ぃぃ~、ホントにぃ?」
訝しげに眉を顰め、的確にクラゲの数を減らしながら胡散臭そうに尋ねる明那。
『本当じゃとも。ワシはオナゴに嘘をついた事がないのが自慢じゃ』
途端に胡散臭ささが増したぞ、オイッ。
『先ほど、眼鏡娘と避難しておる途中、姫さんと近衛の頭が言い争う場面に出くわしてのう』
「近衛の頭……? 近衛騎士団長かっ!?」
近衛騎士団長――
そう、エルラー公爵家の当主にして、ビクトール先輩の父親だ。
『うむ。まあ、言い争いと言うても、姫さんが騎士団の頭をなだめ、引き止めておっただけじゃがな』
「引き止めてって……?」
『あの者、息子の失態は自分の失態。家の当主として自らの手で息子の頸を刎ね飛ばさねば王に顔向け出来んと申して、ここへと戻ろうとしておってのう。それを部下と姫さんに止められておったのじゃ』
まあ、気持ちは分かる。
近衛騎士団長といえば、言わば軍部のトップ。そしてエルラー公爵家は、王の側近にして高位貴族の筆頭。
その公爵家の次期当主。ましてや、次期近衛騎士団長候補の最右翼だった奴が魔族墜ち。しかも、覚醒魔王墜ちだ。
ビクトール先輩対明那戦の後の話を聞く限りでも、責任感が高く高潔そうな人だったしな。そりゃあ、自分の手でケリをつけたいだろう。
『さりとて、近衛の最優先は王の護衛。故に、王の安全が確保出来ておらん状態での独断専行は許されん。王を守りながら城まで退避して欲しい。などと、姫さんに諭されておったのじゃ』
まっ、それも当然だな。
何より、軍部のトップが城でドンッと構えて居るのと居ないのとでは、前線の士気がまったく変わって来るし。
とはいえ――
「近衛騎士団長が単身で戻って来ても、覚醒魔王に対抗出来るとは思えんのだが……?」
いや、決して近衛騎士団長が弱いという訳ではない。むしろ剣技で言えば、国内でもトップクラスだろう。
しかし、騎士と覚醒魔王とでは相性が悪い。
再生能力の高い今のビクトール先輩を倒し切るには、その再生能力を上回るダメージを与え続けるしかない。
方法的には、高出力の魔法を集中させるのが一番有効だろう。
事実、過去二回の覚醒魔王戦では、宮廷魔導師を主軸にした魔導師軍団による集中砲火で倒しているそうだし。
じゃあ、それだけのダメージを、剣での戦いが主体の騎士が単体で出せるのかといえば不可能に近い。