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戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、シスコン陰陽師は今日も健気に妹溺愛中!!』編第一部 元暗殺者のシスコン陰陽師。勇者になって世界を救う!?
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第四十章 魔力と魔力④

「えっ? あっ……そ、そうでした。コチラへは、そのご報告に参ったのでした――」


 魔道科の、それも主席の生徒が、自分達の魔法理論を覆されるような話を聞いたのだ。

 別件など忘れてしまっていても仕方ないだろう。


 テーブルから手を放し、背筋を伸ばしていくサンディ先輩。ついでにオレの足からも、痛みもスーッと引いていく。


「コホンッ……例の件ですが、騎士武祭の組織委員会並びに、学園長の双方から許可がおりました」

「やった!」


 サンディ先輩が襟を正し、学生会会長らしく事務的な口調で報告をすると、隣り座る明那が小さなガッツポーズを見せる。


「なになに? 組織委員会とか学園長って、なに頼んでたの?」

「まあ、大した事じゃないよ――」


 興味津々に尋ねるエウルに対し、すっかりぬるくなってしまったコーヒーに口を着け、一拍おいてから軽い口調で答えるオレ。


「午後の決勝戦で、真剣の使用許可を貰っただけだ」

「「「…………………………」」」


 あっけらかんと話すオレの言葉に、場が凍り付いたような静寂に包まれる。


 ちなみに、刃物使用不許可の騎士武祭闘技場大会。

 しかし、試合をする両名が希望して、両名共に寸止めが出来るだけの技量があると組織委員会ならびに学園長が判断し、その双方が許可した場合にのみ、真剣の使用が認められるのだ。


 まあ、とはいえ、今まで真剣の使用を許可されたケースどころか、選手が希望をしたケースもないらしいし、そんなルールがあること自体を知らない生徒も多い。


「イヤイヤイヤイヤッ!? 全然、大した事でしょっ!?」


 そして、約10秒の静寂を切り裂くエウルの声を皮切りに、学食中が再びざわめき出した。


「確かに……真剣と模造刀じゃあ、緊張感やモチベーション(やる気)が大きく変わってくるね」

「い、いやっ、アキナちゃん!? そっちじゃなくてね! 真剣だよ? 一つ間違えば死んじゃうんだよっ!?」

「そうそう。戦争や盗賊なんかの討伐ならともかく、騎士武祭はその名の通りお祭りだよ? いわばお遊び。遊びに生命(いのち)かける事もないでしょ?」


 軽い口調で答えた明那の言葉に、エウルとファニは慌てて声を上げ、周りで聞いていた学園生達もその意見に大きく頷いていた。


「チッチッチッ……分かってないですねぇ、ファニさん。むかし、前田利家の(おい)っ子さんがこんな事を言ってましたよ。『遊びは、危険なほど楽しくはござらんか?』ってね」

「そうだぞ、ファニ。それにエウル、虎がなぜ強いのかと言えば、それは元から強いからなんだぞ」

「お兄ちゃん、今その格言は関係ないから」


 コレから一つ間違えば生命を落とすかもしてない真剣で試合をするというオレ達の、のほほんとした緊張感のなさに若干引き気味のファニ達。


 まあ、多少の実戦経験や真剣の使用経験があるとはいえ、そこはやはり学生だ。ましてや、その実戦経験もきっちりと安全の確保と確認を行った上でのこと。


 幼い頃から死と隣り合わせの実戦を経験してきたオレ達とでは、そこに温度差があっても仕方ないだろう。


「しかし、そう心配する必要はないと思いますよ」

「はい。お二人の技量を考えれば、寸止めをミスする事など考えにくいです」


 とここで、第四王女殿下の護衛も兼任する実戦経験が豊富で比較的オレ達と温度差の近いメイドさん達が、二人を諭すように会話へと入ってくる。


 とわいえ、温度差は近いけど、そこにはまだ決定的な溝があるようだ。


「いえ、寸止めなんてしませんよ」

「うん。致命的なスキを見せれば、遠慮なく殺しに行きますよ」

「「え゛っ!?」」


 素で返したオレ達の否定の言葉に、頬を引き攣らせ固まるメイド姉妹。


 まあ、真剣使用許可のルールには寸止めが出来るだけの技量とあるが、別に寸止めを強制するような記述はなかったしな。


「アハハッ。お兄ちゃん、明那に殺されるなら本望だな。まあ、そんなスキは見せないけど」

「エヘヘッ♪ 私はお兄ちゃんに殺されるなんて、まっぴらごめんだよ。そんなスキ見せるつもりもないし♪」


 キャッキャウフフとじゃれ合う仲良し兄妹に、ジト目を向けるエウルとファニ。


「私……この兄妹の仲が良いのか悪いのかが、まったく分からないんだけど……」

「うん。まったくの同意……」


 なんと失礼なっ。仲が良いに決まっているだろっ!

 そもそも真剣での斬り合いとは、夕焼けの河原で殴り合い、友情を深める行為の上位互換。


 そしてオレ達は、それを幼い時から何度も繰り返して来たのだぞ。


「はあぁ……てゆうか、ソフィア様からも何か言ってやって下さいよ」


 エウルは呆れ顔でため息をつくと、この話題になってから一言も口を挟む事なく、ニコニコと笑顔で沈黙を守っていたソフィアへと話を振った。


「そうですね……」


 唇へ人差し指を当てて、言葉を選ぶように考え込むソフィア。


 そして、後ろに控えていたアリアさんからポットを受け取り、空になっていたオレのカップへコーヒーを注ぎながら、

「わたくしはお二人を信頼しておりますし、そのお二人が致命的なスキは見せないと申されている以上、わたくしの口から申すような事は何もありませんわ」

 と、満面の笑みで言い切ってみせた。


 いや、ソフィアちゃん? 信頼されているのは嬉しいが、その盲目的な信頼ぶりはちょっと重すぎるよ……


「それに王家には、初代勇者様の言葉が残っています。『()婦女子(おんな)とは、殿方(おとこ)のしたいようにさせ、する事には口を出さず、代わりにそっと茶を出すものである』と」


 そう言ってニッコリと微笑みながら、オレの前にそっとコーヒーカップを差し出すソフィア。


 この国において絶大な支持と信仰を集める、初代勇者のお言葉である。

 その言葉に感心し、感嘆の声を上げる者はいても、異を唱えられる者は誰もいなかった。


 しかし、さすが日ノ本一(ヒノモトいち)強者(つわもの)である真田幸村。中々に亭主関白なセリフだな。

 まあ、ジェンダー平等が叫ばれている昨今(さっこん)では、いたる所からクレームが来そうなセリフだけど。


『うむ。確かにそのような事を申しておったのう』


 不意に、(かたわ)らから聴こえて来る、しわがれた日本語の声。


 ここまで全く口を挟まなかった村正であったが、さすがに幸村の話題とあって黙っていられなかったのだろう。


「アキナ様? 聖剣様はなんと申されているのですか?」

「確かに、初代の勇者はそんな事を言っていたってさ」

「まあ、王家に残るでは言い伝えは、やはり間違いなかったのですね」


 勇者の言葉が正しく伝わっていたと証明され、頬を(ほころ)ばれるソフィア。

 そして続きを(うなが)すよう、期待に輝かせた瞳を村正へと方へと向けた。


『あれは魔王を討伐した翌年じゃったか? 治世もどうにか落ち着き始めた頃、幸村は聖女を妻に(めと)り、王都(みやこ)に建てた屋敷に腰を落ち着かせたのじゃが――』


 昔を懐かしむように語る村正の話を聞き入るオレ達……と言っても、その言葉を理解出来るのはオレと明那くらいなもの。

 他の者達は、この聖剣の中身がただのエロジジイだとは知らず、

『聖剣様のお言葉に口を挟むなど恐れ多い』

 とばかりに、沈黙を守っていた。


 まったく……"知らない方が幸せな事もある"とは、よく言ったものである。


 そんな事を思いながら軽く肩を竦め、オレも村正のむかし話へ耳を傾けた。


『とある日の早朝。まだ夜も明け切らず朝靄の立ち籠める中、花町で一夜を明かした幸村は、聖女が目を覚ます前にこっそりと屋敷へ戻ろうと急ぎ足で家路についておった。じゃが、いざ屋敷に着き、玄関の戸をこっそり開くと、そこには目の下にクマを(こさ)えた聖女が仁王立ちで待っておってのう。そこで聖女から『何か言い残す事はあるか?』と問われ、幸村は『()婦女子(おんな)とは、殿方(おとこ)のしたいようにさせ、する事には口を出さず、代わりにそっと茶を出すものだぞ』と答えたのじゃ』

「「…………………………」」


 想像とあまりにもかけ離れたシチュエーションに、思わず言葉を失うオレと明那。


 まあ正直、ここまで聞けばオチは見えているけど、万が一の可能性があるかもしれない(ないとは思うが)。

 オレは一応最後まで聞いておこうと、続きを促すように村正へと問いかける。


『それで? その後、幸村はどうなったんだ?』

『うむ。その後、聖女から『世迷い言(よまいごと)はそれだけか?』と尋ねられ、恐る恐る頷いた刹那、ボコボコの半殺しにされ、裏庭の木へ一昼夜(いっちゅうや)逆さ吊りにされてもおったわ。いや~、懐かしのう』


 うむ、120%予想通りのオチだったわ。


『私の中にある真田幸村のイメージが……』


 そして、その予定調和とも言えるオチに両手で顔を覆い、泣き崩れる明那。

 ホント、"知らない方が幸せな事もある"とは、よく言ったものだわ。


 そんな、慟哭にも似た涙を流す明那の様子を見て、ソフィアは眉尻を下げ困り顔で首を傾げた。


「アキナ様……どうなされたのでしょうか?」

「ん? 初代勇者と聖女の仲睦まじいエピソードに感極まって涙が止まらないみたいだな」


 さすがに、初代勇者を(あが)(たてまつ)っているこの国の住人に対して真実を告げるワケにはいかず、オレはコーヒーを口にしながらテキトーな理由をでっち上げた。


 てゆうか、四百年に渡り王家に代々伝わっていた勇者の残した言葉というのが、単に浮気の言い訳として出たセリフだったとは……

 この、純真無垢な王女殿下が不憫すぎて、オレまで泣けてきそうだわ。


「なになに? どんな話だったの!?」

「そろそろ試合の準備を始めんとならんし、今度時間がある時に話してやるよ」


 てゆうか、その時までに初代勇者(ゆきむら)の名誉を守りつつ、誰もが納得する作り話(シチュエーション)を考えておかんとな。


 興味津々に身を乗り出すエウルと、同じく興味津々に聞き耳を立てる学園生達を煙に巻くよう、そそくさと席を立つオレと明那。


 そんな、オレの見えざる気苦労も知らず、不満げに頬を膨らませているエウル隣り。途中から会話に入る事なく静かに佇んでいたサンディ先輩が、控え室へと移動しようとするオレを遠慮気味に呼び止めた。

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