第七章 近衛騎士、突然の死。そして…… 03
ふとっ、波の音に混じって砂を踏む音。コチラへとやって来る二つの足音が聴こえてきた。
そして、仰向けに横たわるオレの頭上で止まる足音――
視線を上げて確認すると、そこに居たのは驚きから抜け切れずに呆然とオレを見下ろす姫さまとステラ。
ふむ……薄いピンク色に、白と水色のストライプか。
なかなかに良いチョイスだ。やはり良い行いをすると、ちゃんと良い事が返ってくるのだな。
「シ、シズトよ……ソナタ、何をしたのだ? 死者が蘇るなど聞いた事もないぞ……。も、もしや、ウワサで聞く反魂魔術というモノか……?」
絞り出すような声で問うピンク――じゃなくて姫さま。
「そ、そんな……反魂魔術は千年以上前に失われた魔術ですよ……。それに魔力が働いた形跡もありませんし……」
そして、そんな姫さまの問いを否定するストライプ――じゃなくてステラ。
さて、どう説明したものか……?
「死者が蘇ったワケでも反魂の術でもないのなら、死んでなかったって事だろ」
「い、いやしかし……呼吸も心臓も止まっておったのじゃぞ?」
まあ、これがこの世界での常識であり、普通の反応だろう。
「いいモノを拝ませてもらってるし、代わりにいい事を教えてやろう」
「いいモノ?」
「コホン……い、いや、それはコッチの話だ。気にするな」
首を傾げるステラのストライプから、隣のピンクへと視線を反らすオレ。
そのまま二人を見上げながら、オレは話を続けていく。
「人間は死んだから心臓が止まるのか、心臓が止まったから死ぬのか……どっちだと思う?」
「ん?」
「え、え~と……?」
オレの質問に、首を傾げる二人――
「どういう事じゃ? その二つに違いなどあるのか?」
「大ありだ――それと正解は後者。人は即死でもない限り、心臓が止まってから死んでいく。つまり、心臓や呼吸が止まっても、しばらく脳みそは生きてるんのだよ」
「えっ? えぇぇーーっ!?」
「なんとっ!? それは誠の事かっ!?」
「ああ、本当だ。って言っても、せいぜい五分程度だけどな。でも、その五分の間に心臓を外部からムリヤリにでも動かし、肺に空気を送ってやれば、息を吹き返させる事が出来る。まっ、100%じゃないけど」
「…………」
「な、なんと……」
言葉を失い、唖然とする二人。
かなり端折った説明だけど仕方ない。脳死や低酸素症のメカニズムなんて説明しても、多分理解出来ないだろうし。
「時に二人とも――」
呆然と立ち尽くす二人を仰向けで見上げるオレの視界に、三人目の人影が現れる。
ピンクとストライプの間に割って入る黒――って、黒だとっ?
ラーシュアの分際で生意気なっ! 幼女なら幼女らしく、キャラパンかかぼちゃパンツでも穿いて――
「ぐほっ!」
「幼女らしくのぉて、悪かったのぉ……」
仰向けになっているオレの顔をまたいで、その黒い逆三角形を見せ付けるように、胸をグリグリと踏み付けるラーシュア。
だから人の考えている事を読むなと、何度言えば分かる!?
「あらめて、時に二人とも。そのように丈の短い服で、そのような場所に立っておると、主から丸見えじゃぞ」
「丸見え……? なっ!?」
「えっ……きゃ!?」
慌ててスカートの裾を押さえ、後ずさるピンクとストライプ――
って、ラーシュアお前っ! なんて事を暴露してくれちゃってんのっ!?
オレも慌てて起き上がろうとするが、ラーシュアの幼女のモノとは思えない力強い踏み付けで、全く身動きが取れない。
「シ~ズ~ト~」
「シ~ズ~ト~さ~ん」
顔を赤く染めながら、鬼の様な形相でオレを睨み付ける二人……
て、てゆうかぁ、これってオレが悪いの?
「ふむ、主が悪い。こうゆう場合はガン見などせず、黙って視線を逸らすのが紳士の振る舞いじゃ」
いや、だからっ! 人の考え読むなと――
「ぐあぁっ!」
身動きの取れないオレの顔面に向け、ラーシュアの左右から二つの靴底が勢い良く降って来くる。
あれれぇ~、おかしいぞ~。
靴底に両目が塞がれているのに、なぜか大きな星が見えたぞ……ガクッ。




