第三十七章 必殺の四連撃?①
「先手必勝ぉーっ!!」
サンディ先輩の開始宣言と同時にエウルは地を蹴り、一気に間合いを詰めて仁王立ちの明那へと斬りかかった。
短刀の逆手二刀による素早い連撃――
目で追う事も困難な連撃に加え、その緩急と虚偽動作を巧みに駆使した斬撃に観戦する学園生たちは目を見張り、ザワザワとどよめき出す。
もし、一週間前までの彼女しか知らぬ者であれば、その急激な成長に驚きを隠す事は出来ないだろう。
それでも……
「おおっ!? 中々のスピードですね。ナルシー先輩と違って、基礎もそこそこは出来てますし」
その素早い連撃を顔色一つ変える事なく、明那は左手に持つクナイ一本だけで捌いてみせていた。
「斬撃の速さも重さも一週間前とは段違いに上がってます。もしかして、剣の振り方とかお兄ちゃんに直されました?」
「まあね。悔しいけどアキラの言う通りにしたら、自分でもビックリするくらい剣の威力が上がったわ」
「それは何よりです」
激しい斬撃の中、微かな笑みを浮かべながら言葉を交わしている二人。
とはいえ、お互い浮かべているのは微かな笑みでも、その意味合いは全く違っていた。
「(確かに……ビックリするくらい威力も速さも上がったけど、アキナちゃんには全然追いついてる気がしない。むしろ技量が上がった事で、よりアキナちゃんの強さが実感出来る気がするわ……)」
そう、同じ微かな笑みでも、明那の浮かべる余裕の笑みと違い、エウルの笑みは完全に苦笑いであった。
剣戟の威力は上がっているし、速さも先程の明羅によるマッサージ効果で更に速くなっている。
それでも明那は、自身が今現在出せる最速の二刀斬撃を、左手一本で軽く捌いているのだ。
「(その小さい身体で、わたし渾身の斬撃を軽々と捌いてくれちゃって、まあ……ホント自信なくすわ。それに、このままじゃあ――)」
最初の一撃から、ずっとトップスピードで剣を振り続けているエウル。
当然、その場を一歩も動かず斬撃を捌いているだけの明那に比べスタミナの消費は激しい。
息が上がり、額から流れる汗が視界を歪ませていく。
ここまでは、何とか剣速を落とす事なく短刀を振り続けて来たが、ただそれも限界に近い。
とにかく手数を増やし、何とか明那のガードを切り崩す作戦でいたエウル。
しかし、どれだけ剣を振ってもその道筋が全く見えて来ないし、虚偽動作に引っかかる気配もない。
その現実が、エウルの疲労に拍車をかけていた。
「(このままじゃあ、ジリ貧だ……ならっ!!)」
低い姿勢から両手を勢いよく振り上げ、下から上へと垂直に斬り上げるエウル。
なんの捻りのない直線的で狙いも甘い攻撃……
ここに来てそんな無意味な攻撃を繰り出すエウルに若干眉を顰めながら、明那は上体を軽く逸らして攻撃をやり過ごした。
空を切る二本の短刀……
しかし、エウルは空振りした剣の勢いを止める事なく振り抜き、その勢いを利用して大きく後ろへとジャンプ。そのまま、大きく間合いを開けるように二回のバク転を挟み地面へと着地した。
腰を落とし、低い姿勢で浅い呼気を繰り返し息を整えながら、鋭い眼光で悠然と立つ明那を見据えるエウル。
「(最速の剣でガードを崩せないなら――)」
浅い呼気の繰り返しから最後に大きく息を吸い込むと、エウルは勢い良く走り出した。
両腕を後ろへと引き、前傾姿勢での突進――
そう、エウルの必殺技とも言うべき、突進からの四連撃の構えである。
「最強の剣でガードを抉じ開けるっ!!」
気合い一閃!
四連撃の間合いに入った瞬殺、エウルは大地を蹴り悠然と立ちはだかる明那へと斬りかかった。




