第三十三章 美女達と決起会③
「そういえば、初めてアキラ様にお会いした時に、牛と馬の顔をしたオニというモノを見せて頂いたのですが――」
「アレも、やはりシキガミなのでしょうか?」
明那と同じように、寄って来た座敷わらしを抱き上げながら問うメイド姉妹。
「牛と馬? 牛頭鬼と馬頭鬼のことかな?」
首を傾げてコチラへ目を向ける明那に向けて、軽く頷くオレ。
「はい。その牛頭鬼と馬頭鬼って鬼も式神ですね。そもそも式神とは、式鬼や式鬼とも言って、本来は鬼神と呼ばれる鬼を使役して使うものですから。で、お兄ちゃんは、その鬼を百匹同時に呼び出し、それを完全に制御して戦える事から、百鬼使いなんて呼ばれていたんですよ」
「あ、あのような使い魔を百匹も……」
再び絶句するソフィア達。
ふむ、コレでオレが静刀よりも格下という疑惑は吹き飛んでしまったであろう。
「ちなみに、百の鬼を自在に操る"土御門の百鬼使い"。気付いた時には死んでいると言わしめる"一条橋の静かなる刀"。そして、超絶美形でグラマラスな"土御門の美少女舞姫"と言えば、その筋の人間で知らない人はいないっていうほど有名だったんですよ」
いや、ちょっと待て。
オレもその筋の人間だが、最後の一つは初めて聞いたぞ。
座敷わらしを膝に乗せながら、踏ん反り返るようにその薄い胸を張っている明那にジト目を――って、痛い痛い……
明那ちゃん? 人の足を踵でグリグリと踏むのは止めたまえ。
と、普段と変わらない調子のオレ達ではあるが、ソフィア達には少々衝撃的な内容だったのだろう。
話を聞いていた異世界組みの面々を包む空気が、かなり重たくなっていた。
しかし、そんな中――
「で、でも、アキナちゃんもやるねぇ。そのシズトくん……だっけ? アキラと同い年で同レベルの強さ。その上、この料理よりも美味しい物を作れるとか、めちゃくちゃ優良物件じゃない?」
と、天然ムードメーカーのエウルが、その重たい少しでも空気を軽くしようと思ったのだろう。軽い口調で明那へと話を振った。
「まあ、そうですね……でも、こっちの国に来ちゃったから、どのみち婚約は御破算なんですけどね」
「えっ? あっ、ご、ごめんなさい……」
エウルからすれば、場を和ませる軽口のつもりだったのだろう。
しかし、その発言が地雷だった気付き、エウルは少々気まずそうに頭を下げた。
先程とは別の意味で、空気が重たくなるエウル達。
いやいや、謝る事ないぞエウル。あんな奴との婚約が御破算になるなど、大いに結構な事なのだ。
それこそ、祝杯を上げていいレベルである。
「いえいえ、気にしないで下さい。親戚付き合いはありましたけど、それほど親しくは無かったですし、婚約も親同士が決めた事ですから。それに……」
「それに……?」
「い、いえ、何でもありません。とにかく、せっかくの決起会なんですから、そんな暗くならずにもっと騒ぎましょうよ! 胡蝶っ、みんなに飲み物のおかわり持って来て」
明那の注文に、ニコニコの笑顔で膝から降りるとキッチンへとテトテトと走り出す胡蝶と、その背中をやはりニコニコ笑顔で見守る明那。
しかし、先程のやり取りの途中――エウルが『それに?』と聞き返した時。オレは明那の表情が一瞬だけ曇ったのを見逃さなかった。
確かにコチラの世界に来て、静刀の奴と明那の婚約は完全に消滅しただろう。
しかし、実はオレ達がコチラへ来る少し前に、一条橋家から婚約解消の打診があったのだ。
理由は、当の静刀の奴が行方不明なのだという。
とはいえ、そんな話を鵜呑みにするほど、土御門家も馬鹿ではない。コチラで独自の調査をした結果、どうやら奴はすでに死亡しているらしい。
アイツも第一線で活動する執行人――いわゆる暗殺者だ。いつ死んでもおかしくはないし、普通なら一条橋家もそれを隠す事などしないはず。
しかし、それを堂々と公表せず行方不明などと言っているのには、当然なにかしらの裏があるはずなのだ。
土御門家、そしてオレの予想だと、一条橋家が奴の死を伏せた原因は恐らくお家騒動。
一条橋家の次期当主と決まっていった静刀を一族の誰かが――多分、姉の静姫さんが手に掛けたのだろう。
とゆうか、オレですらアイツを暗殺しようとすれば返り討ちに合う可能性が高い。あんな奴を暗殺出来る人など、それこそ静姫さんくらいのものだ。
正直、奴に対する好感などミジンコほどもないが、それでも血を分けた姉に殺されたという事には、さすがに少しだけ同情する。
「てゆうか、お兄ちゃんもっ! 難しい顔してないで、場を盛り上げる為に、とりあえず一発ギャグでもカマしてスベってよっ!」
「ちょっと待て、明那。なぜオレのギャグがスベること前提になっている?」
「だって、このメンツを相手に下ネタをカマしたら、スベるに決まってるし」
えっ? もしかして、オレには下ネタしか持ちネタがないとでも勘違いしているのか、我が妹は……?
まあ、とはいえ……
とっさに思いつく一発ギャグが下ネタしかないのも、紛れもない事実ではある。
それに、オレの究極奥義にして最大の得意技『服の上からワンタッチでブラホック外し』を披露しても、確かにどスベリしそうだ。
仕方ない。少し早いが、ここはクライマックス向けに用意していた隠し玉を披露するか。
「まっ、一発ギャグじゃないけど、場を盛り上げるっていうなら、そろそろ甘い物――デザート様のご登場といこうか?」
「デザートッ!?」
甘い物と言うワードで、一気に目を輝かせ始める女性陣。
女性は甘い物が好き! というのは万国共通なのだ。
「ねっ、ねっ、お兄ちゃんっ! デザートって何?」
「チーズケーキだ。しかも、ホールで二つある」
「お兄ちゃん、愛してるっ!!」
オレの首へと抱き付き、スリスリと頬を擦り寄せる明那。
ハッハッハッ! 兄妹のスキンシップの為なら、ケーキを二つ焼くくらい、どうという事はない。
「チーズケーキというがどういう物かはよく分からないけど、アキナちゃんの反応を見るに、これは期待出来そうね」
「はい。アキラ様達の国のケーキ、とても楽しみです」
先程までの重い空気から一転。場の空気が一気に明るくなる。さすがはデザートの王様。ケーキの力は偉大だ。
さて、途中で横道に逸れたけど、この様子なら決起会は大成功と言っていいだろう。
という訳で、明日の騎士武祭は、いっちょ気合い入れて行きますか。
まあ、オレの試合は決勝戦の一試合しかないけど。




