第七章 近衛騎士、突然の死。そして…… 01
「トレノさん、遅いですね……」
店の窓に張り付いて外を眺め、ぼやくように呟くステラ。
確かに遅い……
正直、三十分で帰って来られるとは思ってなかったけど、トレノっちが店を出てからすでに一時間以上が経過しているのだ。
「トレノのヤツ……よほどお仕置きされたいようじゃな」
不機嫌そうにスプーンを口に運ぶ姫さま。
ちなみにこの姫さま。待っている一時間であんみつをニ杯たいらげて、只今三杯目である。
「あっ!」
声を上げたステラの背中に、スプーンをくわえた姫さまとテーブル席でダベっていたオレとラーシュアの視線が集中する。
ふぅ~。
トレノっちのヤツ、ようやく戻ってき――
「すみません、違いました……」
来てないのかよっ!
「あれはミラさん……かな? なんか、慌てて走って来ますよ」
ミラさんが慌てて走って来る?
もしかしてだけど、それってオイラを誘いに来たんじゃないのっ!?
「どぶろっ――じゃなくて主よ。寝言と夢精は寝てからするものじゃぞ」
だから、お前は人の考えを読むなよ。てか、夢精などせんわっ!
「シズトさん、ムセイって何ですか?」
「ステラはそんな穢れた言葉、知らなくていいんだよ。キミは今のまま、真っ直ぐ清らかに育ってくれ」
オレは首を傾げるステラに、優しく語りかける。
「むぅ~~。この中では私が一番年上なんですよ」
可愛らしく頬を膨らませるステラ。
確かに実年齢はオレより上かもしれんが、見た目はどう見ても女子中学生にしか見えん。
それに実際のところ、一番の年上は――
「シズトっち、姫さまっ! 大変だぁーっ!!」
そんなバカ話をしていると店の扉が乱暴に開かれ、ミラさんが駆け込んで来た。
「どうしたんですか、ミラさん? そんなに胸を揺らして?」
「それを言うなら、息を切らしてです――と、いま水を汲んで来ますね」
きっちりとオレのボケにツッコミを入れてから、厨房へと向かうステラ。
しかし……
「水はいいっ! そんなことより、大変なんだ! 姫さまのお付きの騎士さんが――」
「トレノのヤツがどうかしたのか?」
ミラさんの剣幕に、姫さまの表情が引き締まる。
そしてミラさんも真剣な表情で息を飲み、一拍置いてから言葉を繋げた。
「白浜の海岸に打ち上げられ、倒れていた……」
――!?
その言葉を聞いた瞬間に、オレとラーシュアは立ち上がり走り出していた。
白浜の海岸なら、ここから一分とかからない。
足の速さには結構自信があるが、それにピタリと着いてくるラーシュアとミラさん。少し遅れてステラと姫さまも着いきているようだ。
「どうやら賊に襲われて、気絶したところを海に捨てられたらしい」
斜め後ろを走るミラさんの状況の説明――
くそっ! 金を取りに行くのなんて、止めるべきだった。
ここは日本じゃない。治安が良いと言ったって、あくまでこの世界レベルでの話。ましてや、今は隣国の敗残兵が街に潜伏しているのだ。
いくら騎士とはいえ、こんな夜中に女性を一人歩きさせるなんて……
街並みを抜け、視界が開けると海が見えてくる。そのまま砂浜の方へ向うと、複数の松明が見えた。
あそこかっ!
松明を手にした街の人達。
その間をすり抜け前に出ると、横たわるトレノっちの姿が、そしてその首筋へと手を当てて脈を取るプレオさんの姿あった。
ぐったりと倒れるトレノっちの姿を、呆然と見下ろすオレ……
松明に照らされたその顔は生気を失い、唇も紫色に変色している。
「どうなのじゃっ!?」
遅れてやって来た姫さまが、オレの隣からプレオさんに尋ねる。
しかし、その問いにプレオさんはゆっくりと顔を上げ、沈痛な面持ちで首を横に振った……
死んだ……? トレノっちが……
その事実に愕然とするオレ。
確かにまだ知り合ったばかりだし、それほど親しくなったわけでもない。
それどころか、オレの嫌いな為政者に仕える騎士で、憎まれ口ばかり叩かれていた。
それでも、オレの料理を無邪気にガッ付きながら美味そうに食べていた姿は、見ていて嬉しかったし、少しずつ好感も覚えていた。
それが、こんな突然に……




