第二十七章 命の選別③
それだけじゃあダメ――
そう、それだけではダメなのだ。
治癒魔法――魔力をもって怪我を癒やし、体力を回復させる魔法。
しかし、RPGゲームなどと違い、HP1をHP全快させるなどという便利なモノではない。
この魔法は、魔力で身体にかかる負担を補いつつ、自然治癒力を急激に高めているだけなのだ。
逆に言えば、どんな優れた治癒術師であっても、自然治癒力で治らないモノは治せないのだ。
例えば、切断された手足。
壊死などを起こしておらず、切断された部位の状態が良ければ治癒魔法で結合させる事も出来る。
しかし、結合させる事は出来ても、欠損した部位を魔法で再生させる事は出来ない。
そして、この女の子の場合。
ソフィアの治癒魔法で裂傷や内臓の損傷、骨折は治す事が出来る。
ただ、この子が危険な状態となっている一番の原因は、いわゆる出血性ショック。大量の出血により、血圧が急激に低下しているのが原因なのだ。
そう、治癒魔法で傷口を塞ぎ、出血を止めても、すでに失われた血液は再生されないのである……
歯がゆさから、腕を回したオレの腰を痛いくらい締め付ける明那。
目の前で友人が困っているのに、見ていることしか出来ない歯がゆさ。そして、それを打開する手段を持っているのに、手を差し伸べられない歯がゆさ……
オレ達が走らせている馬は、学園で飼育されている普通の馬。競走馬でもなければ、血統書付きの名馬でもない。
それどころか、一応は軍用馬であるが、現役を引退して軍から払い下げられた老馬である。
サラブレッドの最高時速は、人を乗せた状態でも60キロ~70キロと言われているが、この馬の最高時速は50キロ弱。
しかも、その速度は段々と落ちて来ており、すでに時速40キロを大きく下回っているだろう。
腕に力を込める明那と同様に、歯がゆさから手綱を持つ手を強く握りしめるオレ。
ちっ! このペースじゃあ間に合わないか……
出来れば、体力も霊力も万全の状態で辿り着きたかったけど……仕方ない。
「明那っ! 手を腰じゃなくて首の方に回して、おぶさる様にしがみつけっ!」
「えっ……?」
オレの指示に、明那はキョトンと首を傾げる。
しかし、オレが懐から呪符――式札を取り出すと、すぐにオレの考えを察して、一気に顔をほころばせた。
「うんっ!!」
腕を首に、そして足を腰に回して、木にしがみつくコアラの如く、がっしりと身体を固定させる明那。
出来れば"だいちゅきホールド"は、正面からして欲しいものである。
そんな事を考えながら、オレは手にした式札へ霊力を通していく。
「天の四方の宿星。西方を護りし、白き神獣。邪を寄せ付けず、災いを払い。善を尊び、悪を蔑む戦いの神、白虎よ。我が呼び声に応えその姿を顕現させよっ! 急々如律令っ!!」
式札を放つと同時に、周囲が白い発光に包まれる。
そして、その眩い発光の中。青白く輝く、大きな白い虎――白虎が姿を現した。
オレ達の馬と並走するように走る白い虎。
天を護る四神にして聖獣でもある白虎をタクシー代わりにするのは、不遜も甚だしく気が引けるが、非常時と言うことで勘弁してもらおう。
明那を背中に背負ったまま馬の背中に両足を着いてオレは勢いよく飛びあがり、白虎の背中へと飛び移った。
鐙もなければ手綱もない白虎の背中。
しかし式神として、繋がっているオレの意思通りに、白虎は一気に速度を上げて走り出した。
「アキナオ―、大丈夫かな……?」
後ろへ振り返り、取り残された馬へ心配そうな目を向ける明那。
まあ、後続のエウルが何とかしてくれるだろう。
そんな事よりも今は、ソフィア達の事が最優先だ。
オレは再び左目を閉じ、ツバメの式神から送られてくるソフィア達の様子に意識を向け始めたのだった。




