第二十四章 八艘飛びと幽幻輪舞①
アジト内の数カ所で爆発が起き、天幕へと炎が燃え移り出すのを確認すると、垂直の崖を勢い良く駆け下り始めるオレと明那。
そして、先行するオレが呪符をバラ撒くと、明那がその札に目掛けてクナイを放っていく。
和紙で出来た呪符をクナイが貫通すると同時に、その短い刀身が炎を纏う剣へと変わり、アジトへ降り注いで行いった。
「おらぁっ! 勇者と聖女様のお通りだーっ! 膝を着いて土下座しろぉーっ!!」
「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁぁぁぁ~!!」
地面に突き刺さると同時に爆発し、炎を周囲に撒き散らしていく炎の剣。
突然の爆発と激しい火の手に慌てふためき、逃げ惑う盗賊達へ、オレは崖を駆け下りながら口元を緩ませた。
いい感じに混乱してるし、奇襲は大成功といった所だな。
「じゃあ、明那っ! オレは攫われた女の人達の保護に行くから、あとは頼むなっ!」
「了解ぃ!」
「それと、あとで情報を聞き出すから、誰か一人は残しておけよ。出来れば偉そうな奴」
「はいはい。分かった分かった♪」
早く戦いたくてウズウズしているのだろう。コチラに目を向ける事もなく、楽しげな笑みを浮かべながら軽い返事を返す明那。
ホントに分かってんのか、コイツ……?
『間違って全部殺しちゃった、ヘテッ♪』
とか言い出しそうな明那に一抹の不安を覚えながら、オレは岩肌を強く蹴り、着地の体勢に入る。
が、しかし……
その落下地点には数人の盗賊達が槍を構えて待ち受けていた。
さて、どうするか……?
正直、返り討ちにするのは簡単だけど、あとで明那に獲物を横取りしたとかなんとか文句言われるのも何だしな……
「しゃーない。ここは源義経繋がりで、八艘飛びと洒落込みますか」
落下に合わせて突き出された槍。
オレは空中で体勢を整えつつ、その槍の穂先へと着地する。
「なっ!?」
そして、驚きに目を見開く盗賊を尻目に、オレはそこから大きくジャンプして再び空中へと舞い上がった。
ちなみに八艘飛びとは、壇ノ浦の戦いで源義経が能登守教経(平教経)から逃げる際、薙刀を抱え鎧を着けたまま6メートル先にある味方の船へと飛び移るたのが始まりである。
それが、物語りとして伝わる内に、味方の船までのあいだにある八艘の船を次々に飛び移って行ったと話しが盛られ、八艘飛びと呼ばれるようになったのだ。
着地を狙って仕留めようとする盗賊達の突き出す槍を次々に飛び移り、女性達の囚われている荷車へと移動して行くオレ。
「よっ、ほっ、おっと――」
『ホッホッホッ。正に八艘飛びならぬ、八槍飛びじゃな』
上手い事を言ったつもりなのか、ご満悦に笑う村正。
しかし、残念ながら八槍には届かず、オレは六槍ほどで目的地へと到着してしまった。
見張り役は一人か……
鉄格子で出来た、牢屋みたいな三台の大きな荷車の前。怯えた表情で槍を構えていたのは、茶髪でチャラチャラした感じの男。
腰も入ってないし、槍を持つ手も震えている。あまり盗賊経験は長くなさそうだ。
オレはチャラ男を正面に見据えながら、ゆっくりと歩み寄って行く。
滝のような冷や汗を流し、顔を青ざめさせるチャラ男。
そして、オレが無防備に槍の間合いへ入って行くと、チャラ男はなけなしの勇気を振り絞り、槍を突き出して来た。
パワーもスピードもない、小学生レベルの刺突……
しかし、そこに込められた殺気だけは本物だ。オレを殺すつもりで、槍の穂先を突き出して来たのは間違いない。
――なら、殺されても文句は言えないよな?
オレは向かって来る槍を右へスッと動いて躱し、左手で槍の柄を掴んだ。
とは言え、オレが殺す訳にはいかないわけで――
オレはそのまま左回りに後ろへと向き直り、掴んだ槍を使い一本背負いの要領でチャラ男を大きく投げ飛ばした。
「そらっ、明那っ! パスだっ!!」
約50メートル先。
コチラに背を向け、両手に逆手持ちしたクナイと霊力で作り出した二本の鎖を操りながら、盗賊団相手に大立ち回りを演じている明那。
そんな明那の元へ、チャラ男は悲鳴を上げながら緩やかな弧を描いて飛んで行った。
辺り一面に爆発音や怒号が響いてはいるが、オレと同じ訓練を受けた明那の聴力ならオレの声はちゃんと届いているはずだ。
その証拠に明那は、盗賊達に取り囲まれながらもクナイを持つ手を大きく広げその場でクルリと一回転。巫女服の大きな袖をはためかせながら、的確に男達の喉元を切り裂くと身体を後ろへ反らすようにして大きく飛び上がる。
「石崎くん、ナイスセンターリングッ!」
そして、そのままバク転するように、明那は飛来するチャラ男の後頭部へ豪快なオーバーヘッドキックを叩き込んだ。
真下へと軌道を変え、地中へ深々と突き刺さるチャラ男の身体……
てゆうか、誰が石崎くんやねんっ。そこはせめて岬くんと言ってくれてよ、翼くん。
心の中でそんなツッコミを入れるオレの視線の先。
明那が静かに地面へ着地すると同時に、その華麗なゴールを祝杯するかの如く、取り囲んでいた男達の首から真っ赤な鮮血が花火のように噴き出した。
戦いから約一年ほど遠ざかっていたブランクが心配だったけど、どうやら杞憂だったようだ。
楽しそうな顔を浮かべ、再び盗賊達へと斬りかかる明那の姿に安心し、オレはクルリと踵を返して荷車の方へと向き直る。
鉄格子の中で怯える女性達。
泥と煤で顔も服も汚れてはいるが、大きな怪我をしている人はいないようだ。
まあ、盗賊団にとっては彼女達は、自分達が愉しむ為の玩具であり、あとで売り飛ばす為の商品である。
無為に傷つけたりはしないだろう。
どちらかと言えば、身体の傷より心の傷の方が心配なくらいだ。
「助けに来た。もう安心だ」
不安と恐怖に怯える女性達に向けて、オレは努めて優しい口調で話し掛ける。
とは言え、突然現れた暗い藍色一色の服を着た見知らぬ男――しかも十代後半の小僧に安心だと言われても、そう簡単に不安は拭いされないだろう。




