第十八章 急展開①
目的地までは、騎馬と馬車での大移動。
作戦参加者組み百人のうち、八十人が十台の馬車へと分乗。残りの二十人は騎兵として直接馬に跨り、周辺警戒と護衛を兼ねて馬車の周囲を囲むように進軍している。
実戦訓練も兼ねている為、装飾品など皆無の機能性重視な馬車の列。
オレ達ゲスト組は、その列の最後尾を王室御用達の豪華な馬車で追従していた。
目的地まであと二里(約八キロ)ほど。一時間も掛からずに到着するだろう。
早朝に出発して、只今の時間は午後の1時を少し回ったところ。途中で二度の小休止を挟みつつ進軍したオレ達は、先ほど昼食を兼ねた大休止を終えたところである。
実戦訓練も兼ね野戦糧食で食事をする作戦参加者達。
そんな奴らを横目に、王室御用達の豪華なお弁当を食べるのは中々に優越感があったが……
彼らはこのあと、目的地到着と共に即戦闘を開始するのだという。
正直、実戦経験の乏しい学園生達に、この強行軍は厳しすぎるのではないか?
まあ、オレがそんな進言をした所で、あのビクトール先輩が聞く耳を持つ訳がないけど……
そんな訳で、オレと明那は作戦参加者組の負担を少しでも軽くできるよう、ただいま敵陣の偵察中なのである。
が、しかし……
「え、え~と……ファニート様? アキラ様達は何をしているのでしょうか……?」
詰めれば片側四人は座れる広めの馬車。御者席にはメイド姉妹が着き、片方の座席へオレを挟み明那とソフィアが座り、向かいの席へファニとエウルが腰掛けている。
そして少し前から、何かに集中するよう無言で目を閉じ、微動だにしなくなったオレ達を見て、ソフィアが正面のファニへと小声で問い掛けた。
「ああっ。多分、現地の偵察中ですよ」
「偵察……ですか?」
「ええ。ソフィア殿下は、シキガミという物をご存知ですか?」
ソフィアの問いに、丁寧な対応で答えていくファニ。
この辺はいくら領地が辺境とはいえ、さすが生まれながらの貴族である。
「ええ、存じておりますわ。以前アキナ様に、可愛い仔猫のシキガミを見せて頂いた事が有りますので」
「左様ですか。アキラは――いや、多分アキナちゃんも、そのシキガミが目にした物を見ること出来るのですよ」
「まあっ!?」
「先程の大休止の時に、二人ともツバメのシキガミを飛ばしていましたからね。それで、敵陣の様子を偵察しているのでしょう」
「シキガミとは、なんと便利なのでしょう。それがあれば、斥候任務などで兵を危険な目に会わせなくてもよくなりますわ。とは言え……」
声を弾ませ、嬉しそうに驚いていたソフィア。
しかし、オレ達の様子にその語尾が段々と弱まっていく……
「やはり、すごい魔術だけあり、疲労も大きいのでしょうか……?」
「えっ?」
ソフィアの言葉に、エウルが少し驚いた声を上げた。
「そんな事はないんじゃ……」
「でも、アキラ様もアキナ様も、とてもお辛そうなお顔をしておりますし……」
「ホントだ……なんで?」
俯き気味に眉を顰めるオレ達の顔を覗き込み、エウルとファニは不思議そうに首を傾げた。
コレを見るのが初めてではない、エウルとファニ。
前回は、腕組み足組みで鼻歌混じりに式神を操っていたオレの姿を見ている分、この状況に戸惑いを隠せないのだろう。
確かに、遠く離れた式神を操り、見た物を確認するなど日本でならかなり消耗も激しい。
しかしコチラの世界でなら、この程度の事は殆ど霊力を消耗せずに行えるのだ。
では、なぜオレ達は、揃って眉を顰めているのか?
それは――
「「ちっ……」」
二人同時に揃って舌打ちをするオレと明那。
そして、一つため息をついてからカーテンを明けて窓を開いた。
「ねえ、そこのキミ?」
「は、はいっ!」
オレは、馬に乗って並走していた名も知らぬ男子生徒を呼び止める。
「悪いけど、ビクトール先輩に進軍を止めるように言って来て貰えるかな?」
「えっ? いや、しかし……」
オレの注文に、言葉を詰まらせる男子生徒。
なるほど……大方、ビクトール先輩に何か言い含められているのだろう。
オレがどうしたものかと考えていると、その後ろからソフィアが身を乗り出し、顔を覗かせて来た。
「わたくしからも、お願いします。それとビクトール様にはアキラ様だけでなく、わたくしにも同じ事を言われたと伝えて下さい」
「は、はいっ! かしこまりましたっ!」
敬礼をし、馬の腹を蹴って一気に前方へと加速していく男子生徒。
さすが第四王女殿下。言葉の重みが違うわ。
「悪いな、ソフィア」
「いえ、お気になさらずに」
ニッコリと微笑むソフィア。
しかし、理由も聞かずに協力してくれるとは……いくらオレが勇者とはいえ、ちょっと信用し過ぎではないか?
将来、変な男に引っかからなければ良いが……
第四王女殿下の将来に一抹の不安を覚えながら、窓から身を乗り出し前方を確認するオレ。
程なくして、前方から順に停車していく馬車。
そして、オレの乗る馬車が完全に停止すると同時に、オレは扉を開けて外へと降り立った。
いくら王室御用達で、他の馬車より多少は乗り心地が良いとはいえ所詮は中世の馬車。サスペンションやゴム製の車輪が着いている訳ではないので、長時間乗っていると腰が痛くなってくる。
オレが腰に手を充て、グイっと上体を反らしていると、聞き覚えのあるイケメンボイスの怒声が耳を劈いた。
「どういうつもりだ、ツチミガドッ!? 貴様らは見学として着いて来ているだけだっ! 進軍を止める権利など、貴様にはないと知れっ!!」
眉を吊り上げ喚き散らす先輩の言葉をスルーして、その怒りを孕んだ目をオレは正面から見据え返した。
「先輩? 最後に斥候を出したのは、いつだ?」
「なに?」
「盗賊団のアジトを偵察して、その状況を最後に確認したのはいつかと聞いているんだよ」
「ふんっ、何を言い出すかと思えば――」
先輩は、オレの問いに浅いため息をつくと、ウザい前髪を払いドヤ顔で胸を張り、とんでもない事を宣いやがった。
「アジトを発見したのは、優秀な僕が目をかけている者達だよ。偵察などその一度で十分さっ」
先輩の言葉に明那は頭を抱え、大きなため息をつく。
気持ちは分かるし、正直オレも頭を抱えたい……
ただ、状況はひっ迫しているし、そんな事をしている時間すらも惜しい。
「いま確認したが、確かにこの先には盗賊団らしき者達のアジトがあった――」
オレは式神を使って確認した内容を、このマヌケな先輩へと単刀直入に伝えていく。
「当然だ。優秀な僕の部下が見つけて来たのだからね」
「ただ、そこにいる盗賊の数は――ざっと見でも150を超えている」
「――!?」
驚愕に目を見開くビクトール先輩。
そしてその驚きは、オレ達の話を聞いていた生徒達へと広がっていった。
盗賊150人。それは、敵の5倍以上の数を用意したはずであるコチラの1.5倍。
それだけでも充分、驚愕に値する情報ではある。
しかし、オレと明那が確認した驚愕の情報は、それで終わりではないのだ。
「それと、アジトの少し手前――って、だれか地図持ってないか?」
「コチラをお使い下さい」
「それと、コチラもどうぞ」
オレの注文に、さっとアジトの周辺地図を差し出すアリアさん。更にはリリアさんが、それを広げるための小さなテーブルを即座に用意する。
さすが、第四王女付きのメイドさん。仕事が速いわ。
「ありがとうございます――」
オレは二人に礼を言って、テーブルの上へと地図を広げた。




