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戦乱の異世界で、◯◯◯は今日も△気に□□□中!!  作者: 宇都宮かずし
『戦乱の異世界で、和食屋『桜花亭』は今日も元気に営業中!!』編第一部 異世界の和食屋さん
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第五章 懐石料理 04

 そして、料理もそろそろ終盤。八品目のご飯に選んだのは、うな丼と肝吸い、そしてキュウリの浅漬け。


 まあ、懐石の終盤なので、小さめのドンブリではあるが、ご飯の上に蒲焼きを乗せ、更にその上からご飯を盛って、もう一枚蒲焼きを乗せる二段うな丼だ。


「えも言われぬ、よい香りじゃなぁ」

「はい、あれだけ食べたのに、まだ食欲がそそられます……」


 ドンブリの蓋を開けた瞬間、その蒲焼きの芳ばしい香りにうっとりとする二人。


 ヤベェ、オレまで腹が減ってきた……


 いや、その香りにはオレだけでなくステラとラーシュア。そして野次馬達の目付きも、飢えた狼みたいな目になっている。

 『うなぎは香りを食わせろ』とはよく言ったものだ。


 二人はうなぎを一口食べると、またまた目を見開いて顔を見合わせる。

 そして、まるで部活帰りの飢えた男子高校生が牛丼にがっつくような勢いで、うな丼をかっ込んでいく二人。


 てか、ホントにこいつら、王女と高位貴族の娘なのか……?


 そんな事を思いながら、最後の料理の水菓子を丁寧に盛り付けていく。

 水菓子とは、砂糖が貴重だった時代の果物の事。


 まあ、今では水分の多いゼリーや羊羹を指したり、懐石の場合にはデザート全般に使われている言葉だ。


 てゆうかこの分だと、コレもすぐに食べ終わりそうだな……


「ラーシュア――」

「ん?」


 フロアにいたラーシュアにアイコンタクト。

 オレの思考を理解したラーシュアは、軽く頷くと厨房を抜け母屋へと向かった。


 ちなみに平屋の店舗の右隣。レンガ造りで二階建ての家が母屋――ステラの持ち家で、俺達が居候している家だ。


「では、コチラお下げしますね」

「うむっ」


 と、やはりアッという間にうな丼を平らげ、満足顔の姫さま達――とりあえず、頬と口元のご飯粒を何とかしようか……


 苦笑いを浮かべながら、ステラから空になったドンブリを受け取るオレ。


「じゃあ、ステラ。コレお願い」

「はいっ」


 代わりに、笑顔でデザートが乗ったお盆を受け取るステラ。


「コチラが最後のお料理。デザートの白玉と季節のフルーツあんみつになります」

「おおぉっ! これまでにも増して、なんと美しい」

「た、確かに綺麗な盛り付けですね……それに果実の香りが、とても上品です」


 ステラの差し出したあんみつに、目を輝かせる姫さま達。


 透明なガラスの器に盛られたあんみつ。

 白桃と巨峰の甘い香りが漂い、白い白玉と黒いあんと黒蜜にキウイの緑がアクセントを添えている。

 更に、作りたての柔らかで弾力のある白玉の食感と、海洋汚染などとは縁のない海で育ったキメの細かい天草から作った寒天の滑らかな食感という二つの食感――


 ふふっ……舌以外にも目や鼻、そして食感までもを楽しませるのが和食の真髄だ。


「おおぉぉ~! おおぉ~! なんとふくよかで上品な甘さじゃ」

「この甘さは何でしょう……? ハチミツとも違うし、砂糖のようなもクセない……」


 トレノっちの疑問に「いや、それは砂糖だ」と言ってやりたいのをグッとこらえつつ、得意気な笑みを浮かべるオレ。


 そう、和菓子の甘みは基本的に砂糖である。しかし、ただの砂糖ではない。


 コチラで一般に流通している砂糖は、砂糖の結晶と母液の糖蜜を分離、精製していない含蜜糖で、黒砂糖に近いものだ。


 しかし、これは風味が強過ぎる上に甘みやクセも強烈で、あまり料理には――特に素材の味を生かす和食には向いていない。

 なのでウチの店では、その含蜜糖を研いで、黒い糖蜜を抜いたモノを料理に使っている。


 更にデザート用の砂糖は、その研ぐ作業を三回以上繰り返しているモノを使用。これでクセもなくなり、まろやかな甘みとなるのだ。


 ちなみにこれは、和三盆(わさんぼん)と呼ばれる和菓子に最適と言われている砂糖の精製法である。


 まあ当然、本職の職人さんが作った和三盆には遠く及ばないけど……


 ととっ――

 やっぱり、あっという間に食い終わりそうだ。懐石料理はこれで終わりだけど実はもう一手、ダメ押しに用意しているモノがある。


 オレはお湯を沸かしていた鉄瓶を持ってフロアに出ると、姫さまの後ろへと畳二畳ほどの敷物を敷いていく。


「おっ? おおぉぉっ!」

「な、なんと愛らしい……」


 来たか――


 敷物を敷き終えて顔を上げると、和ゴスから和服――振り袖の着物に着替えたラーシュアが、木製の箱を持って戻ってきた。

 季節に合わせて、黒地にモミジ模様をあしらった振り袖。


 うむっ、着物は貧乳によく似合うとは、よく言ったものだ。


「主よ……茶箱をぶつけられたいか?」

「ごめんなさい」


 手にしていた木箱を振り上げるラーシュアに、敷物の上で土下座をするオレ。

 てゆうか、ホントに人の考えを読むのやめてくれ……


 ちなみにラーシュアが口にした茶箱とは、茶道の手前道具一式を収納して持ち運ぶ道具で、野外などで茶を点てる時に使う、いわゆる野点セットの事だ。


 ふんっ、と鼻を鳴らしながら土下座するオレの隣に座り、手際よくお茶を点てる用意を始めるラーシュア。

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