第九章 カモナマイハウス②
とはいえ、家まではまだ少し時間がかかるので、もう少し現状を整理しておこう。
そもそも、なぜ聖女の明那と神託の巫女のソフィアがウチの学園に留学して来たのか?
聖女――聖なる乙女。
ちょっと、明那のキャラとはかけ離れている気もするが……
まあ、オレの勇者ほどは、かけ離れてはいないだろう。
まず、普通のシスターと聖女の違いとは何かだが?
シスターとは、教会の教えを広め、その信仰をもって神の奇跡――いわゆる治癒魔法を使う者達である。
対して聖女とは、その治癒魔法を修めながらも、騎士と同格に戦える存在――つまり、文武の両方を兼ね備えた存在なのだそうだ。
そして聖女となった者は、その能力を国民へと知らしめる必要がある。
正直、薬師如来真言を初め、コチラの世界の治癒魔法と同じ効果の術は、陰陽の術にも多数存在する。
更にオレも明那もその術を、マナの枯渇していた日本で使いこなしていたのだ。
当然、その術をコチラの世界で使えば、教会の治癒魔法などよりも大きな効果が得られるだろう。
明那は、その能力をもって、エリ女でも上位の治癒術師と認められたのだ。
あとは、騎士と同格に戦える力がある事を知らしめる必要があるのだが……まあこれは、お嬢様学院でもある教会付属の学校で証明など出来るものではない。
そんな訳で騎士としてのお勉強も兼ね、ウチの学園に留学して来たという訳だ。
ちなみに、ソフィアの方はその随伴。
オレの聖剣の儀に立ち会ったソフィアは、一応オレの後見人にもなっているし、勇者と聖女の神託を下した巫女でもある。
教会側、王室側、そして騎士学園側からも適任であると推挙され、明那と一緒に留学をして来たのだ。
ただ、王室側だけは、それとは別の思惑もあるようなのだが、その件に関してははぐらかされて聞き出す事はできなかった。
「ねぇ、お兄ちゃん。もしかして、あそこの家?」
前を歩いていた明那が、50メートルほど先にある家を指差しながら振り返えった。
「ああ、そうだ――って、おい」
確信があったのだろう。明那はオレの返事を聞き終える事なく走り出したすと、広めの庭に建つ二階建ての白い家の前で立ち止まった。
そして、セルコホームに近い外観の家を見上げながら、低い声で囁くように呟く明那。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
「なんだ?」
「郊外に35年ローンで建て売りの家を買って、毎朝始発で会社に向かい、社畜と罵られながらも深夜まで働いて、コンビニ弁当を片手に子供も奥さんも既に寝しまっている家へと帰る日本のお父さん達に謝って」
「社畜のパパさん、ごめんなさい」
明那に言われた通り、全国の社畜パパさんに謝罪するオレ。
てゆうか、随分とリアルな例えだな。
「てゆうか、何この家っ! 借りてるんじゃなくて買ったんだよね? 勇者って、そんなに儲かるのっ!? まさか、あくどい事して稼いだお金じゃないでしょうねっ!? ソフィアちゃんに顔向け出来ないような事はしないでよっ!!」
眉を吊り上げて詰め寄り、一気にまくし立てる明那。
確かに、日本の建て売り住宅に比べれば、庭も建物も倍近くはあるだろう。
「まあ、真っ当な金……とは言い難いが、堅気の人に迷惑かけるような事はしてないし、むしろ社会貢献の結果だ」
「本当でしょうね……?」
オレは疑いの眼差しを向ける明那の両肩に手を置いて、その瞳を見つめながら微笑みかける。
「当たり前だろ、明那。オレがお前にウソを言った事があるか?」
「うん、ある。とゆうか、元とはいえ裏社会の人間だった人の言う事を、簡単に信じるほど私も馬鹿じゃない」
うむ、もっともな意見だ。
まあ、元裏社会の人間というは、お互い様だけどな。
「って、馬鹿なこと言ってないで、行くぞ」
「う、うん……」
門扉が開きっぱなしだった門を抜け、庭へと足を踏み入れるオレの後ろを、明那はキョロキョロと辺りを見回しながら付いて来る。
しかし、庭の真ん中辺りまで来て、ピタリと足を止める明那。
そして、門柱の上にいた雀をジッと睨んだかと思えば、家の角からコチラを伺っていた白い仔猫へと目を移して、口元に笑みを浮かべていた。
「お~い、何やってんだ?」
鍵の掛かっていない家の扉を開けながら、明那へと振り返るオレ。
「ふ~ん……随分と厳重な警戒だね」
「まあな」
嫌味っぽい口調――
そう、あくまでも『ぽい』口調だ。
確かに、門扉や玄関の鍵が開きっぱなしではあったけど、明那のその言葉は決して嫌味ではない。
「あの雀と仔猫って、朱雀と白虎でしょ? なら家の東側には蛇に擬態した青龍。家の後ろには亀に擬態した玄武でもいるのかな?」
「…………」
明那の名推理に、オレは苦笑いで肩を竦めた。
ちなみに朱雀や白虎とは、四神とよばれる天の四方を護る聖獣である
「人避けの結界と併せた四神の結界。そして、玄関を開けたら、お不動様の火炎陣。更に家の中からは、亡者の気配がウヨウヨと……もしかして、アルセーヌ・ルパンの三代目から予告状でも届いたの?」
冗談めかして笑いながら、玄関先に立つオレの元へとやってる明那。
『ホッホッホッ。主のこれみよがしな罠ばかりか、ワシの張った亡者の気配まで察するとはのう。さすが主の妹御じゃわい』
「にひひひひ~♪」
腰に挿していた村正の楽しげな声に、明那が無邪気な笑みを見せる。
そう、一見すると防犯設備がガバガバに見えるが、実のところこの家は罠だらけ。
これだけの罠、仮にアルセーヌ・ルパンの三代目だろうとも突破する事は出来ないだろう。
ちなみに、間違って入って来た一般人が罠に掛からないよう、朱雀と白虎が悪意のあるなしを確認しているし、そもそも人避けの結界があるので、一般人なら無意識にこの敷地へ入る事を避けるはずである。




