第七章 学園の日常①
だいぶ長い回想になってしまったけど、こうしてオレは王室公認で聖剣の主となり、勇者候補となったのだ。
ちなみに、なぜ『候補』なのか? そして、なぜそんなオレが騎士の学園に通っているのか?
まず、今まで聖剣の儀は騎士、もしくは騎士を目指す者を中心に行われて来た。
そして、勇者になると最高位の栄誉として、騎士の中でも最上位である近衛騎士団へと任命される。更にその中でも、勇者はどこの命令系統にも属さない完全な独立遊撃隊となるのだ。
まあ、幸村以降、まだ勇者が出現した事がなかったので、実際にはそういう構想があるという話しだけど。
とはいえ、実際に勇者となったオレは、この国の騎士について何も知らない状態。ついでに言えば、この国に何の生活基盤もなかった。
そこで、全寮制でもあり王国最高位の騎士学園に入学して、この国の事を知っていってはどうかとソフィアに薦められたのだ。
しかも、学費、生活費免除。更には、一般騎士程度の給料まで出るという破格の好条件。
それと学園には、王室から戦地への派兵依頼や盗賊団の討伐、果てはモンスターの討伐依頼があるという。
参加は自由だが、その成果が学園の成績に加味される上、そこで大きな成果を上げれば国中に名前が知れ渡る事があるそうだ。
正直、成績の方にはあまり興味ないが、名前を売る事が出来れば明那へ向けてオレの存在を知らせる事が出来る。
一応、ソフィアにも明那を探して貰うよう頼んでおいたが、広い王国内から人ひとり探し出すのは難しいだろう。
通信技術の乏しく、情報の伝達速度が極端に遅いこの世界(まあ、元の世界が速すぎたのだが)。
やみくもに探すより、オレの名を広め明那の方から見つけて貰う方が良いと考え、この学園に入学を決めたのだが……
入学してから早一年。それなりにオレの名は広まっているはずなのに、明那とはまだ再会出来ずにいるのだ。
オレは学食の入り口が見えて来た所で、ひとつ大きなため息をついた。
『――――良いか? 昔から英雄、色を好むと言うてじゃな――って、聞いておるのか、主っ!?』
回想中のあいだもずっと、愚痴とも説教とのつかぬお小言をこぼしていた性剣が声を荒げる。
『聞いてるよ……でも、もう学食だ。メシくらい静かに食わせてくれ』
『ふんっ! まあよい。今日はこれぐらいにしてやるわ』
『お前は、めだか師匠か……?』
『めだか師匠……? 其奴、何者じゃ? まあ、主が師匠と呼ぶくらいじゃ、よほどの傑物――』
『いや、十五で成長の止まった、ナニワの小さいおっさんだ』
ドコがワシのようだというのじゃ! と、更に声を荒げる村正をスルーして、オレはげんなりと学食の入り口をくぐった。
体育館ほどの広さはあろうかという、大きくゆったりとした学食。しかし、昼休みも3分の2が経過しており、もう席の方はだいぶ空いているようだ。
さて、ファニの奴は……
入り口から少し進んだ先で、オレがキョロキョロ辺りを見回していると――
「お~いっ、アキラァ~ッ! こっちだ、こっちぃ~っ!!」
と、聞き馴染んだ声でお呼びがかかる。
入り口から少し離れた席。椅子から立ち上がり、コチラへと手を振る男子生徒の方へと足を向けるオレ。
そして、男子生徒の正面の席までやって来ると、まだグチグチと愚痴を言っている村正を鞘ごと腰から抜いて左隣の椅子へと立て掛けてから、赤い色をしたパスタとスープ、そしてコーヒーが手付かずで置かれていた席へと腰を下ろした。
「悪かったなファニ。オレ分まで頼んでおいてもらって」
「いいよ。未来の勇者様に恩を売っておいて損はないさ」
冗談まじりに軽い口調で話す学友へ若干眉をしかめるオレ。
それでも、その軽口に言葉を返す事なく、オレはすっかり冷めてしまっていた真っ赤なパスタを口へと運んで行く。
まあ、真っ赤と言っても、トマトベースではなく唐辛子系のパスタ。イメージ的には、麻婆パスタといった感じだ。
このウェーテリード王国は大陸の中でもそれなりに食文化が進んでいるって事なのだが、全体的に辛い味付けが多い。元の世界でいうと、四川風の中華料理が近いかもしれないな。
まっ、オレは辛いのも苦手ではないけど、明那などはお子様舌だからなぁ……
辛い物ばかりで、泣いてなきゃいいけど。
そんな事を思いながら早々にパスタを完食して、冷めたスープを一気に飲み干した。
「相変わらず、食べるの早いな……」
「まあな。でもオレのいた国には、女でもオレよりも早い奴がザラにいたぞ」
もえとかギャルとか木下とかな。
「マジかっ……?」
「ああ、しかも、このパスタくらいなら、十人前くらい平気で平らげる」
「どんだけ巨漢な女性なんだ、それは……?」
「いやいや。そういう女に限って細身なんだよ。多分、腹周りはエウルなんかより細いぞ」
「………………」
オレの言葉に世界の広さを知り、絶句するファニ。
ホント、彼女達の腹の作りはどうなっているのやら……
正に、女体の神秘だな。
紹介が遅れたが、オレがファニと呼んでいるこの男子生徒はクラスメイトのファニート=パーシヴァル。仲間内からはファニと呼ばれている、パーシヴァル男爵家の三男坊である。
まあ、男爵家と言ってもかなりの辺境らしくて、領民も少なく裕福とは言い難い家。しかも三男という事もあり、家を継ぐ事も出来ず、子供の頃から畑を耕して生活していたそうだ。
その分、お貴族様の風習にあまり染まっておらず、気さくなので付き合いやすい。
ちなみに、ルックスは中の中。成績も中の中。剣術も中の中。交友関係も広く、好奇心旺盛で何にでも首を突っ込む為に情報収集能力は高い。
正に、恋愛ゲームにおける典型的な親友ポジションキャラである。
「おい、アキラ……何か、すごく失礼なこと考えてないか?」
「いや、別に……」
本来なら鈍感系主人公の親友になるタイプなだけあって、中々にカンが鋭いじゃねぇか……
ジト目を向けるファニからそっと視線を逸しつつ、オレはコーヒーに口をつける。
口の中に広がる苦味と微かな酸味。さすが、お貴族様御用達の学食だけあり、冷めたコーヒーでも充分に美味い。
ちなみに、この学園の学食は食材からシェフまで貴族達の寄付で賄っているので、何を食べても無料なのだ。
「今日のランチは、中々美味かったな。出来れば、温かいうちに食いたいもんだ」
「勇者様になるのも大変だなぁ。で、今日のお呼び出しは三人だっけ?」
「いや、朝に一人の昼休みに三人で計四人。毎日毎日、勘弁して欲しいよ……」
「ホント、お疲れさん」
そんな感想を漏らすオレに、若干憐れみのこもった目を向けるファニ。
昼休みも残り時間は十五分程。しかし、午後の授業は自由参加の課外授業だ。
今日はもう疲れたし、単位にも余裕がある。午後は、学食でのんびりしていよう。
そう思い、まったりと食後の余韻に浸っていたオレ。
しかし、そんなオレの背後へ、フッと不穏な気配が近寄って来た。
「ねえ、ちょっとアキラ……なんかさっき、聞き捨てならないような言葉が聞こえて来たんだけど?」
「げぇっ、エウルッ!?」
正面に座るファニがオレの背後に現れた人物――女生徒をを見て、赤壁での敗走中、伏兵で現れた関羽を見た曹操のような驚き方をする。
「ふむ、噂をすれば関羽が来るとは、よく言ったものだ」
そう、現れたのは、日本の大食い女性タレントとのウエスト比較で、つい名前を出してしまったエウルという女生徒であった。
『主よ……噂をして現れるのは曹操の方じゃぞ』
『そうだっけ?』
『そうじゃよ。正確には、"说曹操、曹操就到"と言うて、曹操の話をすると曹操がやって来ると言う、明国のことわざじゃな』
この性剣。相変わらず変な事に詳しいな。
ちなみに、明国とは明時代の中国――コイツが日本にいた頃の中国の事だろう。
「って! 分かんない言葉でヒソヒソ話してないで、私の話しを聞きなさいよっ!」
そう言って、背後にいたエウルはオレの左手に回り、腰を曲げて顔をズイッと近づけてくる。
ちなみに、コイツのフルネームはエウルリア・トーレ。
ショートヘアーで、ちょっと勝気な感じの顔立ち。まあ、顔だけならクラスメイト補正を加えてた上で、ギリギリのおまけで美少女にカテゴライズしてもいいかもしれない。
この学園にしては珍しく、貴族の出身ではなく商家の出身。といっても、学園に多額の寄付をしている豪商、トーレ家のひとり娘である。




