第六章 聖剣の正体①
「――――という訳なのです」
「へぇ~、そうなんだ」
あのあと、すぐに洞窟へと入ったオレ達。ちなみにメンバーは、オレとソフィアにメイド達。そして護衛の兵士が十人ほどである。
その道すがら、メイドさん達の紹介に聖剣や勇者にまつわる伝承などを色々と語ってくれたソフィア。
まあ、聖剣については殆どが、リサやサーニャに聞いた内容と同じだったけど。
で、メイドさん達の方はと言えば、やはり年子の姉妹だった。名前は姉がアリアで妹がリリア。代々、王室にメイドとして仕えている家系だそうだ。
あと、年子という話しの流れで、おそらく二十代前半だろうと思いながらも、何となく年齢を尋ねてみたところ――
それだけで人を殺せるくらいの殺気と呪詛のこもった視線を返されてしまった。
直後、ソフィアが耳打ちして教えてくれた情報では、この世界における女性の結婚適齢期が15歳から19歳であり、二十歳過ぎると行き遅れ扱いされるそうなのだ。
にも関わらず、幼い頃からメイドの他に武芸の修行にも明け暮れていたせいで、彼女達は彼氏いない暦=年齢なのだという。
なので、この二人に対して年齢と結婚の話題は絶対にタブーなそうなのだ。
その後、程なくして落ち着きを取り戻したメイド姉妹に聞いた話しだと、この洞窟はそれほど深くはなく、ゲームみたいにモンスターが出るという事もないらしい。
更に少し前、オレ達の入った裏口からの道は正面からの本道と合流した。
先程までは正に天然の洞窟といった感じだったけど、本道に入ってからは床も壁も整備されおり、道も燭台の灯りに照らされている。
余談ではあるが、壁に等間隔で並ぶこの燭台。入り口に設置された魔法陣へ魔力を注ぐと、一斉に点火する仕組みになっており、その技術はこの国だけのオリジナルだという話しだ。
「ところで、ソフィア。前の聖剣の持ち主……初代の勇者の名前とかは伝わっているのか?」
「はい。初代の勇者様は、ユーキ様と仰られます」
ユーキか……
勇気、優希、有希……いや、四百年前で、この名前はないな。
その時代だと雪之丞とか雪之新が、愛称でユーキと呼ばれるようになったか。もしくは、名字が結城や優木だったか……
まっ、どうせ正解は分からないし、考えても意味ないか。
と、オレが考えるのを放棄したところで、ちょうど目の前に大きな扉が現れた。
「アキラ様、到着しましたわ」
彫刻の彫り込まれた木製の豪華な扉。
オレ達がその扉の前で立ち止まると二人の兵士が歩み出で、両開きの扉をゆっくりと開いて行った。
現れたのは、広さ的に学校の教室くらいの、それほど大きくはない石造りの部屋。
聖剣は約四百年前――戦国時代に元日本人がこの世界に持ち込んだ物だ。
となれば当然、日本刀の可能性が極めて高い。あとは使い慣れた刃渡り2尺3寸(70センチ)前後の太刀だったら言う事ないのだけど……
そんな期待を込めながら、部屋の中へと足を踏み入れて行くオレ。
そして、部屋の一番奥に置かれた台座に刺さる聖剣を目にした瞬間、オレは驚愕に目を見開いた。
おいおい……マジかよ……?
石で出来た台座。そこに突き刺さっていたのは、鞘も柄もない抜き身の刀。
冷え冷えとした荒い二重波紋に、妖しく光る刀身。そして、約三分一が台座に突き刺さっているけど、おそらく刃渡りは2尺3寸前後とオレの希望通りの太刀。
しかしだ……
刀身の茎――本来なら柄に収められている部分に刻まれた刀の銘を見た瞬間、オレは思わず聖剣に向かって、
「妖刀やないか~いっ!」
と、消えた一発屋芸人風のツッコミを入れてしまったのだった。
そして、そんな自分の身体に流れる芸人の血に逆らう事の出来なかったオレに向け、即座に反応したのがアリア、リリアのメイド姉妹。
「ちょっ!? ツ、ツチミカド様っ!!」
「聖剣に対して妖刀などと、いくらツチミカド様といえど、お言葉が過ぎますっ!!」
揃って眉を吊り上げ、超至近距離までズイッと顔を寄せて来る美人姉妹……
って、近い近い……
そして、胸が当たって……じゃなくてっ!
「ご、ごめん。失言だった……オレの世界で村正って言えば、妖刀って言われてたからつい……」
まあ、魔王を倒した聖なる剣と長年のあいだ崇め奉ってきた剣を、いきなり妖刀などと言われてば怒るのは当たり前。
オレは素直に謝罪の言葉を口にする。
しかし、その言葉にソフィアとメイド姉妹は、驚いた様に目を見開いたのだった。
「ム、ムラマサ……」
「どうしてその名を……?」
「その名は、王室に仕える者の中でも、一部の者しか知らぬはず……」
いや、どうしてと言われても……
「だって書いてあるし」
「あの文字が読めるのですかっ!?」
「えっ、ああ……うん」
メイド姉妹に代わり、今度はご主人様のソフィアがズイッと顔を寄せて来る。
たがら、近い近い……
しかし、残念ながら今回は若干大きさが足りず、胸が当たる事はなかった。
そんな成長期なお姫様の、超至近距離まで迫る綺麗な瞳から目を逸らす様に、もう一度オレは刀の茎に刻まれた文字へと目を向ける。
無骨に彫られた"村正"の文字。
そう、台座に突き刺さっていたのは、天下人徳川家康に呪われた禁忌の刀とまで言わしめた妖刀村正である。
まあ、村正の妖刀伝説はその殆どが後付けされた様な風評ばかりだけど、徳川家にとっては家康の祖父が村正で殺害されるなど色々と因縁があり、家康自身が恐れていたのは事実らしい。
「ん!?」
不意に、視線の先にあった村正から霊気が溢れ出した。
『くくく……なにやら騒がしと思っておったら、妖刀とはまた懐かしい名が出てきたのう……』
そして、突如聞こえてくる、嗄れた老人の様な声……
「な、なんとっ!?」
「せ、聖剣様が、お声を発せられた……」
その溢れる霊力と威圧感。そして、言葉を話す剣を目の当たりにし、ソフィアやメイド姉妹、そして兵達が揃って片膝を着き頭を下げた。
ただ、オレだけはその言葉に違和感を覚え、眉を顰めながら村正へと歩み寄っていく。
『ほぉお、言の葉を操る太刀を見て、驚きもせんとはのう……』
『まあ、物の怪の類は専門家分野だからな』
『ワシを物の怪扱いとは、無礼な小僧じゃのう……』
刀身へ手の届く位置で立ち止まると、オレは不満そうな声を漏らす村正をスルーして言葉を綴っていく。
『付喪神――長い年月を経た器物には魂が宿る事がある。見たところ、数十……百にも及ぶ数の人を斬り、その刀身を血で染めているようだし。そんな刀が、長年こんな霊気の濃い場所にいたんだ。魂が宿ったとしても驚かないよ』
『成り立ちとしては間違えておらんじゃろうが、付喪神などという言われ方は小物っぽくて好かんのう……』
愚痴っぽく話す村正に肩を竦めるオレ。
「お、おい……勇者様達は何を話しておられるのだ?」
「分からん……お前、分かるか?」
「い、いや……」
と、後方から兵達のヒソヒソ話しが聞こえてくる。
頭を垂れている兵達には――いや、異世界の人間には理解出来ないオレ達の会話。
それこそが、オレの感じた違和感の正体。
そう、さっきから村正とオレ達は日本語で話しているのだ。
「皆の者、静かになさい」
「勇者様と聖剣のお話――きっと、私達などが想像も出来ない、壮大なお話しなのです。邪魔してはなりません」
いや、単なる世間話だけどな。
声を潜める勘違いメイド姉妹に、オレは苦笑いを浮かべた。




